21世紀の探偵たちへの挑戦状(シャーロッキアン殺人事件:出題編)

はじめに

 1990年代以降、警察の捜査力が大幅に強化された時代でも変わらず活躍する様々な探偵を調べるにあたって、様々な作品や資料を読むうちに、私はひとつの犯罪計画を思いついた。しかし犯罪者には一生なりたくないので、ここにひとつの推理クイズとして発表したい。答えが分かった人は当方のツイッター@Hulme_777 宛てにDMを送信していただければ正解か不正解かを教える。正解者は次回の記事(解答編)で「捜査に協力した名探偵」としてハンドルネームだけ紹介するので、匿名希望の場合はその旨連絡されたし。なお、内容はすべてフィクションで、登場人物は架空の存在である。

1:事件発生

 東京都内の小さな化学工場にて、一人の従業員が死亡した。

 朝8時になって日勤のスタッフが仕事前に一服しようとし、工場2階のベランダに設けられた喫煙所に入ると倒れこんだ従業員・・・名前は若葉一郎、の姿を見つけ、直ちに119番通報したが、救急隊が到着した時にはすでにこと切れていた。救急隊が目にしたものはこめかみの小さく、それでいて頭蓋骨を穿つほどの深い孔と、火傷の痕だった。

 直ちに警察による捜査が行われた。工場は正門以外監視カメラがないが、ガラス窓や玄関に衝撃が加わると警備会社に連絡が届くようになっており、外部からの侵入の痕跡は見当たらず。工場内では夜間スタッフが有機溶剤の製造を行っており、当時工場内に居たのは殺害された製造管理職の若葉一郎(45)、品質管理職の峰新生(26)、外国人研修生のエコー・キャビン(30)、ジョン・プレイヤー(32)の4名。監視カメラの記録によると午前3時に1時間の休憩時間となり、外国人二人は正門から一旦外出し、3時55分に工場に戻る姿を監視カメラが捉えている。
 若葉と峰は監視カメラのない喫煙所に向かい、3時20分に峰は品質管理室へ向かい業務を再開。本来工場で製造管理を行う若葉は戻らなかったが、峰、エコー、ジョンの3名はいずれもスケジュール表を渡されていたので黙々と仕事を行い、若葉の遺体が発見されたのは朝になってからである。

 警察の捜査によるとエコー、ジョンの両名は外のレストランで食事を共にし、店員の証言やレシートの記録からそれが明らかになっている。

 となると峰が重要参考人として浮かび上がる。峰は被害者と共に喫煙したことを認めており、被害者から借金をしていたことも認めている。しかし容疑をきっぱり否認。そして次のように証言した。「彼は借金を返さない私を憎んでいた。恥ずかしいことですがそれは確かです。私は彼に喫煙所に呼び出され、さんざん酷く罵倒されました。借金は次の給料で少しずつ返すと言っても相手にされず、私はたまらず喫煙所を後にし、業務に戻りました。」
 一方、現場下の川(工場の真横に位置する)では遺留品として奇妙なものが見つかった。中国製のコルト・ガバメント.380コピー。そしてそのグリップに結ばれたワイヤーと鉛の重り。喫煙所の柵には傷がひとつ。捜査員が思わずつぶやく。「まるで『ソア橋』だ・・・」


2:ソア橋ふたたび?

 被害者、若葉一郎は仲間内でも知られたシャーロッキアンで、ホームズのファンクラブサイトを開いていた。その一方で、3か月前に交通事故により妻子を失い、最近はどこか以前のような覇気や情熱が欠けたようで、仕事はこなすが生気がない亡者のようだと友人・知人は証言している。現場の刑事たちの中では「『ソア橋』のトリックを使い、借金を返す気のない峰新生に殺人罪を着せて自殺したのでは」との意見も出始めていた。それを裏付けるように、こめかみには銃を至近距離で発砲した痕跡である火傷が見られた。警察は、当面は峰を留置所に置き取り調べを行い、また外国人二人も監視下に置き捜査を続けた。

 現場で見つかったコルト・ガバメント.380コピーからは、水に流されて幾分消えかかっているものの被害者の指紋が見つかった。残弾なし。よほど安価なコピー品だったと見え、バレルにライフリングがなく、銃弾にも施条痕がない。工場では硝酸塩を取り扱うため、硝煙反応で彼らの発砲の有無を探ることは不可能。容疑者、峰の身辺をくまなく探しても銃器はおろか凶器の類は見当たらない。渡航歴の調査結果は・・・被害者、若葉一郎は2週間前に中国で行われたシャーロキアンのイベントに参加している。行きも帰りも飛行機。外国人二人のうちエコー・キャビンは2週間前に中国への渡航歴があるが、飛行機ではなく船による入出国を行っている。峰新生は2か月前にフィリピンへ渡航しているが、こちらも船によるもので、観光地を回り帰国したとされている。

 他殺の線が浮かびあがるが容疑者に決定的証拠がなく、拘置期間も間もなく過ぎようとしている。工場の社長は社員の死と逮捕に加え、外国人スタッフ二人が辞表を出したこと、薬品の納入先から不純物のクレームでお叱りを受けたこと、求人がうまくいかないこと、世間から奇異の目を向けられること、製造機械のトラブルの頻発で憔悴しきっている。果たしてこれは自殺か他殺か。他殺なら犯人は峰新生なのか・・・そんな中、奇妙な検証結果が挙がった。「ガバメントのコピー品、発砲した形跡がないんです」


3:とある刑事の手記

 今回の事件、『ソア橋』のトリックによる自殺だと考えていたが、どうにも気がかりな点がある。まずガバメントのコピーにライフリングがない。これではマスケット銃と大して変わらんではないか。自殺用なら納得がいくが・・・そのガバメント・コピーも45ACPではなく380ACP弾仕様ときたもんだ。しかも発砲の形跡がない。入手手段も中国、フィリピン、どちらも銃の密売が行われている。あくまで私見だが、俺は峰がクロだと思う。しかし凶器の類は洗いざらい探したがどこにもない。ホトケさんが死ぬ直前まで喫煙所にいたという状況証拠しかないし、これで奴がシロなら警察のスキャンダルになりかねん。こんな時にはホームズでもポアロでもいい、探偵がいれば助けてほしい。胃が痛い。胃に針が刺さったようだ。今日も胃薬を買いに行かなくては・・・早くこの事件を片付けて嫁と子供に会いたい・・・


4:クイズの時間です~読者への挑戦状~

 この作中の警察官のみなさんは大変もどかしい思いをしているので、これを読んだ人には警察から協力を依頼された名探偵になってもらい、謎を解いていただきたい。本文中で答えにたどり着く決定的情報はすべて提示しているので、どうか真相を掴んで刑事さんの胃の痛みを楽にしてやってほしい。

解決すべき謎・・・自殺か他殺か。自殺ならなぜガバメントに発砲の痕跡がないのか。他殺なら犯人は誰で、凶器はガバメントなのか、それ以外なのか。

(解答編に続く)


ヒント・・・21世紀の最先端技術 ノックスの十戒は破られていない


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?