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【支援の視点―能登と東北】③生活再建に潜む苦痛

※文化時報2024年4月16日号の掲載記事です。

 東日本大震災の被災地では、発生から1カ月ほどで仮設住宅への入居が始まった。支援に当たった宗教者たちは、がれきの撤去などに取り組む傍ら、お茶会などのサロン活動を始めた。一方、能登半島地震は発生3カ月が経過し、上水道が復旧した地域では避難所が閉鎖。ライフラインが整わない奥能登地域でも仮設住宅の建設が進んでおり、入居を済ませた住民もいる。この先、生活再建へと向かう人々にはどのような苦痛が潜み、宗教者はいかに応じるべきなのか。

ストレスが生む家庭不和

 「死にたい」「生きる意味が分からない」

 仮設住宅に移った人々が、日蓮宗仙寿院(岩手県釜石市)の芝﨑惠應住職にそう訴えるようになった。東日本大震災の発生から5カ月ほどが過ぎたころのことだ。

 岩手県は、被災した高齢者の孤独死を防止しようと、仮設住宅の団地を多様な世代で構成した。ただ、地元で培った人間関係を考慮しなかったため、孤立の解消に至らなかった。精神的な負担を和らげようと、芝﨑住職が会長を務める釜石仏教会は、茶話会や説法会を始めて、引きこもりがちな人々を戸別訪問した。

 5年ほどすると、今度はお寺に直接相談に来る人が増え始めた。体の不調や将来への不安、財産の問題。内容は多岐にわたったが、特に目立ったのが家庭不和だった。仮設住宅での生活が長期化し、ストレスを感じる人が多かったのだという。

 芝﨑住職は「住民が話しやすいのは、震災を共に経験した地域のお坊さんなのだと思う。ただ、復興は長期戦。能登の方々の苦労を思いやると、言葉が出ない」と心配した。

傾聴・分かち合いに役割

 被災者の家庭問題が深刻だと感じていたのは、芝﨑住職だけではない。曹洞宗常楽寺(岩手県釜石市)の藤原育夫住職は「家族関係が崩壊しないよう気を配りながら、話に耳を傾けた」と話す。

 岩手県では、発生10年後の2021年3月までに仮設住宅に住む人はいなくなったが、傾聴を通じて信頼された藤原住職の元には、今でも相談に訪れる人が絶えないという。

 浄土宗西光寺(宮城県石巻市)の樋口伸生住職は、震災で家族を亡くした人たちがこころの痛みを分かち合い、被災者の苦しみに寄り添うため宗教者がなし得ることは何かを出発点とした「蓮の会」を、毎月11日に開催している。

浄土宗西光寺で開かれている「蓮の会」=4月11日、宮城県石巻市(西光寺提供)

 震災の翌年から続けているが、参加者は13年を経た現在も苦しみを抱えている。

 3月11日に鳴らされるサイレンの音でフラッシュバックを起こす人もいるため、石巻市に嘆願し続けた結果、今年からサイレンのトーンは下げられた。樋口住職は「声を上げられない被災者に寄り添い、行政と交渉していくのも、地域に根差した僧侶の重要な役割の一つ」と語った。

多様な専門職と連携

 「うちの子どもが笑ったのは、能登半島地震が起きてから初めてです」。3月30日、浄土真宗本願寺派安楽寺(石川県七尾市)で人形劇が披露された後、参加者が語った。

 安楽寺に支援物資を届けていた浄土宗西山禅林寺派想念寺(名古屋市熱田区)の渡辺観永住職が、地元から人形劇団むすび座を連れてきて、無料公演を開いたときの出来事だ。渡辺住職は「皆が我慢している状況。『苦しい』と口にしても仕方がない、との思いを持っていたようだ」と話した。

浄土真宗本願寺派安楽寺で行われた人形劇の無料公演
=3月30日、石川県七尾市(三村紀美子さん提供)

 安楽寺は自主避難所として開放され、一時は地元住民10人ほどが身を寄せたほか、支援物資の集積所としても機能した。現在は、宗派を超えた僧侶らが集まるNPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク(東京都江東区)のメンバーが、定期的にサロンを開設している。

 今月18日には、浄土宗僧侶による社会慈業委員会ひとさじの会(代表、髙瀨顕功・法源寺住職)が保健師と共に健康相談を開催する予定だ。アーユス元職員で石川県七尾市に住む民生委員、三村紀美子さんは「これからは、心のケアのニーズが高まってくる」と語る。

 インフラ復旧が進まず、いまだ避難所生活が解消されない石川県輪島市。仮設住宅は9日現在で2646戸が着工しており、657戸が完成した。数カ月後には人々の暮らしが仮設住宅に移る。

 避難所運営や食事を届けてきた曹洞宗系の公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)は、今後は仮設住宅で住民同士が交流するイベントを開催し、コミュニティーづくりを後押しする予定だ。また、必要な支援が届くようにする枠組みづくりにも乗り出す。

 SVA緊急人道支援担当の中井康博さんは「話を聞きながら、ニーズを探りたい。自宅の修復・再建を相談できる建築士など、多様な専門職と連携していきたい」と話した。

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