見出し画像

『のだめカンタービレ』でクラシック再勉強【その2】

知ってた曲も、知らない曲も、漫画『のだめカンタービレ』再読をきっかけに、じっくりと…聴いてます!漫画の登場人物が演奏する曲について語るシリーズ、<序>から始まって、【その2】です。


ところで、「同じ曲なら、どんな演奏者でも同じなの?」と思うかもしれません。違うピアニスト、違うヴァイオリニスト、違う指揮者…たくさんあって、何が違うの?どれを聴けばいいの?

パクチーの感覚で説明するなら、「同じ曲の演奏者違い」は、「同じアイドルグループの違うメンバー」。良く知らない人にとっては、グループ内のイケメン同士は、同じ顔に見えるかもしれません。が、ファンにとっては、「明らかに違う」。パクチーの場合、好きな曲でも、聴き始めて数秒で「もういいや」となる奏者がいます。「よく分からん」と。逆に、最後まで聴いてしまう人が、好きな演奏です。ピアノの調律の好み、空間の好み、解釈、実はどれも演奏者によって違います。「聴いてみたけど、良く分からん」と感じる場合、迷わず、違う奏者を聴いてみて下さい!


ガーシュウィン ラプソディー・イン・ブルー
Gershwin : Rhapsody in Blue

指揮をする人がいなくなったSオケは、ヴァイオリンの峰を中心に、独自に学祭の公演を企画。指揮科の生徒を指揮に迎え、演奏開始のその時まで伏せらていた曲目は「ラプソディー・イン・ブルー」。

作曲者は、アメリカ人のガーシュウィン。彼はクラシックの文脈に、ジャズを、真剣に持ち込んだ人として有名な作曲家です。ピアノとオーケストラのコンチェルトにアレンジされたこの曲は、全体の感じはクラシックなんだけど、ジャズの雰囲気がところどころに色濃く入れられて、ただクラシックに収まらない色彩と楽しさが溢れています。

今調べたら、ポップスの歌を作曲してたガーシュウィンは、オケのアレンジに当時はまだ精通していなくて、他の人がオーケストラアレンジをしたみたいですね。後年ラヴェルに教えを乞おうとしたりしている(そして「君は十分一流だから…」と断られている)。彼自身はユダヤ系の白人でしたが、黒人音楽に対して、心からの敬意とリスペクトがあったんだろう。彼のオペラ作品に『ポギーとベス』というのがあり、アメリカの象徴的な曲でもある「サマータイム」はその中の一曲なんですが、黒人たちを登場人物としたこの作品は、必ず、黒人の役は黒人が演じなければならないことになっている。そういうのって、本当に、本物の敬意だと思うんだ…泣ける…愛…。

ちなみに、本当のジャズの奏者には、もしかしたらガーシュウィンってすげ〜演奏しずらいんじゃないだろうか…。「あ、ここは跳ねないんだ」「こっちは跳ねるんだ」みたいな、びみょ〜なジャジーの入り具合、入らな具合が…なんと言うか、「東京の人のしゃべる大阪弁」みたい?

でも、完璧な大阪弁だったら、単に「ジャズ」で、彼の音楽はそれとも全く違う。これまでのクラシックにない新しい文脈に彼の音楽がなったのは、彼が、黒人文化に本物の敬意を持ってたから、だからこそ美しい新しさになったんだろう。

この曲のもともとのオリジナルはピアノで作曲されたということで、ガーシュウィン本人のピアノ・ソロバージョンがあった。オーケストラバージョンは、サックスあり、バンジョーありのド派手な感じだが、…すごい、すごい、良いじゃないの…!軽くてセクシー、色っぽくて、いい…!!!実際モテ男だったっぽい。38歳で早逝されている。残念である…。


ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第2番
Rachmaninoff : Piano Concert No.2 Op.18

作中で「超有名な曲」と言われてるが、初めてちゃんと聴いたっす…。全3楽章ある。学内の選抜オケ「Aオケ」の、学祭の演目。千秋がピアノ、シュトレーゼマンが指揮をする。千秋はこれで、ヨーロッパに帰るシュトレーゼマンと一旦お別れする。

難曲で大曲で、どんな曲も「むずかしそ〜」と思って聴くことすら敬遠していたラフマニノフ…。

聴くと…。

暗い!重い!

そして、優美だわ………!!

1楽章の出だしから、だんだんひたひたと迫ってくる地響き、冷たく重たい風の中を、のしのしと大股で歩いてくみたいな、い、良いわ〜〜〜〜〜重くて、暗くて、好きだわわああ〜〜〜〜〜〜!!!

