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コロナを越えて㉒僧侶ならではの発信を

ロータスリーフ合同会社CEO 堀下剛司氏

※文化時報2022年2月11日号の掲載記事です。

 スマートフォンやパソコンを通じ、悩みや疑問を僧侶に相談できるサービスがある。ロータスリーフ合同会社が手掛ける「hasunoha(ハスノハ)」だ。2012(平成24)年のサービス開始から10年。新型コロナウイルス感染拡大で、命や人生に関する悩みに直面する人が増えている。堀下剛司CEOは「諸行無常を説く僧侶ならではのメッセージを発信し続けてほしい」と僧侶への期待を語る。

日本の美徳 根源は仏教

 《hasunohaは堀下代表が個人で立ち上げ、サラリーマンとの二足の草鞋(わらじ)で6年間運営した。利用者の増加を受け、18年に独立。ロータスリーフ合同会社を設立した》

――サービスを始めた経緯を教えてください。

 「きっかけは、11年3月の東日本大震災。困難や不自由に直面しても、われ先にと争わず、周囲と励まし合う被災者の姿に感銘を受けた」

 「日本人は本来素晴らしい精神性を持っているのに、自信を持てない人や自虐的な考え方をする人も多い。忘れかけている誇りを取り戻し、幸せに生きる手助けをしたいと考えた」

 《一般家庭に生まれ育った堀下代表は、大学卒業後大手IT企業に就職。宗教や僧侶との関わりは葬儀の時だけで、お経や法話に感動した経験もなかった》

――仏教に着目されたのはなぜですか。

 「日本人の価値観の源流には、仏教をはじめとする宗教とそれに基づく教育がある。疫病や災害に見舞われた時も、祈りが人々を支えてきた。『教えを伝え続けてきた僧侶なら、現代の日本人の悩みにも応えてくれるのではないか』と期待するようになった」

 「共同代表の井上広法氏(浄土宗光琳寺住職、宇都宮市)からも、『社会が混沌(こんとん)とし、悩み苦しみを抱える人が増えた。もう一度、寺の役割を原点から考え直さなくてはならない』と聞かされた。人を救いにくくなって、お寺も必死にもがいている。共に本来の姿を取り戻したいと思った」

「死にたい」が急増

 《hasunohaには現在、299人の「回答僧」が登録している。仏教に関する疑問から、仕事や恋愛の悩みまで、多種多様な相談に応じる》

――コロナ禍で、利用状況はどう変わりましたか。

 「感染拡大前は1カ月当たり60万件ほどだったアクセス数が、20年4~5月には120万件に達した。以前から回答僧が不足しており、質問投稿に制限を設けていたが、さらに強化せざるを得なくなった。21年に入って少しずつ落ち着き、今は80万件前後で推移している」

――悩みの内容に変化はありましたか。

 「『死にたい』というカテゴリーの相談件数が、サービス開始以来初めてトップになった。一斉休校やオンライン授業になじめず、『勉強についていけない』『友達ができない』などと訴える10~20代の相談者も増えた」

 「将来の見通しが立たず、仕事や学業が停滞していると、過去を振り返る時間が増えてくるのだろう。つらい過去がフラッシュバックして後悔や自己嫌悪を感じている人や、鬱(うつ)状態になるほど追い詰められた人が目立っていた」

「hasunoha」のトップページ

死を受け止め、絆つなぐ

 《20年6月には、テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」によるオンライン相談機能を実装。30分1500円以上の利用料で、回答僧に直接相談できる》

――オンライン相談の利用状況はいかがですか。

 「先日、利用件数が通算300件を超えた。日程調整や利用料金のやり取りといったハードルはあるものの、利用者の納得度は高く、手応えを感じている」

 「最大のメリットは、顔が見えること。表情や口調の変化を直接感じ取れるため、濃密な対話がしやすい。回答僧の背後には本尊があり、双方が安心して語り合える。海外や遠方で暮らす人が気軽に相談できるのも利点だ」

――今後充実させたいサービスは。

 「今年1月には、投げ銭機能に当たる『おきもち』にキャッシュレス決済サービス『PayPay(ペイペイ)』での決済を導入。僧侶への感謝の気持ちをより手軽に送れるようになった。時間を割いて協力してくれる回答僧に恩返しがしたいと長年考えてきたので、一歩踏み出せたと感じている」

 「今後導入したいのは、相談者同士がつながる会員制交流サイト(SND)のような機能。同じような悩みを抱える人々が気持ちを共有し、励まし合うプラットフォームを設けたい」

――「hasunoha」以外で、挑戦したい事業はありますか。

 「hasunohaがお寺のソフト面に特化したサービスだとすれば、今後はハード面を支える事業にも参入したい」

 「『日本の社会をより良くする』という願いから事業を始めたので、寺そのものの活性化を強く意識したことはなかったが、お寺を支える基盤がなければ活動は立ち行かない。外部のパートナーと提携し、デジタルトランスフォーメーション(DX)=用語解説=や地域に開かれた寺づくりなど、できることは多いと考えている」

――アフターコロナの社会を見据え、お寺や僧侶に期待されることは。

 「コロナ禍で、自分や愛する人の死を意識する瞬間は増えたが、死は本来常に私たちのそばにある。今後はそれを当たり前のこととして受け止め、周囲との関わり方を考えなければならない。諸行無常の教えを説いてきた仏教者には、人との絆や手を差し伸べることの大切さを発信し続けてほしい」

 堀下剛司(ほりした・たけし) 1970(昭和45)年生まれ。大阪府出身。大阪市立大学卒後、ヤフー、グリー、鎌倉新書などのIT企業に勤務。2012(平成24)年に個人でインターネットメディア「hasunoha」を立ち上げた後、18年に独立しロータスリーフ合同会社を設立した。hasunohaやお寺のDXに関する相談をメールで受け付けている。(info@hasunoha.jp)

【用語解説】デジタルトランスフォーメーション(DX)
 企業がデータやデジタル技術を活用し、製品やサービス、業務や組織などを変革して、競争の優位に立つこと。経済産業省が2018年、推進するためのガイドラインをまとめた。

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