とある男の日常〜K-POPアイドル編〜

「K−POPアイドルってさ、整形してるから全員似たような顔だよね」

僕が、リビングのテレビの中で、歌って踊っているK-popアイドルを食い入るように見ていると、風呂上がりの妻が背後でそう言った。

髪は濡れたまま、手にはカッサという変な形をした4000円の石を持って顎をゴリゴリと痛めつけている。小顔効果があるらしい。

僕は、振り返ると目に入った妻の保湿クリームの塗られた足を見ながらこう言った。

「顔はどうでもいいんだよ、重要なのは脚だから。脚」

そう、僕はK−POPアイドルをエロい目で見ている。

正直歌の良さとか、そこら辺はよく分からない。良い曲もあるが、それはエロの後についてきたおまけでしかない。

確かに妻の言う通り、K-POPアイドルたちは整形がスタンダードで、顔の見た目は大体同じように作り変えられている。
最近では夜の西麻布でも、同じ様な顔がスマホの灯りで顔を照らしながらたくさん歩いている。

しかし、僕の中でそんな事は全く重要ではない。

K−POPアイドルのあのスラリと長い脚。
そこは整形の仕様がほとんどない、無加工が”確定”しているエロスだ。

今振り返ると、僕は昔からそうだった。

一昔前、エッチなコラ画像が流行った時期。
エビちゃんの顔に誰かの裸が合成されたコラ画像を見ながら友達が、「こんなのエビちゃんの本当の裸じゃないのに抜けねぇよ」と呆れ顔で言っていた。

「確かにな」
なんて言いながら、僕はそんな言葉は上の空で、その合成された誰かの裸を凝視していた。

重要なのは、これがエビちゃんの本当の裸なのかどうかではない。
この裸が、この地上のどこかに存在する女性の裸であるという事だ。

それは紛れもない事実であり、目に見えて”確定”している。

その確定した事実のみが僕の抜きどころであり、僕の感じるエロスだったのだ。
エロス以外でも、白黒ハッキリついていないものや、曖昧なものなどを見たり感じたりすると、僕はいつもムズムズしている。
仕事なども、すぐに何かを確定させたがる。
恐らく僕は”確定”という言葉が好きなのだと思う。

「なるほどね、脚は整形してないって確定してるから好きなんだ」

妻が手に持っていたカッサを美顔ローラーに持ち替えながら、僕に言った。

「そうそう。細さは整形でどうにかなるかもだけど、長さとかはどうにもなんないじゃん」

すると妻がテレビに視線をやったまま、表情を変えることなく僕にこう言った。

「じゃあさ、私のどこが好き?」
「え、何急に」
「いいから言ってよ」
「…そりゃあ、優しいところとか、一緒にいたら安心するところとか…」
「それって、目に見えて確定してる事?」

……そう言われれば、そうだ。
優しいとか、安心するなんて、”確定”している事ではない。

うーん…思考を巡らせ、妻に答えを告げようと振り返ると、妻はもうそこにいなかった。
残っているのは、昔から変わらないお風呂上がりの妻の匂い。
正直、昔からこの匂いだったのかどうかは不確かだ。

だけど、僕は妻の風呂上がりのこの匂いが、どうしようもなく好きなのだ。

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