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先輩、サラリーマンはオワコンでしょうか。〈3〉


第二章 タツヤの場合

【フリーターは人生2度目のベテラン】


「最近、誰もが知る大手レコード会社を辞めてフリーターになった大学の先輩がいる。」

親友からそんな話を聞き、それほど潔い決断をした人の顏が見たくなった。


「大学4年の時に内定を蹴ったのが始まりなんですけど…」おお、初っ端から放たれるクレイジーな匂い。最高!「4年生で入ったプロジェクションマッピングのサークルが想像以上に楽しくて。就職するよりもこっちの方がいいなと思ってわざと単位落としてもらった。」サークルのために留年ってできるんだ…。自分がいかに大人の誰かが敷いた『いい子ちゃん街道』を歩んできたのか思い知る。少し落ち込む。


「留年中はひたすらアルバイトで学費を稼いだ。昼は粘土で人形を作って子供たちに実演販売したり、夜は居酒屋でっていう生活。本当にやりたいことを考え直す一年だった。」その後、音楽や映画などエンターテインメント全般が好きだった彼はレコード会社への就職を決める。

「実際は、CD・DVDとかパッケージ商品の製造・制作進行で、昔から変わらない、決まりきった仕事だった。パッケージ全体が市場としてやばいなって感覚もあったし、チームというより個人商店の集まりみたいだった。でも『辛いから辞めた』となるのは嫌だったし、自分が携わった商品がレコード屋に並んだ時とかはやっぱり嬉しい。とりあえず3年間は続けるかと思ってここまできた。留年した時も9月に卒業してるから、今回で人生2度目のフリーター(笑)」それは計画的に?フリーターになるのは怖くなかったですか?自分には真似できないだろうという焦りにも似た感情からか、大ざっぱな疑問ばかりが生まれてしまう。

不思議と怖くはなかった。まだ26歳だし。死にゃあしないって思ってた。一応、『営業3年やってました』って言えるし。」

死にゃあしない、かぁ…。タツヤさんの言葉を頭の中で反芻する。死ぬこと以外かすり傷スピリッツは、かつての私も持っていたはずだ。いつからこんなにも失うことに臆病になったのだろう。


「今では会社の人たちともよく遊ぶ。辞める直前にボードゲーム部を作って、ただお酒飲みながらワイワイするだけなんだけど(笑)」楽しめる環境は自分で作る。「これぞ真のフリーター、『フリー』クリエイ『ター』なのでは?!」と、ちょっとうまいことを言って盛り上がってしまった。


これからは一社だけで一生を終える、という時代じゃなくなる。複数の仕事を持って、一番しっくりきたものにコミットする、そういうのもありだなって。週3~4で同じ給料を得るためにはどうすればいいんだろうということを考えた。

「働き方」の先には、一人ひとりの「生活」が存在する。既存のルールや仕組みを仕方ないと甘んじて受け入れるのは楽かもしれないが、それによって「理想の生活」をないがしろにしてしまうのはあまりにももったいない。


サークル続投のために留年したり、大手企業からフリーターになったり。今でこそ、大胆な決断に踏み切った理由を「そっちの方が楽しそうだったから」と単純明快に説明してくれてしまうが、そこに至るまではきっとモヤモヤ葛藤期があったのだろう。今だって、会社を辞めてオールハッピー☆というわけでももちろんないだろう。けれど、「一応、『営業3年やってました』って言えるし」の3年という月日も、居場所を手放す覚悟を決めた決断さえも、確実にタツヤさんの血となり肉となっているはずだ。

そんなタツヤさんが心からワクワクして生み出すものを、私は心待ちにしている。


※昭和のアイドルになりきったというタツヤさん。遊びだろうと何だろうと、やるならとことんやる。


***〈3〉に続く***

次はスペインからやってきたイケメンの話。


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