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【能登半島地震】守る 命も心意気も…奥能登の守護神・須須神社

※文化時報2024年2月23日号の掲載記事です。

 能登半島北端の海沿いに位置する石川県珠洲市三崎町の寺家(じけ)地区にある須須(すず)神社(猿女貞信宮司)が、最大震度7を観測した元日の能登半島地震で被害を受けながらも、地域住民の精神的支柱であり続けている。激震と津波によって、40戸90人ほどが暮らす寺家地区の集落は大部分が倒壊した。猿女宮司の妻、昭子さん(82)と娘で権禰宜(ごんねぎ)の多田千鶴さん(44)は社務所に残り、住民たちを励まし続けている。(佐々木雄嵩)

声掛け合って高台避難

 社伝によると、須須神社は第10代祟神天皇の時代に創建され、奈良時代に現在地に鎮座。付近は海上交通の要衝で、奥宮がある山伏山は航路の目印として尊ばれ、奥能登の守護神として崇敬を集めてきた。源義経が奥州・平泉に逃れる際、海難から救われたお礼として奉納したと伝わる「蟬折(せみおれ)の笛」などの宝物が残る。

 昨年5月5日に最大震度6強の地震に見舞われ、シンボルとして親しまれてきた第一鳥居が倒壊。新年を迎えるにあたって修復を終えたばかりの灯籠、狛犬(こまいぬ)と第二鳥居も倒れ、社殿が損傷するなど被害が拡大した。

津波は写真手前の玉の橋まで押し寄せた

 昭子さんは「誰一人けがをしなかったのは、日頃の訓練が生きたから」と語った。寺家地区では2011(平成23)年の東日本大震災以降、地震と津波を想定した避難訓練を毎年続けてきたという。地域の防災意識は高く「いざとなったら集会所」が合言葉となっていた。

 地震発生時は境内で新年を祝う神楽が営まれており、帰省した人や市外から初詣に訪れた参拝者ら100人超でにぎわっていた。

 宮司一家は、地震が収まってすぐ「津波が来る」と確信。氏子衆と協力し、境内と参道下にとどまっていた参拝者を高台へ誘導した。若い衆が足の悪いお年寄りを背負い、石段を上った。

 社殿裏手にある農産物の集積場と集会場の2カ所に分かれて避難した。間もなく押し寄せた津波は第三鳥居を越え、石段へと続く玉の橋まで到達した。この間、わずか10分ほどだったという。

避難した際の道筋を案内する猿女昭子さん

 指定避難所の「みさき小学校」は1キロに満たない距離にあったが、海岸線を安全に移動することができず、その場にとどまるしかなかった。神社から石油ストーブや布団などを運び出し、一夜を明かした。遠方からの参拝者は1週間以上も現地に足止めされたという。

祭りと神事で地域復興

 猿女宮司は心労もあってか長年の体調不良が悪化し、金沢市の病院へ入院した。市外から祈禱(きとう)の手伝いに来ていた息子で禰宜の豊信さん(56)は、県職員として災害対応の業務に戻った。「2人が戻るまでは」。昭子さん、千鶴さんの母娘が神社に残り、踏ん張り続けている。

 千鶴さんは「今回の地震への石川県神社庁の対応に、鈍さを感じる」と話した。昨年の地震被害では、日を置かず庁長が直々に視察に訪れたが、今回は1月31日に職員が様子を見に来ただけだったという。

 昭子さんは、被災した神社が多いから仕方ないとしながらも「結局、寺家は遠いですから」と落胆の表情を浮かべた。それでも、氏子のために何とか神社を再興していきたいと決意している。

 毎年9月の第2土曜に行われる秋季例祭「寺家キリコ祭り」は、高さ15メートル、重さ4トンほどのキリコ(切子(きりこ)灯籠)を引いて歩く秋祭りで、日本最大のキリコが登場。地域住民の誇りとなっている。氏子衆は地震後に何度も神社を訪れ、「キリコは無事か」と気をもんでいるそうだ。

多田千鶴さん。地域の避難所を見回り、住民たちを励ましているという

 昭子さんは「地域には、神様の方を向いている人ばかりいる。神社があってこそという気持ちで、地域に残り続けてくれている」と感謝し、千鶴さんは「地域が一体となるお祭りを続けることで、人々を勇気づけたい」と力を込めた。

 毎年3月15日には、豊作や無病息災などを願う「的打ち神事」が営まれ、神職と氏子らが災いが潜むとされる方角に向けて矢を放つ。「能登再興の象徴として、是が非でも実施したい」。2人の願いは一つだ。

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