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旅と香りと、カレーとある光

摩天楼の雪 融かされる日に
あと15分ばかりでJFKを追い  

連れてって 街に棲む音 メロディー
連れてって 心の中にある光  

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カレーの学校から派生したオザケンゼミの影響で、小沢健二の【ある光】という曲を近頃リピートして聞いている。1997年リリースで、彼がしばらく雲隠れする前の曲だが、聞いていると静かに再スタートの気持ちになる。  

この頃はそんな気分でもあったので、右も左もわからないJFK…ニューヨークにフラッ〜〜と来てしまった。…ものの、初のニューヨークに80年代のイメージしかない私は、完全に北斗の拳の荒廃した絵しか浮かばない。  

住んだことのある知人達に聞いてみると口を揃えて「全然平気、東京みたいですよ 」と言う。  

少々ビクつきながら空港を降りて見ると、歌詞にも出てきたJFKは、想像以上に小さく、アレ?っと拍子抜けした(ターミナル7だけかな)。
ラジカセ担いだヒップでホップな黒人も見当たらないし、雪で寒いのでサッサとウーバーを拾うことにした。  

車の中で街を眺めていると、少しずつ穏やかな気持ちになってきて、街の空気に意識を向けてみた。目的の無い旅の時は、大抵香りを意識する。

好きと感じた香りには自分が求めているものが隠されている
嫌いな香りには何か意味がある
何も思わない香りは今の自分に必要の無いものである  …

嗅覚による一瞬の反応は思考を挟まないため、損得や利害に影響される事がない。

香りを辿って旅をすれば大抵間違いは無い。  香りは私にとって「ある光」なのだ。

学生の頃から、時々どこか知らない遠くに行きたくて、色々な外国の街を訪れた。それぞれの街には特有の香りがある。今回初めて訪れたニューヨークの香りはちょっとだけロンドンに似てると思った。イギリスは20年前に2年程住んだ街だ。あれからずっと行ってないけれど、鼻に広がった香りに懐かしい気持ちでいっぱいになった。  

エンパイアステートビル。綺麗だけどキングコング出てきそう(←映画見過ぎ)。N.Yはヨーロッパに比べてノッポなビルが多い。都会のキラキラした街を歩くのは、魚になってふわふわ泳ぐ感覚だ。魚は自分が海の中にいる事を知らない。  

部屋に置かれたサービスの林檎。あれ、こんな名前の出版社があったよね☆  

ホテルに着き少し休んでいたらお腹がすいてきた。気楽な海外のひとり旅でちょっとだけ頭を悩ますのが夕方の食事だ。せっかくだから外の空気を吸いがてら出かけたいが、この時間に食事を楽しむ人々は100%カップルか仲間うち。昼は適当で済ませられるが夜は尻込みしてしまう。  

エスニックにしようかなぁ。  

ランクにもよるけれど、何処の国でも中華か、タイ料理は大抵1人でフラッと入れる。しかも、醤油などアジアの発酵文化から生まれた調味料の味はお腹にしっくりきて美味しい。食いしん坊の私はヨーロッパやアメリカの旅でいつも、お互い少しよそ者同士のアジア料理に助けられていた。  

でもこの数年の私には困った時に助けてくれるジャンルが一つ増えている。インドカレーだ。昔からカレーは好きだったのだが、CoCo壱かバーモントしか知らなかった私に、スパイスカレーの楽しさと美味しさと、これまでにない豊かな香りを教えてくれたのは2年前に参加した水野さんの料理教室だった。それ以来インド料理も好んで選ぶようになった。  

香りを想像したら、お腹がすいてきた。今日はカレーが間違い無い気がする。  

Saravanaas Indian Vegetarian Restaurant
19ドルくらい。  

前に何かの連載で水野さんが載せていたレストランが滞在先の2ブロック歩いたところにあったので行ってみた。シンプルなチェーン店な感じ。オシャンティなガイドブックに載ってる所よりも誰かが話してたり勧められた場所に行く方がワクワクする。そんな旅の仕方が好きだ。

席に着くと、隣の席のカップルの会話が耳に入ってきた。どうやらスパイスの話をしている。
ふと、スパイスには花言葉はあるのだろうか…と思いついた。
スマホで調べてみると、例えばこんな風だった。  

・コリアンダー…【隠れた価値】  

カレーの授業でコリアンダーは他をまとめてくれる調和のスパイスって習ったから、なるほど確かに【隠れた価値】な気がしてきた。  

じゃあ、他の基本なスパイスはどうだろう…。  

・カルダモン…【燃える想い】
・ターメリック…【乙女の香り】
・パプリカ…【君を忘れない】  

胃には優しいが、なんか重いカレーが出来そうな…。花言葉興味深い…。  

そんな事をちまちま思っていると、ターリーが目の前にやってきた。  

良い香り。
あっという間にお腹も心も満足になった。  

帰り道、教えて貰ったスパイス屋さんにも行ってみる。ここは圧巻だった。まるでハーブとスパイスの博物館。

こんなレーンがいくつもある
Kalustyan’s ..123 Lexington Ave, New York, NY 10016

この棚は全て唐辛子...。

スパイスの品揃えにとにかく驚いたが、同じくらい興味深かったのはハーブ類には、コレは免疫系に良いとか代謝を助けるとか...、まるで薬のような効能が書かれていたこと。日本の薬機法の下ではあり得ない。そもそもは、植物や食べ物が人間の心や身体を整えてきたんだなぁ...。

面白過ぎて気づいたら2時間近くたっていた。

長い旅の初日が終わってふとカレーの事を思う。実に不思議な食べ物。(正確には水野さんの発信するカレーに…だと思うのだが) 。ブレーメンの音楽隊のように、どんどん人が集まってくる。すると素敵な化学反応が起きて、新たな事が始まる。  

そして私はカレーの味も好きだが、香りが何より好きだ。だから香りの豊かなスパイスカレーに出逢って好きが加速した。本能が喜んで、私を色んな世界に連れて行ってくれる気がしている。

連れてって 心の中にある光  

明日はどんな香りに自分が反応するんだろう。鼻が喜び赴くままに旅を続けてみようと思う。  

“let's get on board"

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