新年の前に

 お疲れ様です。
 これ、書こう書こうと思いつつ、書いていいのか? と迷いもあってずっと書けなかったことがメインなのですが、7月がスケオタ的新年なんでしたよね?(まだ馴染めていない)
 その前に自分の中の整理もかねて書き留めておこうと、最近の出来事も加えて記録しておこうと思います。

 しかしコロナのせいで奪われていた日常も徐々に戻りつつありますが、来季の試合……どうなるんでしょうね〜〜。
 開催されたとしても無観客とかあり得ると思いますし……いつ通常に戻るのか見当も付きません。推し不足で辛い日々です。遠征ニ……行キタイ……。

 まあそんな状況でもリモートという形で仕事なり授業なりはあるわけで。
 最近リモート授業で面白いなーと思うエピソードがありました。皆さんがどう考えるか知りたいので(この話をすでに知っている方もいるかもしれませんが)、ちょっと紹介しますね。
 まず以下の文章を読んでください。

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『市長と息子』
 ある男とその息子が、盗みの疑いで逮捕された。
 父親の方は、逮捕されるときに抵抗し、撃たれて病院に運ばれた。息子の方は、手錠をかけられ交番に連れて行かれたのだが、その間、やはり激しく抵抗した。そして、交番には市長が呼ばれた。市長は交番に着いて、こう言った。「ああ、私の息子が…」

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 ……どう? どうです??
 最初「え、なにこれ」と思いませんでしたか。だって父親は撃たれて病院なわけでしょ。しかし、交番に呼ばれた市長も「私の息子」とか言ってるわけです。でも、交番に呼ばれたからには親族なんでしょうし……市長がただの泥棒に会いに行くわけないし……。
 そして、ちょっと考えた末に私はこう結論を出しました。
「そうか。市長は撃たれた父親の親……つまり交番に連れて行かれた男の祖父! 孫に会いに行ったわけで、つまり市長が言っている『私の息子』というのは病院にいる男のことなんだ……!」


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 これやろ……。
 惚れ惚れするような鮮やかな推理。
 はい、無事不正解でした。

 正解はですね、この市長、『母親』なんです。
 父親は息子と一緒に盗みの容疑で撃たれて病院。交番に連行された息子に会いに行ったのが、市長である母親だったわけです。
 最初からわかった方、素晴らしいですね! 柔軟な思考をお持ちです。私は正解を明かされた瞬間、ぇあーーと声が出そうになりました。何でこんな簡単なカラクリがわからんかったんや。自分で自分に驚きました。わかりづらくしようとする文章の構成もあったでしょうが、ウンウン考えている間に浮かびそうなものです。
 もちろん、世間には女性の市長がいることは知っています。これからもどんどん増えていくでしょう。
 けれど、どうしても『市長』と言われると、まず男性のイメージが出てきてしまうんです。こういった職業による性別のイメージというものは他にもありますよね。トラック運転手だとか、大工だとか。聞けば無意識の内に男性だと思ってしまいがちです。女性なら保育士、ネイリストなどでしょうか。男性の保育士だっていますよね。でも、保育士と聞けばまず女性を思い浮かべてしまう人が大半ではないかなと思います。

 すでに持っている知識や情報を心理学用語で『スキーマ』と呼びます。
 スキーマには経験や環境による個人差、そして上記の『市長と息子』をわかりづらくしてしまったような『誤ったスキーマ』の作用もあります。
 私たちは日常生活でも、自分の知識や経験によって無意識の内に行動したり、思考したりしていますよね。そしていわゆる自分の中の常識に当てはまらない事態に遭遇すると、先ほど市長を男性を思い込んでいたために文脈に整合性がなくなったように、混乱します。この文章の方が間違ってるんじゃないの? とすら思ってしまう。けれどそれはいわゆる『思い込み』のせいなわけです。

 最近、このことに少し関連するかな〜と思えるようなフィギュアスケート界隈のことがいくつかありました。
 人の価値観、経験によって形作られてきた常識というものは、容易には変わらないんだなと悲しく思ったことがひとつ。
 それと、コロナ騒ぎの渦中、来日したスケーターに対することがひとつ。
 前者はさほど知らない方だったので言及する気もなかったのですが(たくさん考えましたが)、後者はファンだったのでなかなか混乱し悩んできたことでした。
 はい、メドベのことです。