ロシア人の作曲家ですが、ロシア系は、クラシックの中でも確固とした独立したポジションがあって、特徴がある気がする。きっちり構築されて重厚なんだが、ポピュラーミュージックのような、はっきりしたメロディーがあって、そのメロディーも長いフレーズで歌われる。そんな感じで、合ってる?

ベルリン・フィルの演奏を聴くと、1音1音の音の粒がきれいに聴き取れるように演奏されていて、ラフマニノフがものすごい、見事なオーケストレーションで作曲しているのが分かる。ピアノから色んな音が沸き起こってるみたいな、ピアノの残響をオケが奏でてるような、ピアノにエフェクトかかって色んな100通りの音色になってるような。こんなにもピアノとオケが不可分に一体になってるコンチェルトがあるんだ…。その代わり、10分の曲が30分くらいに聴こえる。

一方、ラフマニノフ本人がピアノを弾いてるコンチェルトもあって、そっちは体感5分くらいだった。「超絶技巧!」って感じの、和音がずっとガガガガガガって繋がる部分、他のピアニストがめいいっぱいやってるパッセージを、ほんと、おにぎり食いながらみたいなラフさで、ひゅるっと弾いてる…。

体感30分と5分の違い、これは…例えて言うなら、漫画ワンピースの最新刊と、第13巻の違いと言いますか…。彼の音をめいっぱい全部やると、すごい書き込みで、セリフの文字量も半端なく、1ページあたりがものすごい情報量なんですよ。しかし本人が演奏する場合、本人的には、頭の中には、すっきりとした明確な輪郭があって、起こしたいことはそういうことだったのか…と。この人、むちゃくちゃ手が大きくて、とても美しい響きのフォルテを弾く人だったらしい。なんたって、モスクワ音楽院ピアノ科を主席で卒業しております。本人以外が弾くと最新刊。本人が弾くと、第13巻。え。違う?

ちなみに千秋は、この曲で、「魅せる」という体感を獲得する。理性が強いんでしょうな。おそらく、人前で没頭するのを忌避する感覚があって、シュトレーゼマンが言っているのは、その先へ行け、という意味なんでしょう。それは自分に「酔う」んじゃなく、より、純粋になる、という意味です…多分。多分、わたしも苦手。だから分かる気がする。服装とか髪型などの「演出」が、自分も、お客さんも、より世界に入りやすいようにする下ごしらえなんですね。あと、ラフマニノフを演奏して、演奏後、舞台袖で立てなくて支えてもらう、というシーンも見たことある。使い切って、脱力してしまう。演奏って、そのくらい全身のエネルギーを使うんですね。わたしはその境地に至ったことがないが…!


ジョリヴェ 打楽器のための協奏曲
Jolivet :  Concerto for percussion

打楽器科で主にティンパニを演奏する真澄ちゃんの、卒業試験の曲。オケパートがピアノにアレンジされた伴奏を、千秋が直前に1度だけ合わせて試験で弾きます。全4楽章。一曲一曲は長くないですが、どれも、とりとめのない即興的な感じがずっと続く曲ですな。4楽章が面白くてつい笑ってしまった…。

打楽器の曲や作曲家は、全然無知でございます…。ジョリヴェも、『のだめ』で初めて知った作曲家です。そもそも、打楽器科について何も詳しくないんですが、打楽器科の人は、打楽器全般を扱います。ティンパニ奏者はティンパニだけじゃない。打楽器科に演奏できない打楽器はないのか?!女子も男子も、打楽器科がリハしているところを見た時は、むちゃくちゃかっこ良く見えた…。この曲もめくるめくと、さまざまな打楽器が出てきます。漫画にもいくつもの種類の打楽器が描かれてます。これを、ひとりで次々と持ち替えて演奏するのです。これ全部演奏できるのが打楽器科、すごいな〜!


