見出し画像

境界アリス⑧永遠の少年ナイト

2010年10月12日の日記より

アリスの恋人、ナイト君が亡くなった。

享年16才
10月11日

一度だけ見たけども、不思議の国の主人公の恋人にふさわしいぞっとするような美少年だった。

この日がいつ来ても仕方なかった。予告された病魔だ。

最後まで"アリスに会いたい。""アリスと離れたくない"と話していたそうだ。

俺はこの日が来た時にアリスがあとを追ったとしても、決して止めないと心に誓っていた。

心の支えが消えてしまったのだから、自殺するのは仕方ないじゃないか。

生きるのも正しい選択かもしれないが、もし死を選んでも俺は正しいと思う。

俺自身、3年前によく死ななかったと思う。

おそらくアリスはこれから、毎日死神と戦わなくてはならない。
3年前の俺と同じように毎日毎日、毎晩毎晩だ。

恋人との死別とはそれほどの事なのだ。

恋人と3度も死別している俺だから言える言葉がある。

全ての人が知っている事は、サンタクロースが存在しない事だけではない。

"永遠の愛"が理論上は存在しない。という事だ。

恋愛には必ず終わりが来る。
その終わりは明日かもしれないし、30年あとかもしれないが、一番長くてもどちらかが先に死ぬわけだから、そこで終わる。

ところがこの話には抜け道があって、残された者にとっては、先に死んだものは永遠になるのだ。

悲しく辛い決して降ろせない十字架を生涯背負う代わりに、相手はもう絶対に心変わりしないのだ。

苦しい残りの人生と引き換えに、永遠の愛を勝ちとったのだよ。

きっとアリスの周りの人はかけてあげる言葉が見つからないのだろう。

俺は何度も同じ経験をしているから、かけてあげられる言葉がいくらでもある。

その経験を与えてくれた事に感謝している。

ナイト君の霊はおそらく3年以上はさまようだろう。

でも心配しなくていい。

そっちには俺の愛した友人や恋人が何十人もいる。

俺が選んだ人たちだ。ナイト君にもきっとやさしくしてくれる。

入り口の近くにきっとまだあーたんがいる。 怖がらないで話しかけてほしい。彼女はきっと君をやさしく光へ導いてくれる。

ナイト君は実在していた
僕は実はナイト君の存在を信じていなかった。アリスに見せてもらった何枚かの写真はCGの専門家の俺から見てもリアルな少年とは信じがたかった。
(この当時は2018年のスマホの様な優れたアプリは存在していなかったので、素人に簡単に写真を加工する事は限界があった。)

化粧好きな不治の病にかかった中学生の美少年という話が、出来すぎていてあまりにも非現実的な感じだがした。

アリスの死後、アリスの母親と話す機会があって、結論から言えばアリスはいっさい嘘をついていなかったのだが、当時はつじつまの合わない事はいくつかあって、例えばたまにアリスの部屋に訪れるアリスの兄の存在だ。
電話をなかなか切らないアリスが兄が来ると電話を切るのだ。僕は電話ごしに声を聴いた事がある。だがアリスには兄がいない事はアリスが入院した時に判明している。
実際は兄と呼んでいた働いていたお店の店長で、今思うとアリスは兄と呼んでいただけでそれが家族としての兄とは一言も言ってなかったわけで、単なる僕の思い込みだった事がわかっている。その方とも直接会う機会が死後あったのだ。
この非現実的な美少年も実在していた事がわかっている。そして芸術的な才能に恵まれていたようだ。これがナイト君が描いたアリスの絵だ

そして恋愛関係にも実際あったようだ。以下がナイト君が病室からアリスに贈った詩だ。

『こっちへおいで
ボクを見て
このキョウキを受け入れて

何故そんなことを聞くの?
愛したいだけ
ずっとずっと一緒だよ

今日は雨
この雫がキミの涙なら
素敵な光景だったのに

ねえ ちょっと
泣いてみせてよ 勿論
手伝ってあげるからさあ

いま他の男を見ただろう
そんな汚れた瞳でボクを映すなら
目玉はもうイラナイ
抉り取ってしまおうね

逃げないで
片目だけじゃ嫌というのなら
交換しよう 手を出して
受け取ってボクの目
好きって云ってただろう?
きっとキミに似合うから

皆の望む幸せの形なんか
どうでもいいよ
愛したい 愛してる

今日は晴れ
赤い傷口が冴えて
とても綺麗だ

どうしてキミは
そんなに塞ぎ込んでいるの?
今日も可愛いね

どうして
ボクの宝物には
足が生えているんだろう
勝手に歩き回らないで
心配かけちゃ嫌だよ

仕方ないから
流れ星に願い事をしたんだ
『歩けなくなれ』と

アイシテル

ずっとずっと一緒だよ

ずっとね』

---------------------------------

次のお話
境界アリス⑨バイバイアリス

前のお話
境界アリス⑦最後に会ったアリス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?