2021年8月の薬機法の改正でライターが気をつけたいこと

2021年8月に、薬機法(旧薬事法)が改正されました。

商品紹介記事とかコピーライティングとかをしていくうえで、気をつけないとヤバいことになりそうだな、と思ったので、ちょっとまとめています。
かなり厳しくなったので、今まで通りの運用をしていると違反になるかもしれないからです。
自戒を込めてまとめました。

薬機法の注目ポイント

薬機法は、かつては薬事法と呼ばれていましたが、2014年に法改正され、それに伴って薬機法と呼ばれるようになっています。

めっちゃ雑に要約すると、「毒とか劇薬とか薬とか、化粧品とか医薬部外品とか医療機器とかをちゃんと区別して、規制して、保健衛生を良くしようね」という目的があります。課徴金制度があるため、違反すると罰金的なものを支払わないといけなくなります。

たぶんですが、上記のうち「区別して」と「課徴金がある」ところがめっちゃ重要だと思います。

例えば健康食品は、「栄養機能食品」、「特定保健用食品(いわゆるトクホ)」、「機能性表示食品」、それら以外である「一般健康食品」があります。

そして、許可されている表現がそれぞれ異なっています。例えば健康食品はあくまで「食品」であって、「薬」ではないと区別されています。その区別を超えて、まるで薬であるかのように効果を謳うことが違反となります。
化粧品も「薬」ではないと区別されています。薬のような表現をすると違反です。

薬機法は、薬などの表示に関して決めているものですが、食品などの薬ではない品物が、薬の領分に入っていった場合にも適用されるわけです。

薬機法の改正ポイントは「何人も」

なんで今回の改正が本気だなぁって感じたかというと、規制の対象が「何人(なんびと)も」に及ぶからです。だれもかれも、ってことですね。

かつては、規制対象はサービスや商品の提供者のみでした。だから、ぶっちゃけ、広告代理店とか制作会社とかライターとかデザイナーとかは、どんなに過激な表現をしても罰せられなかったのです。少なくとも逃げの口上がありました。
違反表現がある広告を依頼した広告代理店も、広告を作った制作会社も、それを書いたライターも「いやぁ、クライアントがそう言うからさぁ~」と言って逃げていた(というか、規制の対象になっていなかった)のがこれまででした。

ですが薬機法が改正され、だれもかれもが規制対象になるようになったので、違反表現をしちゃった人は、だれもかれも違反者になるし、課徴金を受ける可能性があります。
かつては「クライアントがそう言うからさぁ~」で逃げられていた広告代理店もライターも、罰金的なやつを払わないといけなくなりました。

景表法と薬機法

景表法は、優良誤認とか有利誤認とか、要するに「買う人が誤解しちゃう表現」を規制するものです。

こちらも課徴金があり、違反すると罰金的なものを払わなければなりません。

ライターがコピーを考えたりするときには、主に優良誤認のところに注意することになると思います。合い挽き肉なのに牛肉100%とウソつくとか、実際はアンケートをしていないのに満足度100%と書くとか。
ウソがダメなのは分かりやすいと思いますが、誤解されそうな表現もダメ、という点が大事です。

ですが、一旦、優良誤認については薬機法のほうだけ注意しておけばいいかな、と思います。理由は、薬機法のほうが厳しいから。薬機法を守っておけば、だいたい景表法も守れそうだからです。

例えば「打ち消し表示」。
打ち消し表示とは、注釈とかでちっちゃく、「※個人の感想です」とか書いておく、アレです。
景表法は、やり方を守って打ち消し表示をしていれば、OKになる表現もあります。ですが薬機法だと、NGな表現の場合、どんなに打ち消し表示をしたとしても許されません。薬機法は、「個人の感想です」で逃げることができないのです。

大丈夫そうだけど薬機法違反となりそうな表現の例

表現規制と効果表現との間で、長年いろんなバトルが繰り広げられてきました。
良く言うと、「商品の良さを知ってほしい制作者側の努力」です。
悪く言うと、「こう言えば消費者は誤解してくれるし規制にも引っ掛からない、というズルい表現」です。
そういうズルい表現も、実はけっこうグレーだったり違反なものが多かった、というのがこれまででした。
そして今回の薬機法改正によって、制作者も違反を問われることになったので、クライアントのために良かれと思って行った巧みな表現のおかげで、制作者側が課徴金を課される可能性も出てきました。

違反になる可能性があるけど、けっこう使っちゃいがちなヤツを軽くまとめたので、参考にしてみてください。
なお、明確なウソとか、成分のごまかしとか、そういうやつは圧倒的に違反なのでやらないようにしましょう。

打ち消し表示による逃げ

注釈による打ち消しをしても、言っちゃダメなことを言っちゃってたらダメです。注釈を大きく明示すればいいとか、そういう問題ではなく、ダメです。個人的には、これが一番やっちゃいそうで厳しいと思います。
NG例)
・「これを飲み始めてから、2ヶ月で5kg痩せました。」※個人の感想です
・1日に必要な栄養素※を配合 ※1日に必要な栄養素とは、ビタミンCのことです

!?を付けて、言い切りじゃない感を出す

私がかつてテレビ業界に居たときは、「ヤバそうなら『!?』付けとけ」と言われたものです。『!?』は、『?』なので、言い切りではないからOK、みたいなニュアンスなのでしょう。
もちろんダメです。
NG例)
・血圧の悩みを解決!?
・これを飲めばお腹の調子が!?