リスト メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」
Liszt : Mephisto Waltz No.1, S.514

千秋が卒試に選んだ曲。この曲の着想は、悪魔メフィストフェレスが、悪魔的な能力で居酒屋に集う村人を魅了して、熱狂させた後、どさくさに乗じて娘をひとり攫って去るというシーンから取られている。タイトルはのどかだが、どろろろろろ…と印象的な、なんか悪魔的なイントロ。これでもかと派手派手な技巧がぎらぎらの曲だが、げしゃーん!ばしゃーん!と破壊的なサウンドに、とろ〜り甘々でベタなロマンスを、平気でぶち込んでくる、リスト。この方…。天才で、男前で、演奏で女を気絶させる魅力があり、ウィットもあり、愛の男である…。きっと、メロメロの極甘のセリフを、目を見て真剣に言えるタイプに違いない…(←偏見)。ショパンの一個年下って、知らんかった…もっと後の人だと思ってた…。

リストのピアノ曲は、わたしには山のような高い抵抗があって、戦う前に負ける。一番の問題は、わたしが楽譜通り弾いてもリストにならないところにある。でもな〜、家にある楽譜くらい、またチャレンジしてみようかな…。

この演奏が、とても分かる!物語のストーリーが見えるよう。


バッハ マタイ受難曲
Bach : Matthäus-Passion BWV 244

資産家である母親の実家にて、悪夢のせいで眠れなかった千秋が、ひとり、オーディオルームで聴く曲。

大学生の時、「一度は聴け」と言われて大学図書館で聴いた記憶があるが、全て忘れている…。「バッハの最高作品」「人類の傑作」とか言われたりもする。キリストが弟子に裏切られ、磔にかけられた後(受難)、墓に封印されるまでが、まるでセリフ劇のように歌われる、音楽物語である。身振りや演技はなく、あくまで演奏と歌で進行するのだが、この時、物語を進行する役を、エヴァンゲリストと言う。中二心ざわめく名称…。

全部で3時間以上あるから、聴こうと思うと気合いと覚悟と心のゆとりがいるが…これが案外、部屋でストレッチするBGMにしたら、とても癒されましたわ…!ちなみにドイツ語。


エルガー ヴァイオリン・ソナタ
Elgar : Violin Sonata Op.82

亡くなった千秋の母方の祖父は、事業家でもありクラシックの愛好家であった。膨大なコレクションと素養が、12歳で日本に帰って以降の千秋の感性を育てたのだろう。母方の家族は、それを守り、愛しんで大切にしてきたんだろうことが伺える。

音楽家の人のお家に行くと、レコードやCDが壁一面全部、天井までいっぱいにあって、音楽家であるということはこういうことだよな…と、がーんとなることがある。昔の資産家は、クラシックの音源や楽器のコレクションなど、文化的な造詣を非常に深く持っている方がままいらっしゃったと思うが、今の若い資産家というのは、どうなんだろう…。そしてあの相続はどうなっちゃうんだろ…余計なお世話だが…。

千秋のおじいちゃんが好きだったエルガーを、千秋とのだめで演奏する、朝の5時に…。日本から出られない、どこか未来のないような気持ちでいる千秋は、この曲で、のだめの音楽の中に救いを感じているように見える。無意識に絶望している心が、心を閉じ込めている意識の檻を超えて、音楽の中に掬い出されている。それが響きとなって、千秋の叔父家族の心にも影響を与える。

ここまでで、千秋は、人前で音楽を披露する音楽家として、段階を踏んでどんどん音楽の方へ心を開いていく。だけど、日本で、指導者もなく、導いてくれる人もなく音楽家を目指すことは、あまりに不確定で、精神が八方塞がりのようになるのだが、だとしても、どうせ音楽は手放せないのだ。そして最上の憩いはその中にある。と、毎回、のだめを通して、千秋は、そこから一歩先の光を見る。

だからこそ、相変わらず「幼稚園の先生になる」と言ってしまえるのだめに、千秋は必要以上に冷たく当たりたくなるのかもしれない。

聴いていると、なんだか、ヨーロッパ映画の…北の湖畔の…そんな彩度の低い、美しい景色が背景にあるのが感じれられるような音楽。


シューマン マンフレッド序曲
Schumann : Overture Manfred Op.115

ピアノ科の院に進んだ千秋は、自分が選抜したメンバーで学外オーケストラを結成する。「ライジング☆スター・オーケストラ(以下R☆Sオケ)」と命名され、初めてのコンサートが、夏休みに行われることになった。千秋は、覚悟を決めて、独学で、指揮者として公演のためにやれることをやり尽くす。本番では前髪も上げるしね!何といきなり1600人入る大ホールにて、有料チケットでの公演。その1曲目。

詩劇『マンフレッド』のために作曲された全幕15曲の、その幕前に演奏される序曲。シューマンは、隅々まできちっと配慮された、丁寧なものづくりの人、というイメージ。蝶番とか、一個もずれたり歪んだりしてる部分がない組み木の小箱。『マンフレッド』のストーリーは、『ファウスト』にも似た壮大なテーマ、らしい。序曲は、マンフレッドが人生に悩んで、その死までの、全編のダイジェスト的な作りになっている。


