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【止まらない風ぐるま/Little Parade】ひっそりとAqua Timezの続きの息遣いを聴く【アルバムレビュー】

早いものでAqua Timezが解散してから2年以上が経つ。

解散したメンバーの中の現在は、楽器教室の講師・主婦・サラリーマンなどと様々だ。(ちなみに40代で民間企業にポテンシャル採用された元ドラムのTASSHI氏はマジで凄いと思う)

そんな中、Aqua Timezのほぼすべての楽曲の作詞作曲を担ってきた元ボーカル・太志は、密やかにLittle Paradeという名義でソロ活動を立ち上げていた。

そのLittle Paradeの1st アルバムとなる『止まらない風ぐるま』という作品が、先日リリースされた。

今回はこのアルバムをレビューしていく。

0.総評

アルバム全体を通して、強く感じたことが4つある。

第一に、シンプルに曲が良い。収録各曲のメロディーラインの良さ、歌詞の繊細さなどはAqua Timez時代から健在だった。曲自体の完成度は高く、かつ太志らしさが存分に残っているのでAqua Timezの曲に多くを救われてきたファン達はこの先もLittle Paradeの音楽に救われ続けるのだろうと思う。僕自身も、太志が今も音楽活動をしてくれているというだけで嬉しい。

第二に、Little Paradeは決して太志の完全なる再スタートというわけではない、Aqua Timezの続きであると感じた。一般に『バンドが解散して元メンバーが別名義で活動を再開する』と言うと、過去との決別やイチからの再スタートを想起させるものが通常である。しかし、Little Paradeというプロジェクトは明確にAqua Timezの延長線上にあるものだと思う。

たとえば、1曲目の『on the BLEACHers』という曲はタイトルからして明確にAqua Timezを意識している。Aqua Timezは人気漫画『BLEACH』の主題歌を数多く手がけてきた。『千の夜をこえて』『ALONES』『Velonica』『MASK』…これらすべて、BLEACHのアニメの主題歌である。

また、3曲目『色彩の行方』の2サビには

何故ですか 一度の夢を見て 千の夜をみんなで乗り越えていけたのは

という、Aqua Timezの代表曲のひとつ『千の夜をこえて』を彷彿とさせる歌詞がある。

というかそもそもこのアルバム、曲によってはサポートとして元Aqua Timezのメンバーもレコーディングに参加している。そんなわけでLittle ParadeはAqua Timezを良い意味で振り払えていないプロジェクトであると言える。

その他にも太志がLittle ParadeをAqua Timezの延長線上に位置づけていることが読み取れる繊細な歌詞が散りばめられており、これについては各曲のレビューで触れていきたい。

第三に、おそらく太志はLittle Paradeを商業的に成功させる気がまるで無い。この記事を読むまで、Aqua Timezの太志がソロで活動していることを知らなかった人も多いのではないのだろうか。それどころか、「え?Aqua Timezって解散してたの?」という方もいるかもしれない。

太志本人にしろ、Little Parade公式にしろ、Little Paradeを積極的にマーケティングしていこう!という姿勢はまるで見られない。むしろAqua Timez時代からのコアなファンとの繋がりを持ち続けるためだけの活動とさえ思える。

そう、良くも悪くもLittle Paradeはひっそりと人知れずあの日の続きを口ずさんでくれている、そんなプロジェクトなのだと思う。

ただ、それでLittle Paradeのスタッフたちが食っていけるだけ稼げるのかということについては若干不安が残る。僕自身ももはやLittle Paradeが売れてほしいとかそういうことは全く思っていないし、Aqua Timez時代ほど熱狂的にLittle Paradeにハマっているわけではないけども、ちょっとだけ心配になる(余計なお世話ではある)。

第四に、絵師のTono氏と組んだことで今後の曲作りに制約が課されてしまわないかという懸念がある。ここまであたかもLittle Paradeが太志の完全ソロ活動かのように書いてきたが、実際のところは少し違う。Little Paradeでは太志はTono氏という絵師とタッグを組み、風詩(ふうた)というユニコーンを模した可愛いキャラクターを主人公に、

風詩(ふうた)の目から見えるもの【art】口ずさむもの【words】耳にするもの【music】を繋いでいく

というコンセプトで曲を作っていっている。要するに、新曲のMVやCDのジャケット絵など、ありとあらゆる場面でtono氏の手掛ける絵やアニメーションが採用されている。Tono氏の絵は、後述する各曲のMVを見て頂ければわかるように、非常にハートフルで柔らかいタッチが特徴的である。これは、バラードには非常にマッチしている。しかし、太志は激しいロック調の曲作りも得意としているし、バラードだからといって全ての曲がTono氏の絵柄にマッチするわけではないだろう。

つまり、Tono氏の絵をイメージして曲作りをしてしまうことで、太志の書く曲の幅が狭まってしまうのではないかという不安がある。


総評が長くなってしまったが、ここからは各収録曲についてレビューしていく。

1.on the BLEACHers

Little Paradeとしてのトップバッターを飾るのは、総評でも触れたようにAqua Timezが数多くの主題歌を手掛けた『BLEACH』を強く意識しているこの楽曲。

『ALONES』と同様に、ロック調ながらもどこかラテンの趣も感じる、そんな1曲になっている。繊細なアコースティックギターと激しいバイオリンの絡み合いが見事。曲としてのカッコ良さを追求した1曲になっており、本アルバムの中では比較的メッセージ性が薄い。そのためテンションを上げたい時などに気軽に聴けるだろう。

漫画「BLEACH」の最終章「千年血戦篇」を彷彿とさせる歌詞もあり、かつてAqua Timezの成長を支えた「BLEACH」というコンテンツに対する愛情が感じられる。

