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バンギャのまやたす

「ぶんちゃん渋谷でライブの打ち上げ終わるの23時くらいだけど、それから焼き鳥食べない?」

こんなアポなし突然の誘いをしてくるのは今はまやたすくらいかな。
俺みたいに不規則な生活にはすごく合っているなと思う事がある。

ただ金曜日夜の渋谷というのはたぶん世界でも1,2位を争う混雑ぶりで、宮増坂系のお店は以前全滅だった。

まやたすはすでにライブの打ち上げでベロベロだった。

もともとまやたすはまゆの紹介で会って以来の仲だ。妙に気が合うので、わりと会う事は多い。19才にしては愛くるしい幼い容姿のまやたす。今夜も渋谷の警察には中学生じゃないかと呼び止められたようだ。

一年ほど前に二人きりで会った時に、傷跡だらけの手首を見せてくれた。

「ぶんちゃんはリスカを否定しないって聞いたから…」

自分の生い立ちを時系列バラバラに話しはじめるまやたす。

母親は早くに離婚し、女手ひとつでまやたすを育ててきた。
水商売や人に言えないような仕事をする母親をまやたすは恥じていた。
いや、嫌だったのは仕事内容よりも、母親がホストにはまっていたからだ。

小学校時代は母親の都合でてんてんと転校を繰り返し、友達なぞ出来る事もなかった。

まやたすは母親に自分を何故生んだか聞いた事がある。

「あんたは援交相手との子だよ。」

母親の答えの色は絶望の闇色だった。知りたくなかった事実である。その援交相手の父親とは仕方なく結婚したが、愛情なぞあるわけもなく早く離婚したそうだ。

「わたしはお金で生まれてきた子なんだ…」

小3の頃から、まやたすはボールペンを使った自傷をするようになった。
学校には友達はひとりもいなかったが、近所にうろつく一匹の野良猫が唯一の友達だったという。

「お前はわたしと同じだ」野良猫の事をそんな風に思っていたのかもしれない。その猫が死んでしまった時、まやたすははじめて包丁で手首を切った。それは自傷ではなく自殺未遂だった。小5-11才の頃である。

まやたすは母親を憎んだ。生い立ちを恨んだ。不遇を呪った。

***
 一般的にも娘は生涯を通じて母親を猛烈に憎み続ける傾向があるように思う。生まれて初めて見るライバルのような存在が母親なのだからかもしれない。自分の鏡だから許せないのかもしれない。
***

リスカが母親にばれて、病院に行けとどなられた。

そんなまやたすが音楽という光を見つける。

M「最初はね。中1の時にチャットしてた人にライブに誘われたんだよね」

B「それからバンギャ街道まっしぐらか?w」

M「うんそだね~その後はムックにはまったかな~。歌詞がまるで私の事言ってるみたいでさ。」

それからまやたすは音楽に救われて音楽によりかかって生きてきた。
そしていつしかリスカをしなくなっていた。

自分の生い立ちを話したら、本当の自分を知られたらまた失うかもしれない。
3年も付き合った恋人にすら自分の身の上を話す事をためらった。

今はその恋人とも別れて、とあるバンドのドラマーにまやたすは恋しているらしい。

M「母親の事が憎くてたまらなかったけども、結局わたしのやってる事っていっしょかもしれないと思う時あるんだよね。」

母親を嫌いになりきったりはできないと言う。今まで育ててくれた事も感謝しているという。つくづく憎悪と愛情はコインの裏表だなと思う。本質的にはどちらも同じだ。


M「それでもおじいちゃんだけはさ、まやにすごく期待してたんだ。まやを大学に行かせると言って貯金していたんだよ。でも期待に答えられなかった。」

まだ19才の少女が何故、何をこんなに絶望しているのだろう。と俺からは見える。

B「もし学校に行きたいなら充分すぎるほど間に合うじゃない。おじいちゃんは今は?」

M「死んじゃった。大好きだったのに…わたしには夢もないし、こんなんだし」


M「"バンギャのマリカ"読んだよ。わたし秋葉原時代にビラくばりしてたマリカを見たよ。超かわいい子だったね。細いし。あれ読んで、わたしも間に合う?ってぶんちゃんに聞きたかった。こんな人生のほとんどを無駄にしてきた私でも間に合う?」

B「そう言えば、まやとマリカはどことなく似てるかもなwそしてアラフォーとしては19才に人生を語ってほしくないんだがww夢?ん~あるんじゃないかな。」

M「あるけど、届かないよ。学校だって行けないしさ…」

まやは自分を救ってくれた音楽の世界に寄り添って生きたいという。

だけど、そこまでの道のりは非常にぼやけていて不鮮明だ。いったい何をどうしていいかもわからない。

今の教育システムのあきらかな間違いがある。出口がまったくリアルの世界とつながっていないのだ。何も本当の事を教わっていないのに、ある日突然将来を決めろと強制される。決めなければ、負け組のレッテルを貼られる。

B「大丈夫だまやたす。学校なぞ行かなくても楽しく勉強できるすごい方法を思いついたから、それを伝授してやる」

 踏み出す一歩目は小さくてもいいはずだ。

大きな夢や届かない夢、漠然とした夢ははそのまま巨大なプレッシャーとなり、自分自身を押しつぶしてしまう事がある。

今のまやたすはもうバンギャではない。秋葉原のメイドでもない。でも何かではきっとある。僕にとっては今でもかけがえのない大事な存在だ。

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