見出し画像

HAGISO宮崎さん・北川さんインタビュー「偶然を味わうカフェとして」

今年の9月に、いよいよアートセンター『BUG(バグ)』がオープンします。そのオープンに先駆けて展示スペースの隣では、併設のカフェ『BUG Cafe(バグ カフェ)』がトライアル営業をスタートしました!運営を担当しているのは、谷中にある複合施設の運営をメインに、さまざまなユニークな施設や店舗をプロデュースし運営する株式会社HAGISO(ハギソ)。今回は代表取締役の宮崎晃吉さんと、飲食部門マネージャーの北川瑠奈さんにお話をお聞きしました。

『BUG Cafe』という存在を知ることで、『BUG』という場所を別角度から探ることができる内容になっています。ぜひ、最後までお楽しみいただければと思います。

―まずは、株式会社HAGISOの活動の原点である谷中の複合施設『HAGISO』について、教えてください。

宮崎さん(以下、敬称略):『HAGISO』はもともと、1955年に竣工した『萩荘』という2階建ての木造アパートでした。僕が東京藝術大学に通っていた時に、偶然このアパートを5、6人の仲間と一緒に借りることになって一時期住んでいたんですが、2011年の震災後、老朽化の問題から取り壊すことになってしまったんです。お葬式ではないけれど、最後に何かできたらと考えて、20人くらいの建築家や美術家の卵たちが集まって一人一つずつ作品を作り、『ハギエンナーレ』と称したアートイベントを開催しました。すると、3週間で1,500人が見に来てくれたんですよね。その様子を見た大家さんが「取り壊してしまうのは、もったいないかもしれない」とおっしゃったことから、一緒に『萩荘』を存続させるためのプランを考え、結果的に僕らがまるごと買い取ってリノベーションを行い、新たな施設として運営することが決まりました。それが「最小文化複合施設」と呼んでいる『HAGISO』です。

小さなアパートではありますが、地域にとっての文化施設を目指す場所として、ギャラリーやカフェ、サロンやホテルのレセプションなど、多様な要素を取り込んだ文化施設として2013年から運営をスタートしました。

―『BUG Cafe』のコンセプトを教えてください。

北川さん(以下、敬称略):コンセプトは、「偶然を味わうカフェ」です。何気なくコーヒーを飲みに来たお客さんに絵を見るきっかけを与えたり、思わぬ出会いが起こったり、そんな瞬間を作り出す場所として運営していきたいと考えています。

コーヒーを飲む時間の中にアートというものを取り入れることで、いろいろな捉え方ができると思うんですね。例えば、このカフェでは席に座ると全面ガラス張りなので、自ずと街行く人が見えます。その窓の手前にコーヒーを置いてみると、「大衆の中のコーヒー」といった一つの作品が出来上がるんじゃないかなと思っていて(笑)。みなさんお忙しくされているので、なかなかそんな風には考えられないかもしれませんが、私たちが提供するコーヒーやフードを通じて、いつもとはちょっと違うカフェ体験をお届けできたらいいなと思っています。

―「偶然を味わうカフェ」というコンセプトを、特に体現しているメニューや試みを教えてください。

北川:一番は、「はちあわせコーヒー」ですね。これは何かというと、お客様が5杯分のコーヒーチケットを買うと、1枚がおまけでついてくるんです。もちろん、この1枚を自分自身が使うこともできるんですが、知らない人に向けて奢ってみるという体験をしてみませんか?というものがこの「はちあわせコーヒー」です。この1枚のチケットに、例えば「誕生日が一緒の人へ」とか「今日、二日酔いの人へ」とかを書くんです。それを見た別のお客さんが「あっ、これは私のことだ!」と思えば、そのチケットを使ってコーヒーを飲む。善意や良心からの贈り物というよりは、もっと気まぐれでいたずらな行為を循環させてみようという思いから行っている、偶然の出会いを生む仕組みになっています。

トライアル営業が始まって、約1ヶ月。既にコーヒーチケットを購入して、この取り組みに参加してくれているお客様もちらほらいらっしゃいます。今後この取り組みを通じて、さまざまな出会いが生まれることを期待しています。

―その他、実際に提供している『BUG Cafe』ならではの特徴的なメニューや試みにはどんなものがありますか?

北川:『BUGショコラ』は、「この世界に、バグを」という『BUG』全体のコンセプトからヒントを得てレシピ考案したジェラートです。見た目はちょっとコンクリートのようで何味かわからないんですが(笑)、食べると甘くて濃厚なチョコレートの味がするという…。予想を超えてくるというか、脳内でバグが起こるような、そんなメニューを用意しています。トライアル期間中なので構想段階のものが多いですが、お客様に偶然や驚きの出会いをお届けできるようなものを今後もいろいろと展開していく予定です。

―今後、提供予定のユニークな試みやメニューを教えてください。

北川:お客様やスタッフが持っている、使っていない新品のマグカップを集めて、コーヒーと共に持ち主の思いまで提供する、というような企画を準備中です。あとは、フォーチュンクッキーみたいなものも販売できたらなと考えています。といっても中身は占いではなくて、これから展示を行うアーティストにこのカフェで感じたことを作品にしてもらって、それを入れるということにチャレンジしてみたいなと。QRコードでWebに飛ばすかもしれないし、言葉かもしれないし、まだはっきりしていませんが、「アートに出会うきっかけ」となるようなメニューを企画中です。

―トライアル営業をスタートして約1ヶ月。率直な感想や気づきなどはありますか?