”bleacher”は英語で「観覧席」「外野席」という意味で、連載が終了したBLEACHや解散済のAqua Timezを外の視点から眺め振り返り、確かにBLEACHもAqua Timezもしっかりと歩んでいたことを確かめる、そんな歌詞になっている。

2番サビの

本当の意味で君を想い出すために ほどけるしかなかった 有り難きを知る為に

という歌詞からはAqua Timez解散についての太志の想いを覗き見ることができる。太志は本当にこういう「自分のことを描写しているのに誰しもが思い当たるフシがある」ような歌詞を書くのが上手いと思う。

ちなみにこの曲はギターもベースも元Aqua Timezのメンバーがレコーディングに参加している。もう実質Aqua Timezの曲でしょこれ()

2.ユニコーンのツノ

現状Little Paradeの曲でMVが付いているのはこの「ユニコーンのツノ」と「色彩の行方」「寂恋」の3曲である。一番最初に公開されたのがこの「ユニコーンのツノ」で、まさにLittle Paradeの自己紹介のような1曲だ。

曲の概要は、太志が元Aqua Timezのメンバーたちに対して抱いている想いを綴ったバラードとなっている。太志はわりと我が強く、自分の主張をAqua Timez時代に何度も押し通したことがあると思う。そういったことに対し、

鉄の意志なんかよりも 柔らかい心が欲しかった

と歌っている。風詩くんが自分のツノを振り回してしまったばっかりに周囲の大切な仲間を傷つけてしまった、といったところか。

正直僕は柔らかい心よりも鉄の意志の方が圧倒的に欲しいので共感しかねるが、太志の元メンバーたちに対するちょっとした後悔が赤裸々に書かれているのは良いと思う。

2番Aメロのラップは流石。ラップというとアップテンポな曲に組み込まれているのが一般的だが、太志はバラードにラップを埋め込む能力が本当に高い。

3.色彩の行方

「何かを手に入れるためには何かを捨てなければならない」というメッセージをあの手この手で美しく描写したポップスナンバー。

歌詞の中には「マッシュポテト」「黄色い自転車」「夕焼け」「青いクレヨン」「赤いクレヨン」「弁当箱」「赤白帽子」「ブロッコリー」「いちご」…色彩豊かな単語がそれこそ美味しそうな弁当箱のように散りばめられている。総評でも触れた通り「千の夜をこえて」を思い出させる一節もある。

この曲の聴き所は圧倒的にキャッチーなメロディーと、元気よく飛び跳ねるエレキギターだと思う。

4.群雨

このアルバムの中で一番好きな曲。タイトルの読み方は群雨(むらさめ)。

Aqua Timezの最初期に見られた、劣等感や鬱屈とした感情の中にほんの僅かな前向きさをもがき手探りするような歌詞が特徴的。激しいピアノと畳み掛けてくるようなサビを聴いていると本当に土砂降りの雨が降っている情景が目に浮かんでくる。去年の夏にファンサイトで一度だけお披露目されたことがあり、それからずっと音源化されるのを待ち望んでいた。「色彩の行方」「寂恋」も良い曲だが、この曲にMVを付けてほしかった…。

歌詞のすべて一字一句が胸に突き刺さる。太志曰く「この曲もAqua Timezのことを想い出しながら書いた」。それでも、それ以上に誰にでも刺さる部分があるような曲だと思う。以下に特に好きな一節を抜粋する。

威張れるもんなんて そもそも一つもなくっていい
誰に威張んだ 励まし合ってやっと生きていけるような世の中で

そして、生歌が決して上手いとは言えず、歌詞の良さを最大の武器にしてファンを引っ張ってきた太志が、この曲を

言葉はいつも迷子になって泣きじゃくるから またこうして歌っていよう 言葉ほど虚しいものなんて無いから

と歌って締め括るのもまた良い。

5.ウィスキー

感情の起伏が激しい見事なピアノに太志の静かな声が見事に乗ったポエトリーリーディング。太志は父親を18の時に亡くしており、これは天国にいる父に手向けた1曲となる。歌詞自体は2014年ごろには存在しており、詩集やファンブック等でお目にかかることができた。

歌詞の中身がシリアス過ぎて、作業中に流し聞きしようものなら涙腺が集中力を壊してくる。

Aqua Timez時代からもポエトリーリーディングの楽曲は複数存在していたが、そのどれよりもこの「ウィスキー」が圧倒的に感情の乗せ方が上手になっている。

6.寂恋

かつては恋人と同棲していた主人公の、別れた恋人を寂しいと想う気持ちが極めて表現力豊かに精緻に綴られているバラード。読み方は寂恋(じゃくれん)。

太志が書いてきた多くのラブソングに共通して流れているテーマは「寂しさ」であり、メロディーの良さも相まってその集大成とも思える1曲。

太志の歌詞は、つらいことがあったときに「どう立ち直るか」「どう乗り越えるか」よりも「どう悲しみを味わうか」「どうつらさを受け容れるか」にフォーカスしたものが多い。

それはラブソングでも同じで、「どう失恋を乗り越えるか」よりも「どう失恋を引きずるか」がこの曲のテーマになっている。

うつむいたらもう逢えないような気がして
前を向いて生きてるよ
きちんと、あの日を引きずりながら。

という歌詞は、この曲の主人公が別れた日であり、Aqua Timezが解散した日のことでもあるのだろう。


さて、実はこのアルバムにはシークレットトラックとして7曲目が収録されている。実は、この7曲目の存在が何よりもLittle Paradeが「新たなスタート」ではなく「Aqua Timezの続き」であることを示しているのだが、これは買った人だけのお楽しみとしておこう。

以上

ぶち

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