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境界アリス③境界性人格障害

境界性人格障害はボーダーとも言われる障害だ。ものすごく複雑で多様(人によっていろんなパターンがある)で、何故ひとくくりにされているのかがわからない。
ただ活字で読むよりはるかに症状は深刻で、治るのが困難な病気でもある。
あと、僕のこう言った知識は実体験に基づいたものが多いので、医学的には違うものかもしれないとあらかじめ言っておく。

アリスと接触した理由
自殺した僕の恋人あーたん(僕は自殺とは未だに思いたくはないのだが)もこのボーダーではあった。あーたんの死後、僕は少しでも彼女の事を知るべきだと思い、あーたんのほとんどのマイミクに男女年齢関係なくメッセージを送った。
そのうちの一人がアリスであーたんとはよく電話で話していたと言うのだ。
アリスと電話で話せる事になったので僕から電話した。
当時はまだスマホなどはなく大手の携帯会社の電話料金は2018年現在より遥かに高額な時代だ。
多くの若者ー特に女性はWillcomという定額で通話し放題の携帯電話を所有し、「コム」と呼んで愛用していた。
アリスもコムを所有していたのだが、話し放題が適用されるのはコム同士のみだった。僕の方がdocomoだったので、当然僕から電話をかける事になった。

そっくりな話し方
電話で話して僕が次第に驚きはじめたのは、聞き間違えるほど電話の声があーたんにそっくりだった事だ。独特のリズムと受け答え。久しぶりにあーたんと電話で話しているみたいで僕は驚くと共に少しなつかしく感じた。
アリスの死後、この話し方はボーダーの特徴だろうかと思ったりもしたが、あーたんとアリスはほぼ毎日の様にコムで通話していた時期があったようなので、お互いの話し方に影響しあっただけなのかもしれない。
結局もし会って話ができるならとお願いをした。
「美容院に連れて行ってくれるならいいよ」
と言われ、そんな事で話をしてくれるならと言う事で会う事になった。

僕はまだこの時、ボーダーついてまったく理解していなかった。

甘ロリ専門美容院
何日かしてアリスにリアルで会う事になった。
アリスはもともとメイド喫茶店の売れっ子メイドだった。後で知ったのだが、本当にものすごい人気メイドだったらしい。当時はまだメイド喫茶自体が出始めの頃で、いわゆる若いメンヘラ少女たちがよくバイトしていたらしい。僕はその頃はまだメイド喫茶に入った事もなかった。

アリスがメイド時代に愛用していた美容院に案内された。そこはロリィタ系専門の美容院らしい。当時は大ヒットした深キョン主演の映画「下妻物語」の影響もあってかロリィタファッションがポピュラーに成り始めた時期だ。
2時間以上かかると言われたので、僕も調子にのって髪をやってもらう事にした。
まだ激安美容院が出現する以前の時代だ。一回のカットやカラーリングに一人数万円はかかった。
それでもあーたんを亡くしてからずっとふさぎこんでいた僕にはひさしぶりに少し楽しかった。そしてプリクラを撮り、食事をしながらいろんな話を聞いた。あーたんとどんな話をしていたか、あーたんがアリスにとってどんな子だったかなどだ。
「アリスはあーたんがアリスの薬を欲しがるからそこは嫌だった。」
彼女たちにとって治療用の薬は生命線だ。
この薬にはいろんなものがあり、不安な気持ちを軽減したり、眠くなったりするものだ。

そして少なからず危険な薬でもある。病院で処方しているにも関わらずだ。
これに関してはまたいづれ話そう。

話している時のアリスの表情たまに寒気がする時がある。
幼女のように話しているのに、たまに老婆の様な表情をしたりもするからだ。
そして僕があーたんを懐かしむと、少しキレ気味に嫉妬をはじめるのだ。

女の子らしいと言えばそれまでだが、少し違う。

2時間ほど話しただろうか、僕は少し理解しはじめた。

「そうか彼女は狂っているのかもしれない。」

大量の薬や孤独の影響かもしれないのだが、何というか独特の狂気がアリスには宿っているのだ。

でも僕はこの時ですら、ボーダーの特徴ーー本当の恐ろしさについてまったく理解していなかったのかもしれない。

それから、毎日の様にアリスから電話の催促のメールが来始めた。

ボーダーは見捨てられてしまう恐怖を常に強く抱える
それゆえに恋人だけでなく友人にも極端な独占欲を持ち始める。
そして見捨てられたと感じたボーダーは自殺を選択してしまう事がある。

次のお話

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