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「少子化の現状とその対策」岡山大学医学部保健学科看護学、放射線技術科学、検査技術科学・後期2019年

(1)問題 


次の文章と図表を読んで、以下の設問に答えなさい。
 
人口減少という現実を前にすると、「女性が子どもを産まなくなった」という言説は、一見、あたりまえのように響くし、疫病の流行や、大災害といったこと以外に、人口が減少する直接の要因は、「子どもを産まない」こと以外には考えられないからである。疫病の流行も、大災害も継続しているわけではないのに、少子化になる原因は、ほんとうに、女性が子どもを産まなくなっているからなのか。結論から言えば、女性が子どもを産まなくなっているのは嘘である。嘘という言い方が強すぎるなら、すべての女性が子どもを産まなくなっているわけではないと言い換えてもよい。「女性が子どもを産まないのが少子化の原因」というようなもっともらしい言説に対しては、ちょっとした手間をかければ、それが何も言っていないのと同じばかりか、議論をミスリードする作り話であることがわかるはずだ。
出典:内円樹編著、人口減少社会の未来学、pp.136-138、2018、文藝春秋より抜粋、一部改変
 
(資料:21世紀政策研究所、実効性のある少子化対策のあり方――少子高齢化への対応は日本に与えられた世界史的な役割――p.8、2014、
http://www21ppi。org/pdf/thesis/140602。pdf
より抜粋、一部改変)
*有配偶率とは女性の結婚している割合を意味し、有配偶出生率は有配偶女性1,000人当たりの出生数を表す。また、合計特殊出生率は15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものである。

 

 
(資料、厚生労働省が発表している「平成22年(2010ヽ人|]動態統計(確定数)の概況」より抜粋、一部改変)
 
設問1 下線部のように「女性が子どもを産まなくなっているのは嘘である」という根拠を、図表から読み取り300字以内で述べなさい。
 
設問2 少子化を改善するための対策について、あなたの考えを200字以内で述べなさい。


(2)考え方


 
問1
【表】の読み取り

・合計特殊出生率は1980年以降、低下傾向にある。

・有配偶出生率は1990年以降、上昇傾向にある。

・有配偶率は1980年以降、一貫して低下し続けている。

【表】からの考察

・女性が子どもを産まなくなっているのではなく、むしろ結婚して子どもを多く産んでいる。

・合計特殊出生率が下がって少子化が進行しているのは、有配偶率が下がって結婚しなくなったからである。=非婚化

【図】の読み取り

・昭和60年の「母の年齢別出生数」のピークは25~29歳。一方、平成22年の「母の年齢別出生数」のピークは30~34歳。

・昭和60年から平成22年にかけて、「母の年齢別出生数」のピークの年齢が5歳高くなっている。

【図】からの考察

・平成22年の「母の年齢別出生数」のピークが30~34歳であるのは、女性の大学進学率の上昇と晩婚化が原因と推測される。

【図表からの考察・結論】少子化の原因は非婚化と晩婚化にある。

問2

少子化の原因が非婚化と晩婚化にあることが判明した。そこで、少子化を改善するための対策としては、論理的に考えると、問1の考察を踏まえると以下のようになる。

①  有配偶率を上げる。

②  「母の年齢別出生数」のピークを前倒しにする。

しかし、結婚するかしないか、子どもを産むか産まないかは、個人の人生観に基づくもので、選択の自由が保障されなければならない。また、「母の年齢別出生数」のピークの年齢が近年後ろ倒しになっているのは、女性の大学進学率の上昇が要因として考えられる。女性に大学に行くなと言うのは、これも人権を無視した差別的な発言である。
従って、①の「有配偶率を上げる」に絞って対策を考える。その際、若者の結婚を促進し、仕事と子育てを両立できるような環境整備をするアイディアを提案する。
 
 
【補足】

有配偶率の低下が日本の少子化の原因であるが、海外では、結婚していなくても女性が子どもを産むケースが多く、また、結婚と離婚、再婚を繰り返してたくさんの子どもを産む場合も多い。つまり、外国では未婚の母や離婚に対する社会的な偏見は少ないと考えられる。これに対して、日本では未婚の母や離婚に対する社会的な忌避感が海外に比べて高いのではないかと推測される(離婚については、そのような意識は以前に比べて薄らいでいる)。これは、日本人の意識の問題に加えて、未婚の母やひとり親家庭(特に母子家庭)を支援する法的枠組みが不十分という要因がある。したがって、少子化を改善するためには、こうした母子家庭を支援する制度を整えるという方策もある。しかし、国がそのような政策を積極的に行うと、「未婚の母を国が奨励している」「未成年の性の乱れを国が助長する」といった保守派の批判が多く起こってくるものと予想される。日本の国情から、少子化を改善するための対策として、このようなアプローチをとることは困難であるかもしれない。

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