 4月の初め、彼女は自分が主演する6月のショーのため来日しました。
 それを知ったときまずびっくりして、そしてとても心配になりました。
 世界中でコロナが蔓延し始めている時期で、日本もすぐに緊急事態宣言を出すことになるタイミングです。8月に開催予定だった東京五輪の延期も決定したばかりです。6月のアイスショーなんてやるはずがない。開催される可能性は限りなく低いです。
 それなのに、彼女は日本に来てしまった。国家間の移動が制限される前にという話だったかと思いますが、彼女の仕事への熱意を賞賛するよりも、私は戸惑いの方が遥かに大きくて、なぜ彼女がそんな行動をしたのだろうと考えてしまいました。
 その情報を見て危惧した通り、アンチは騒ぎに騒ぎ、ネット記事にもなったので、目にした一般人は何でこんな時期にと大体の人が思ったでしょう。
 もちろんビッグプロジェクトですから、彼女一人で決めたことではないと思います。その背景を知るよしもないですが、どれだけ考えても「何でこんな時期に来ちゃったの」としか私には思えませんでした。

 その後は外でダンスする映像をアップしてしまったり、それで東京から移動していることがわかってしまったりと、ざわざわすることが続きました。
 ダンスに関しては、緊急事態宣言下でも運動のための外出は許されていましたし、見る限りソーシャルディスタンスもとれているので、問題はありません。他県への移動も、仕事でやむを得ない場合ならば許されていたはず。さすがに観光目的などでもないだろうし、それも問題はないと思いました。
 ただ、それをあえてSNSにアップしてしまうのが、正直やっちまった感がありました。皆買い物や運動に外に出ていても、有名人などもあえてそれをSNSでお披露目したりはしません。叩かれるのが目に見えているからです。皆引きこもりを余儀なくされてストレスが溜まっています。ちょっとしたことで炎上しかねない。
 そもそも、来日の報告をアップしてしまったのがよくなかった。
 いえ、彼女個人のSNSなので他人の私があれがよくない、これがだめなどと言う権利はまったくないのですが、私は彼女のファンなので、騒動の種になって欲しくなかったのです。叩かれて欲しくなかったのです。
 あんなにも素直で奔放な彼女が好きだったのに、今は素直過ぎるその性格を心配するようになってしまいました。

 ある日私は彼女のことを、仲のいいアメリカ人に話しました。
 こういう過程があって、今彼女が叩かれているのがとてもつらいと。
 そうしたら彼は、「そのショーをやるのが彼女の夢だったんでしょ? そのために必死で来たのに、可哀想だよ」と言ったんです。
 何でもないような言葉ですが、私はハッとしました。
 彼は子どもの頃から日本が大好きで、日本に来て日本で暮らすことが夢でした。今ようやくそれが叶った彼だから言えること。日本を愛してやまない外国人の彼の言葉だからこそ、私は目が開かれたような思いがしました。

 どうして今まで思い至らなかったんだろう。彼女がセーラームーンが大好きなんてことは、私が彼女を知るきっかけになったインタビューからも明らかだった。
 日本のテレビ局ですか? と聞いて、セーラームーンの主題歌を無邪気に歌った彼女。エキシビションでセーラームーンを題材に選び、主人公になり切った彼女。キスアンドクライでいつも抱えているのはルナだし、作者のサインを貰って大喜びもしていた。
 そんな彼女が、ずっと大好きで憧れだったアニメの主人公役でアイスショーに出演することが決まった。開催される可能性が数%でもあるなら、あるいはショーの代わりに何か彼女ができることがあるならと、必死でやって来たことの、何が「理解できない」というんだろう。