モーツァルト オーボエ協奏曲
Mozart : Oboe Concerto K.314

「R☆Sオケ」のコンサート、2曲目。ソロのオーボエ奏者は黒木くん。その後の物語で結構主要なキャラになる。良い人〜。

というかそもそも、音楽真剣にやってる人って、純粋に良い人が本当に多い〜。意地悪だとか性格悪い人はいるかもしれないけど、あと、ダメな人もいるかもしれないけど、悪人って本当にいないなあ〜と思う。そういうところも『のだめ』、再現性が高いなあと思う。

全3楽章。オーボエってどんな音?と思う人は、オーボエ協奏曲聴いたら、「かわいい〜」と思うかもしれない。ほわっとした、いかにも木管楽器らしい、癒し系の音色。しかし「かわいい〜」音を出すまでがものごっつ難しいのが、オーボエという楽器。

モーツァルトの協奏曲は、まずオーケストラの導入部があってから、ソロが始まる。モーツァルト流、パーティミュージック。華やかな明るい曲。


ブラームス 交響曲第1番
Brahms : Symphony No.1 Op.68

「R☆Sオケ」コンサート、トリの曲。ブラームスが21年かけて書いた交響曲の1作目なので、要素がたくさんある大曲だ。ブラームスは前述のシューマン「マンフレッド序曲」に触発され、自身も交響曲を書くことにしたらしい。でも書くならベートーヴェンに続く偉大なものにしようとして、21年かかった。この曲の理解のため、千秋は寝食を忘れて楽譜に没頭する。わたしは初視聴…。

全4楽章。2楽章が、ブラームスの美しい旋律を堪能できて好きだなあ。ブラームスは、わたしのイメージでは、素朴なものが好きそうな人である。チョコレートを包んだきれいな色のリボンとか…(素朴すぎる…)。だから壮大なものを書こうとして、ものすごく頑張んたんだなあ…と。千秋はかつてシュトレーゼマンに「ブラームスなめてんじゃないですヨ」と言われています。ロマン派で、素朴な美のブラームスのイメージで、雰囲気で流してしまうところがあったのかもしれません(いやいや、パクチーじゃないんだから!)。当時、大変評価されたらしい。良かったね!ブラームスさん!

そして、4楽章を聴いてびっくりする。なんじゃこりぁ!知ってる!みなさんも最初に出てくるメロディー、知ってるかも。


シューベルト ピアノ・ソナタ 第16番
Schubert : Sonata No.16 D.845

のだめは、クラシックのレッスンのトラウマと向き合って、コンクールに出場することを決意する。その、のだめが出場したコンクールの、一次予選の課題曲。繊細な短いメロディーが緻密に織られているような感じの曲。派手さはないが、ずっと一貫して、安定した美しい響きで、大きな織物を描かなければならない。

のだめにとって、ピアノは大好きなものなのに、レッスンが彼女に与え続けた抑圧のせいで、クラシックのレッスンは肉体的にも精神的にも受け入れ難いトラウマになっていた。だから彼女は3年間、大学のレッスンで自作の演奏だけをやってきた。

その彼女の、音楽に対する考えが、短期間でバキバキと変化する。

何故か。

千秋の指揮するブラームスの1番を聴いて、客席で膝をかかえて泣いてしまったのだめは、ある決心をする。千秋はずっと海外で音楽がしたいと思っているのに、12歳の時に乗った飛行機が胴体着陸したことがトラウマで、飛行機にも船にも乗れない。それを克服しようと叔父は催眠療法を受けさせるが、「ガードが固いタイプ」らしく、千秋は全くかからない。しかし、のだめがいたずら半分でやってみた催眠の真似事で、千秋はいとも簡単に眠ってしまった。

そう!千秋の固い心の扉は、のだめに対しては何故か、がばがばの、スカスカの全開なんである──!

