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宇宙での距離測定③

これまで2回に渡って、宇宙での距離測定について紹介してきました。今回は最終回です。

過去2回の記事では、視線速度を用いた距離測定、セファイド型変光星を用いた距離測定について紹介しました。今回は超新星を用いた距離測定について紹介します。

そもそも、超新星(supernova)とは何でしょうか?

天文学辞典によると、超新星とは

大質量星や中質量の近接連星が起こす大爆発により突然明るく輝きだす天体。夜空でそれまで星の見えなかった所に突然明るく輝く星は新星と呼ばれているが、新星のなかで特別に明るいものが「超新星」と分類されるようになった。その後の研究で超新星は恒星全体が爆発する現象であることがわかった。爆発後に残される星雲は超新星残骸と呼ばれる。超新星の発生頻度は、1銀河あたり50年に1個程度という稀な現象であるが、21世紀に入ると自動観測や大望遠鏡でのサーベイ観測などで発見数は年間500程度に達する。

とあります。簡単に言ってしまうと星がその最期に大爆発(超新星爆発)を起こして明るく輝く事を指します。

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https://apod.nasa.gov/apod/ap981230.htmlより引用。左下で明るく輝いているのが超新星)

さて、超新星にはIa型、Ib型、Ic型などの分類があるのですが、その中で距離測定に用いられるのはIa型超新星と呼ばれるものです。

このIa型超新星の光度曲線(明るさの時間変化)をプロットしたのが以下の図です。下の図ではIa型超新星の明るさの変化を補正してプロットしています。

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https://supernova.lbl.gov/public/papers/aasposter198dir/wwwposter1d.jpgを改変。)

このプロットでは横軸が超新星の明るさがピークとなる時を0としてどれだけ時間が経過したかを表しており、縦軸はIa型超新星の絶対光度をプロットしています。一つ一つの点が観測されたIa型超新星を表しています。この図を見たら分かる通り、Ia型超新星はどれも1つの光度曲線の上に乗っかることが分かります。第二回目の記事でも紹介しましたが、「天体の真の明るさ」「見かけの明るさ」「天体までの距離」のうち、2つが分かると、残りの一つを決定することができると紹介しました。Ia型超新星の場合、上の光度曲線を使うことによって、「天体の真の明るさ」を推定することができるので、「見かけの明るさ」を観測したら、距離を測定することができるのです。

上に述べたように、Ia型超新星は似たようなどれも似たような光度曲線を示すという利点の他に、超新星一個が銀河に匹敵する明るさを持っているので、遠方の超新星観測が可能になるという利点もあります。

そして、この「遠方の超新星観測が可能である」という性質を使って、宇宙論に大きな衝撃がもたらされました。

まずは、以下のグラフを御覧ください。

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Perlmutter et al 1999)

このグラフはIa型超新星の観測結果を示したものです。横軸は赤方偏移(距離、あるいは、現在の宇宙からどれだけ過去か)を表しており、赤方偏移が大きいほど遠く(過去)の宇宙を表しています。そして、縦軸は見かけの明るさを表しており、大きい値ほど暗いのを意味しています。

さらに、いつかの直線や点線が描かれていますが、それぞれが「宇宙の中身」に関する異なるシナリオを表しています。この「宇宙の中身の違い」は大きな赤方偏移ほど、すなわち遠くに行くほどシナリオの違いが顕著に現れているのが分かります。先程、述べたようにIa型超新星は、その明るさ故、遠くまで観測することができるので、Ia型超新星を用いると、宇宙の中身のシナリオの違いを検証することができます。

そして、このIa型超新星の観測により分かった驚くべき結果とは、「宇宙は加速膨張している」という事実です。遠くの宇宙(赤方偏移が大きい宇宙)では、Ia型超新星は「星や銀河だけが存在する宇宙で考えられる明るさよりも暗い」ということが分かりました。これはつまり、遠方の宇宙で宇宙の膨張速度が大きいため、より暗く見えているということを意味します。

どうして、こんな事が起きているのでしょうか?宇宙の中身が、星や銀河などの重力を及ぼす物質のみで構成されていると、宇宙空間もそれらの重力によって引っ張られてしまうので、膨張が減速すると予想されます。しかし、実際に観測してみると、宇宙は加速膨張しているということが分かりました。これはつまり、宇宙には、重力的に引っ張る星や銀河などの「普通の物質」以外に、宇宙膨張を加速させる、いわば反重力的な「未知の何か」が詰まっていることを示します。これを我々は「暗黒エネルギー」と呼びます。

Ia型超新星観測による宇宙の加速膨張の発見に対して、2011年にノーベル物理学賞が与えられました。それだけ、この発見のインパクトは大きかったのです。

暗黒エネルギーの存在は未だによく分かっておらず、現在も精力的に研究がされている天文学の大きなミステリーの一つです。一方で、「暗黒エネルギーは存在せず、現在の宇宙論の基礎となっている重力理論である一般相対性理論を修正すれば、宇宙の加速膨張を説明できる」という修正重力理論の考え方もあります。暗黒エネルギーの正体は何なのか?あるいは重力理論を修正すれば説明できるのか?その答えは未来の天文学者や物理学者に委ねたいと思います。

さて、全3回に渡る「宇宙での距離測定」シリーズいかがだったでしょうか?宇宙を測れる大きなものさしが存在しないので、どうやって、宇宙で距離を測定するのか?という疑問から始まり、最後は「宇宙の加速膨張」という大きな謎の紹介をしました。ここまでの話で興味を持った方は、是非、自分でも色々と調べてみてください。

今回で「宇宙での距離測定」シリーズは終わりますが、次はどういうテーマで記事を書こうかなぁ。。。何かご意見や感想がありましたら、是非、コメント欄に投稿してください。

お読み頂きありがとうございました。

(補足)

暗黒エネルギーについてもっと知りたいと思った方は、以下の本がオススメです・

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