『市長と息子』のように、私は彼女の熱意をわかっていたけれど、わかっていませんでした。
 やるかやらないかわからないショーのために、どうせ開催なんてされないだろうに、『そんなこと』のためにこの時期に日本に来るなんてと。理由として弱すぎて、なぜ彼女が『たかが』アイスショーのために危険を冒してまで来日したのかわからなかった。
 今では認識が少し変わりました。メドベにとっては『そんなこと』『たかが』じゃなかったのだろうと、友人の言葉で理解できたからです。
 大好きな国の大好きなアニメのアイスショーに、外国人の自分が主役として抜擢された。これは日本人の私が思うよりも、彼女にとって、きっとずっとすごいことなのです。
 数%しか可能性がないのに来日したと思うか、数%でも可能性があるから来日したと思うか。
 そこにメドベの愛情があふれている気がして、胸が痛くなりました。

 アメリカ人の彼の外国人の友人たちは、コロナが流行り出してすぐに自分の国に帰ろうとした人が多かったそうです。たとえその時点で自国が日本よりもずっと悪い状況だったとしても、帰ろうとしてパニックになっていたと。
 確かに異国でこんな状況になってしまえば不安になります。自分の国に帰りたいはず。言葉も通じないこの国で、もし自分がコロナにかかってしまったらどうなるのだろうと怖くなったのだと思います。
 そしてそれは、メドベだって同じだったはずなんです。彼女だってロシアに帰りたかったでしょう。いちばん安心できるのは母国です。
 それでも彼女は、日本に来た。絶対に成功させたいと意気込んでいたであろう、大切なアイスショーの、ほんの少しの可能性のためだけに。
 一般人やメドベに興味のない人が彼女の行動を理解できないと批判するのは仕方ないのかもしれません。当時状況は最悪の一歩手前でしたし、皆外から来る何かには神経質になっていました。
 でも私は自称ファンなのに、同じように困惑してしまっていたのが心底情けない。
 月に代わってお仕置きされてきます。


 そういえば蛇足ですが。
 ロステレコム杯でお喋りしたユヅルハニュファンのロシア美女に、彼のフェミニンな衣装や時折する乙女な仕草の話をしたとき、彼女は「アジアの男の子は皆ああいう可愛い仕草をするんでしょ? JPOPやKPOPがロシアでも流行ってるから知ってるわよ」と言っていました。
 私はロシアの同性愛宣伝禁止法を知っていたので、そんな国でヒラヒラキラキラ衣装の推しが人気なのはなぜか知りたくてそれとなく話題にしたんですが、少なくとも彼女の中では「アジア人だから」という理由で片付いていたようです。
 そうか……しかしアジア人でもハニュほどの愛らしいカッコカワイイ男子はおらんぞ。
 そんなことを最近の騒動で思い出したのでした。

 コロナはよ去ね。


【追記】
 色々コメントをいただいて、その中に海外在住の方から「外から見れば判断材料は感染者数と出入国制限くらいで、仕事ならば中止でない限り行くしかない」というご指摘があり、あ〜〜〜〜確かにそうだ、と納得しました。
 私は日本人で日本の中にいるので、なぜこんなときに来てしまったの……と思ったのですが、主催者から中止か渡航を見合わせる要請がなければ、そりゃ来ますよね。日本が今どういう空気でどんな状況かなんてカナダにいて外国人であるメドベにはわからないし、代わりのきかない主役だし。内情はわかりませんが、メドベサイドと主催者側の連絡が上手くいってなかったのかな。
 他の当時開催未定だったアイスショーの海外スケーターたちがメドベのように来日した話は、少なくとも私は聞かなかったので、そちらは中止の通達があったか、もしくはスケーター側が行けないと伝えたかでしょうか。どちらにせよメドベがめちゃくちゃ叩かれるような理由なんてどこにもありません。
 ちなみに主催の出版社に問い合わせた方がいらしたみたいですが、見る限り典型的なクレーマーへの対応をされただけだなと思いました(相手の怒りを鎮めるためにひたすら相槌打つ系)。私も仕事で長くお付き合いさせていただいている出版社さんですが、大手の中でいちばんコンプライアンス厳しいと感じるし、自ら主演スケーターを批判するような軽率なところではないと思います。
 素敵なアイスショー、いつか開催されるといいなあ。