掌編 ウタちゃん
心の病気になって、入院して、ウタちゃんに手紙を書いた。中学を卒業してから、全然会ってないし、特別に何かあったわけじゃなかったから、絶対に変な奴って引かれると思ったけれど。お母さんに電話して、昔の年賀状で、住所を教えてもらった。
ウタちゃんは、近藤良太って名前で、みんなにウタって呼ばれてるんだよね。サッカー部なのに、サッカーはあんまり上手じゃなくて、でも本が好きだったんだ。
手紙に、今の自分をありのままに書けちゃって、なおさらポストに入れるのが怖くなった。だって、確実に怪しい女だもの。
わたし、ウタちゃんのどこに、受け皿を見出してんのかな。そんなこと思いながら、えいってポストに入れた。病棟から出てもOKになったから、そのまま、売店と、広場の方にも行ってみた。パジャマの上にカーディガンを着てたけれど、なんだかとても寒かった。
世の中には、もっと具合の悪い人がいるらしい。それなのに、しんどくなってる自分が、本当に嫌になって、恐ろしくて。走ったら自分を脱げそうだから、走りたくなって、でも走らなくて結局、中途半端に病棟に戻ってきた。
ウタちゃんから、返事が来たよ。
退院したら、ご飯に連れて行ってくれるらしいよ。だったら簡単に元気になるよね。返事の手紙をぎゅっと抱っこして、ずっとずっと眠れるよね。
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