本当にのだめが幼稚園の先生になりたいのなら、彼女はこれ以上クラシックを習得する必要が全然ないはずだった。なのに、のだめは、千秋が必ず海外へ行くのを分かって、千秋の気付かないところで、素人催眠でトラウマの解消をしてあげる。そして、千秋が必ず行くだろう海外に自分も一緒に行くために、留学の資金援助が副賞についているコンクールで優勝しようと、初めて!能動的に!真剣に楽譜に、レッスンに、クラシックの演奏に向き合うのだった。

シューベルトはそうして弾くことになった課題曲。そんな背景など知らず、自宅に合宿させて教え込む先生のガッツも、すごい。

と、このように、千秋が、自分のいる場所で最大限努力し続ける本気の姿勢は、周囲の人間の方向性に、少しずつ変化を与えるのだった。千秋が選抜した「R☆Sオケ」は、その主要メンバーが一年間しか参加出来ないので、期間限定であることに落ち込む気持ちがありつつも、最後には迷いや葛藤を捨てて、覚悟を持って千秋は音楽に打ち込む。すると、周囲は、生徒も、先生も含め、がっしゃんがっしゃんと、新しいステージに向かうために必要な歯車に切り替わるような変化を、自己変革を起こしていく…。ここの勢いが…ちょっと感動的だぜ…!


サン=サーンス チェロ協奏曲 第1番
Saint-Saëns : Cello Concerto No.1 Op.33

好評を博した「R☆Sオケ」は、儲けも出したことだし、早速再演が決まる。2回目のコンサートの演目のひとつが、チェロ協奏曲。全3楽章。

こりゃ〜、いかにも、「舞台映えする曲!」って感じですね〜。そういうのコンサートでは大事ですね〜。緩急がえぐいにゅ〜。あざとくって何が悪いの〜。これぞエスプリなんでしょうか。フランス人です。彼の音楽性のくくりは保守的だということになっていますが、彼が後続のフランスの音楽家に天才と崇められたのは、このセンスの部分じゃないか?聴きやすい!このバランスは…保守的と言われつつも、絶対にドイツ人ではありえない…。


ショパン 12の練習曲 作品10第4番
Chopin : 12 Etudes Op.10-4

のだめ、無事に一次予選を突破して、コンクールの二次予選の課題曲です。細かくて速い曲。エチュード(練習曲)、うーん。何と言ったらいいのかな…。

ショパンのエチュードを最初に聴いた時の感想、これ…練習曲という域じゃないよね…?と。まあ、だから、この手の曲に、「や〜、これ、練習曲だから。練習曲でいいわタイトル」、ってつけたショパンさんが、やっぱり常人とは全然違うピアニストだったってことの証明な気がします。こういうのが、全部で27曲ある。どれもこれも、テクニック的に「練習してよね」って課題が突っ込まれたいやらしい音形になってるんだが、非常に音楽的で、聴き映えもするので、演奏会で演奏されることも多い。

わたしはこの曲はアシュケナージの演奏が結構好きだったかな。メロディーラインがくっきりしてる。


リスト 超絶技巧練習曲 第5番
Liszt : Études d'exécution transcendante S.139 No.5

のだめの二次予選の課題、2曲目。これも…細かくて速い曲。ショパンの10-4が辛い激しい感情だとしたら、こっちの5番は気まぐれなピクシー風。副題は「鬼火」。

こちらも練習曲のタイトルついてますが…。南無…。全く歯が立たないので、語れることがない…。

しかし、上記のショパンと系統が似ている曲なので、聴き比べると面白いかも!ショパンは、最初リストを尊敬しているが、後年、技巧を偏重するリストに「フンッ!」ってなってる。前述の通り、ふたりは一歳差である。超絶技巧の突き詰めた先に、彼は行けるところまで行きたかったんだろうなあ。その場所は、音楽的に孤独ではなかったんだろうか。それとも、彼だけに当たるスポットライトを、彼は一人で受けて輝いていたのだろうか。

のだめも、同門下生の坪井くんも、無事二次予選を通過。ふたりを焼肉に連れて行くハリセン(先生)、良い先生だな…。

わたしはキーシンの演奏が好き。奇才キーシン…。


ドビュッシー 喜びの島
Debussy : L'isle joyeuse

のだめ、三次予選の曲。三次予選…大変大きなコンクールですね。なにせ大賞は賞金200万円ですし。受験者も大変です…連日会場まで、わっさわっさとドレス持って通うの、待ちも長いし、ちっとも練習出来ないよね。先生の奥様がサポートしてくれて、本当にありがたいね…!普通はドレスはレンタルします。音大の近くには貸しドレス屋さんがあった。おおよその出演時間から逆算して、ドレスやメイクの支度を楽屋でします。落ち着かない。メイクや髪型をちゃんとしたからって、実力には関係ないんだけどさ…。

この曲は、ドビュッシーらしさが良く聴ける曲かもしれません。ドビュッシーは、彼の時代までで、既に十分完成されていたクラシック音楽から、新しい、彼なりの方向を見つけ出さなければならなかった。そこで、バッハより昔の音楽、中世・ルネッサンス時代に使われ、その後忘れられてしまった旋法を、リバイバルして取り入れる、という発明をします。