北川:『BUG Cafe』は東京駅という土地柄、さまざまなお客様がいらっしゃいます。外国人観光客の方もいれば、カフェ巡りをしている女性客の方もいるし、リクルートの従業員の方を始めとしたビジネスマンの方も。そのさまざまなお客様が混じり合っている、この景色を見るのがすごく面白いですね。こんな使い方をしたら良くないかもしれませんが、これこそまさに、「BUG」だなと(笑)。

―その他、「まさにこれこそ、『BUG』だ」と感じた瞬間や、エピソードがありましたら、教えてください。

北川:今までは、下町と言われる場所でカフェの運営をしていたので、この話をいただいた時は正直「こんなに大都会で、こんなに広いスペースで、大丈夫だろうか?」と不安もありました。でも、リクルートさんは「トライアンドエラーでやっていきましょう」と言ってくれ、今も入口のところに「トライアル営業期間中です」というようなことを表記して営業しているんです。普通、そういうことってなかなかやらないですよね(笑)。そのおかげもあって、お客様からは「ごちそうさま」と言われるよりも「頑張ってね」と応援されることが多いんです。このやり方が「BUG」というか、なんだか面白いなと思いますね。

宮崎:僕も、「とりあえず、やってみよう」というようなムードでリクルートさんと一緒にカフェ作りを進められているところが面白いなと感じています。東京駅直結のフォーマルな場所でカフェをやるとなると、普通ならコンプライアンスもガチガチで、石橋を叩いて渡る、みたいなところがあって当然だと思うんですが、そういうところが全くないんですよね(笑)。お客様もその雰囲気を感じ取ってくれているみたいで、もしかしたら、この『BUG Cafe』というネーミングがそう感じさせているのかもしれないですね。

―今後、『BUG Cafe』がアーティストや東京という街や人々にとって、どんな存在になっていってほしいですか?

宮崎:東京駅には、目的に向かってまっすぐ、早足で歩く人が多い。みなさん、いかに合理的に目的地に行くかというようなことを考えて突き進む中で、この場所は立地のいい場所でありながら、こんなにも広いスペースで、天井も高く、展示をしていない時は空のスペースになっています。こんなにも非合理的な場所は、なかなかないんじゃないでしょうか(笑)。忙しくしている人たちが、目的や合理性といったところから一度離れて、迷ってみる。そうすることで、新たなきっかけや出会いを得ることができる。アーティストやお客様にとって、そんな存在になれたら嬉しいですね。

北川:周辺に飲食店はたくさんありますが、『BUG Cafe』はどのカフェにも似ていない唯一のカフェだと思っています。コーヒー豆もこだわって厳選したものを使っているし、業者さんと一緒に作ったオリジナルのブレンドも用意していて、ちょっと変わったフードメニューも用意しています。ここに来ればいつものカフェとは違う、ちょっと変わったものを食べたり、飲んだりできる。そんな「偶然を味わうカフェ」としてお客様をお迎えし続けていけたらと思っています。


ライティング:佐藤摩耶

▶︎プロフィール
宮崎晃吉(みやざき みつよし)

群馬県前橋市生まれ。
2008年東京藝術大学大学院修士課程修了後、磯崎新アトリエ勤務。
2011年より独立し建築設計やプロデュースを行うかたわら、2013年より、自社事業として東京・谷中を中心エリアとした築古のアパートや住宅をリノベーションした飲食、宿泊事業を設計および運営している。hanareで2018年グッドデザイン賞金賞受賞/ファイナリスト選出など。

北川瑠奈(きたがわ るな)
株式会社HAGISO 飲食部門マネージャー
東京都世田谷区生まれ。
2014年HAGISO2代目店長として入社。
現在は HAGISOINCが運営する飲食店のディレクションとマネージメントを行う。

株式会社 HAGISO ウェブサイト: https://company.hagiso.jp/


▶︎アートセンター『BUG』とは?

この世界に、バグを。

この世界に必要な違和感。ふいに気づきをもらう瞬間。
そんな無数のハプニングに、私たちは出会いたい。
何かを変えていくだろう荒けずりな才能を、
不可解に思う人もいるかもしれない。
でも、その可能性に、賭けようと思う。
ぶち当たる、発見する。繰り返す化学反応のある日常こそ現実。
BUG は、そういう場でありたいです。

BUG ステートメント

『BUG(バグ)』とは、2023年9月20日にグランドオープンする東京駅八重洲南口直結のアートセンターです。「この世界に、バグを。」をキーワードに、『BUG Art Award』や展覧会などの活動を通じて、アーティストが全力で挑戦できる場と機会を提供していきます。現在は、プレ期間としてイベント開催やBUG Cafeの先行営業を行うなど、グランドオープンに向けて活動中。
運営:株式会社リクルートホールディングス