一定の条件をクリアすれば可能な表現を、クリアせずに謳っている

栄養素の含有量が規定値以上であること、公的な機関に届け出て認可をもらうこと、などの条件をクリアすることによって、可能な表現は増えます。それをクリアせずに謳ってしまうと違反となります。

競合他社や市場で目にした同種の製品で使っている表現を見て、「これはOKなんだな」と思って安易に導入すると違反になる可能性があります。
「なんで? 〇〇社は『痩せる』って書いてるじゃん、ウチも書こうよ!」みたいなことを指示されても、やめておきましょう。その〇〇社は、たぶん認可を受けているはずです。認可を受けていないのに謳っているなら詐欺商品なので、そんなものと同じ土俵には上がらないべきです。
自社の製品が、その表現の使用を許可されているかどうかで判断しましょう。
栄養素の配合量、どのくらい含まれているか、「痩せる」などの具体的効能の表現がこれにあたりそうです。
NG例)
・健康成分
・〇〇に効果がある
・太ってきた方に/血圧が気になる方に
・アンチエイジング/若返る
・疲労回復

誤解を招く暗示

トイレに座る絵と一緒に、効果音で『ドバドバ!』とかもダメです。明らかに、「便秘が改善する、と誤解させるための表現」だからです。ちゃんと便秘が改善する、という表現の使用許可を得てから使いましょう。
このような、マンガとかアニメとかで、言葉ではなく絵や擬音で伝えるのもダメです。
「勝手に消費者が誤解しただけですぅ~」という言い訳も使えません。暗示的な表現も違反にあたるからです。

この言葉、売れそうだな、と思ったらチェック

表現的に何がOKで何がNGか、迷うことがあると思います。もし知らずに違反表現を使ったとしても、罪に問われる可能性があります。そして改正によって「何人(なんびと)」も罪に問われるようになったので、以前よりもリーガルチェックの重要性は増しています。

自分が作った文章やコピーを見て、「これ、売れそうだな」「表現として強いな」と思ったら、ぜひ一度チェックしてみることをオススメします。
『思いついた表現+薬機法』でGoogle検索してみてください。

表現側と規制側の長年のイタチごっこで、だいたいの表現は規制がかけられているか、許可が必要になっています。今さっきパッと思いついたような表現は、だいたい過去に誰かが思いついていて、すでに規制されています
少し前に体験談風のマンガ表現が新しい広告手法として世に出てきましたが、「個人の感想、といった打ち消し表現では逃げられない」という規制がすでになされています。
擬音によるドバドバとかプルンなども、「実質的に『傷病に効果がある』『若返り効果がある』と謳っていると同義である」という判断がなされます。

場合によっては、「薬機法のせいで詳しくは言えませんが……実はスゴイんです!」といったコピーも、不適切としてしょっぴかれる可能性があります。

おそらく超天才コピーライターなら、ドラスティックなパラダイムシフトを起こす表現を思いつくのでしょう。そうでないなら、ちょっとだけ立ち止まってチェックしてみてください。その表現は、過去に誰かが思いついて実施し、そしてすでにNGになったものかもしれません。
仮に超天才コピーライターでも、ちょっとチェックするくらいはしても害になりませんしね。

まとめ+追記

基本的に、YouTubeとかネット記事まとめとかに出てくるクッソウザい健康なんちゃら系のCMは、全部ぜんぶぜーーーんぶNG表現ばっかりです。
ああいったクソウザCMが淘汰されるので、基本的には薬機法改正はうれしいことです。
これらは、消費者を「不誠実な商品から守る」ためのものなので。そして我々は、制作者であると同時に消費者でもあるので。


……なんてことを書いていたら、YouTubeやYahoo!をはじめとした各種プラットフォーム側が、不適切な広告を表示しないようになってきました。
ユーザーを騙すダークパターンについても書きましたが、やはり広告を表示するプラットフォームはユーザー商売なので、ユーザーに嫌われるような不誠実なことは潰していく流れにあるようです。
それらの件も、いずれまとめます。

制作を行う者の矜持として、「自分も一人のユーザーであること」を意識し、自分がされてムカつく表現はしない、というルールを掲げておくと、いろんな場面でいいんじゃないかなぁと思います。

それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。

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