中世時代のセオリーでその後禁則になった「連続五度」や、それとは別に「全音音階(音階のうち6音だけ使う)」という変わった旋律で、特有のオリエンタルっぽい響き、神秘的、質素さ、もやもやとした雰囲気を音楽の中に作る。それらはその後の作曲家に影響を与え、印象派(印象主義音楽)と呼ばれます。


モーツァルト ソナタ第8番
Mozart : Sonata No.8 K310(300d)

のだめ、三次予選を通過し、本選へ進出します。本選の3曲あるのうちの1曲目は、モーツァルトのピアノ・ソナタ。本選は千秋も、千秋のお母さんも見に来ます。

ぶっちゃけ、超絶技巧と違って、モーツァルトのこのソナタは小学生でも弾けるんですよ。ですが!指って5本全部、長さも太さも違いますから、それで音の粒を、真珠が転がるように、なめらかに繋げるのには、訓練された指と筋力のコントロールと、楽相の理解がいるわけですよな…。モーツァルトを深く追求したら、どんなピアノ曲も弾けると言われている…。それは嘘かもしれないが…。モーツァルトの音楽性は、その後の時代の音楽性を包括している、と、そういう意味だと思います。後続の音楽を美しく演奏する為に必要な基礎が全部入ってる。モーツァルトを本選の課題曲にするのは、そういう意図があってのことでしょう。あと、これは個人的な体感ですが、モーツァルトってめちゃめちゃエンタメ性が高い。電気もガスも水道もない、一期一会の世界で、裸でジェットコースターに乗ってる並の高さ。そういうところも楽譜から汲み取りたい部分です。


シューマン ピアノ・ソナタ第2番
Schumann : Piano Sonata No.2 Op.22

本選の課題曲2曲目。漫画でものだめのピアノを、「執拗」「緊迫感」「取り憑かれるように」と表現されてるが、シューマンが日常、常に半分、のしっと覆われていた、精神的な不安、重圧を、そのまま音楽に展開して頂いたような楽曲。だからこそなのか、シューマンのメロディーは時折、エゴを超えた純粋な美しさがある。とても美しいんだ…。

シューマンは後年精神病院に入っているが、長年、幻聴、肉体的苦痛、精神的苦痛に苦しんだ。とても聡明で、詩才も文才もあり、研究家としても素晴らしく、家族に対する愛も深い人だった。46歳で亡くなる頃には、四肢が不自由になっていた。単に精神を病んでいたのではなく、彼の死後の研究では、第三期梅毒によって身体機能が犯され、脳が萎縮していったとされている。く…辛い…。


ストラヴィンスキー ペトルーシュカからの3楽章
Stravinsky : Three Dances from "Petruschka"

のだめ、本選の3曲目。全3楽章あるのに、この曲は事前に全く練習ができず、前日夜に音源を一度聞いたきり、あとは行きの電車で楽譜を見ていただけという。1楽章は途中で飛んで、即興で乗り切る。それでも3楽章まで弾けるのだめがすごい。

ロシア人のストラヴィンスキーは、複雑な変拍子や調性を取っ払ったような新しい音楽(十二音技法)を展開した、音楽史に重要な作曲家です。主に舞台音楽と共に作品を残した人で、この作品も、当時最高にブイブイ言わせていた舞台人、ディアギレフの持っているバレエ団の、舞台作品のために作られたオーケストラ編成の曲でした。後にピアニストのルービンシュタインの依頼で、ストラヴィンスキー自身でピアノに編曲したらしい。非常に情景音楽的な作品。ちゃんと演者がいて、シーンがあるので、音楽が物語になっているのが良く聴こえます。ピアノ版は、バレエ作品版の「ペトルーシュカ」の、重要な3シーンを抜き出した、ダイジェストのような様相。一聴すると複雑な音楽ですが、登場人物の心情を反映の仕方は、むしろとても分かりやすいかもしれない。

特に3楽章は、見せ物、行商人入り乱れてのお祭りで、これ…のだめの作曲「もじゃもじゃ組曲」、森の動物たちが入り乱れて現れる、と、非常に通じる、の、かもしれない…!すごく、彼女の本質に、合ってる曲、だったのかもしれない…!

のだめは、ここでコンクールに落ちてしまう。

さて。

これで『のだめ』9巻の半ばまで来ました!


つづく!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?