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【能登半島地震】宗教者に必要な「協働」 園崎秀治氏と考える宗教団体の災害支援㊦

 能登半島地震をはじめ数々の災害で行政や民間ボランティアの活動を支える「オフィス園崎」代表、園崎秀治氏(53)=千葉県浦安市=は、宗教者による支援に期待を寄せる。全国社会福祉協議会で27年間勤務した経験を基に、支援の3原則として「被災者中心」「地元主体」「協働」を掲げ、とりわけ宗教者には協働が必要だと説く。(主筆 小野木康雄)

宗教者の「入り口」になる

――宗教者による災害支援に関心を持つようになったきっかけを聞かせてください。
 
 「2007(平成19)年3月の能登半島地震で、震度6強を観測した石川県輪島市に全社協の職員として入ったときのことです。曹洞宗僧侶の米沢智秀さんから、被災住宅で壊れた仏壇を直したり、希望に応じてお経をあげたりしていると伺いました。輪島市は大本山總持寺祖院があり、仏教や僧侶を敬う土地柄。『宗教者にしかできない支援がある』と確信しました」
 
 「私自身は無宗教の家庭で生まれ育ったのですが、仏教の教えに深く共感して仏教書をはじめとしたさまざまな宗教の書物を読んでいた時期がありました。災害というキーワードを通じて、いろいろな宗教・宗派の方々との接点を持てるようになれたのは、うれしいことでした」
 
――全社協に勤めていた頃から、宗教者と交流があったのですね。
 
 「はい。米沢さんとはその後も親交があり、全国曹洞宗青年会や全日本仏教青年会を通じて、全社協の研修に若手僧侶を呼んでもらいました。真如苑や天理教の方にも来ていただき、研修に参加した社協関係者に活動を紹介することで、地元でも宗教者と協力するよう促しました。私の独断でしたが、宗教団体と社協・災害ボランティアのネットワークを、意識的につくっていました」

災害を通じてさまざまな宗教者と接点を持てたと語る園崎氏

――まさに橋渡し役ですね。
 
 「宗教団体が被災地で社協と連携する必要が生じたときの『入り口』になりたいと思っています。社協の中には、中立性を気にして個別の教団と付き合おうとしない行政出身の人もいます。でも、現場を見れば誰がどう頑張っているのかすぐ分かるし、ましてや布教目的で被災者に近づいているわけではない。活動が活性化するなら、つながらない手はないんです」

上手な支援の入り方

――以前の災害と比べて、宗教団体との連携に変化は生じていますか。
 
 「一緒にやれる場面が増えましたね。宗教教団と社協の連携は、昔より取りやすくなっていると思います。東日本大震災の頃はまだ災害支援に慣れていない団体もあったので、『宗教はよくない』とひとくくりに批判する声もありました」
 
 「しかしふるまい方に関して、教えに基づく統一見解を持っているのが宗教団体とするなら、問題行動は起きないはずです。真如苑の信徒も、個々人の考え方以前に教えを守って動いているように見えます。それが被災地にとって正しいふるまいだからこそ、上手に支援に入れているのではないでしょうか」
 
――宗教者による災害支援の特長の一つに「心のケア」があります。
 
 「一般のボランティアとは異なる宗教者ならではの支援ですね。被災した人が『せめてお墓だけはきちんとしたい』と言ったり、お経を上げてもらって『救われた』と心から喜んだりするのは、人間の大事な部分です。曹洞宗は作法に従って被災者にお茶を振る舞う『行茶活動』を行っており、一方で真如苑は、宗教色を出さずに足湯などを通じて被災者の声に耳を傾けています。どちらも効果的だと思います」

社会活動、単独では不可能

――能登がこれから復興を目指すに当たって、コミュニティーの再生が課題だといわれていますね。
 
 「上下水道が集落の隅々まで完全には復旧せず、元の地域に住めなくなるといった事態を想定する必要があると思います。宗教団体にとっては、地元の信徒がどのように再生させたいのか、そこを教団としてどう支えるのか、といった関わり方が大切になってくるでしょう」
 
 「仮設住宅を出てもうまく自立できず、生活に困窮する人々がいます。東日本大震災の被災地では、13年たった今も、地元社協の職員が見守りや自立支援に当たっています。災害だけでなく、複合的な事情で誰かに面倒を見てもらわないと生活が成立しない人々に、手を差し伸べる必要があるのです」
 
――「誰一人取り残さない」と訴える宗教者たちが、そうした生活困窮者を支える必要がありそうです。
 
 「たとえ目の前の人を救えたとしても、本当に誰一人取り残さないためには、公的な住民基本台帳に当たって調べなければなりません。それは、行政にしかできない。行政(公助)と連携して、初めて実現することだと思います」
 
 「逆に、被災者支援は行政だけでできることでもありません。職員や予算は限られ、制度でできる範囲は決まっています。民間やボランティアと共に宗教者も参画し、手分けして行動する形があり得ます。あるいは、行政から委託を受けた社協などの方が、行政より連携しやすいかもしれません」

輪島・朝市通りの火災現場で行われた大規模捜索=1月11日

――お話を伺っていると、宗教団体や宗教者が協働の輪の中に入っていくことが重要だと感じます。
 
 「これから一番大事になることだと思います。教えの下に集まる教団には強固な結束力がある半面、排他的な性格があることも否めません。教えに関してはそれでよくても、社会活動を単独でやるべきではないと考えます」
 
 「社会活動は相互作用があって初めて成立します。被災地で出会う社協や行政、他のボランティアの人たちとコミュニケーションを取り、協働できれば、宗教への偏見を覆すことにもなる。壁を作らず、知ってもらうことが必要です」
 
――平時から必要なことですね。
 
「そうですね。社協を入り口にネットワークをつくり、普段から生活困窮支援などに取り組めばいいのではないでしょうか」

職員たちも被災している

 ――地元の方々は、被災しながら災害ボランティアセンターを立ち上げなければなりません。よりよい体制づくりはできないでしょうか。
 
 「地域をどう復興させていくかを決めるのは地元住民でなければならない、という大原則があります。途中から加わるのではなく、被災して大変な状況でも、最初から議論の輪に入ってもらう。そのために、災害ボランティアセンターをやってもらっている側面があります」
 
 「しかし、自分も被災して家が壊れ、家族を心配しているような人に、仕事をさせるべきではない。ネットワークを介して、外の人々が支える必要があります。他の地域の社協職員や行政職員がやってもできる業務は、切り離して応援部隊が担えばいいのです」
 
――今回の能登半島地震では、どのような状況になっていますか。
 
 「社協や行政に応援が入っていないわけではないのですが、質を上げることが大事だと思います。単純にシフトが空いている人を出すのではなく、被災地支援に大切なポイントをわきまえている職員を送り込む必要があります」

輪島市役所内に設けられた福祉避難所=2月1日

 「ある災害ボランティアセンターで、応援に来た支援者たちが連日、夜まで方針を議論していたことがあったそうです。これの最大の問題点は『あなたたちが帰らないと、被災した地元の人が帰れない』ということ。早く家を片付けたい、家族と過ごしたい、ゆっくり眠りたい―と思っていることに、応援部隊が気付いていないのです。被災した社協職員の置かれている状況に想像力が及んでいれば、そんなことはしなかったはずです」
 
――宗教者をはじめ、災害ボランティアはこれからどのような心構えで現地に入ればいいでしょうか。
 
 「支援で大事なことは『被災者中心』『地元主体』『協働』の3原則に尽きると考えています。これを具体化させることです」
 
 「中でも宗教者は、協働を苦手としている人が多い印象を受けます。『被災者の苦しみを和らげる』という同じ目的で活動する支援者と、協力すればいいと思います。無理やり協働事業を立ち上げる必要はなく、手を組まなければならない人たちが現れたときに、組めばいいのです」
 
――自分たちだけでできることには、限界がある、と。
 
 「そうだと思います。被災者のニーズを知ることも、誰かの力を借りなければできません。そして、お互いに尊重し合う必要がある。社協職員も同様で、私は社協職員が宗教者をリスペクトするよう仕掛けてきたつもりですし、これからもそれを目指したいと考えています」

 園崎秀治(そのざき・しゅうじ) 1970(昭和45)年生まれ。千葉県出身。早稲田大学教育学部卒業。全国社会福祉協議会の職員として、全国各地の被災地で災害ボランティアセンターの運営に27年間従事。2021年に退職し「オフィス園崎」を設立した。能登半島地震でも災害アドバイザーとして発生直後に現地入りした。


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