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「現代社会の不条理」慶應義塾大学環境情報2021年

(1)問題

 
①  慶應義大学SFC環境情報学部は.残すに値する未来を—緒に創造できる人を求めています.

②  私たちが生きるこの世の中では,たくさんのことが目まぐるしく変化しています.私たち—人ひとりは,望む,望まないにかかわらず,目まぐるしく変化するこの世の中で,生きていくことになります.

③  この世の中には.不条理な(※1)ことがたくさんありますが,それら臭いものに蓋をしても,穏し通すことはできません.近い未来,私たちが生きているうちに,必ずそれらの不条理と向かい合う日がやってきます.腰がひけたまま,他人事のように未来をただ待つのではなく,私たち—人ひとりがどうすればそれらの不条理を解決し,残すに値する木来を創造できるのかを考え,できることから仕掛けていくことが大切です.

④  (※1)ここでいう「不条理な」とは,英語の「Irrational」を意味し,「理解のない,分別のない,道理のわからない,不合理な」という意味を表すとします.
 
⑤  以上のことを理解した上で,次の問1~3に答えてください。不条理を解決する第—歩は,論理的にあり得ない問題を発見し,定量的な観点から,合理的な答えを導き出すことです。

⑥  このことを踏まえ,問1―1,問1-2,問1-3に答えてください。
 
問1—1.数量Aは46+χ,数量Bは49—χで.χ>0であるとします.「この数量Aと数量Bを比べたとき,次の(ア)~(エ)のどれが論理的に正しいか.—つ選んで解答欄に記入してください.
(ア)  数量Aの法が数量Bよりも大きい.
(イ)  数量Bの方が数量Aよりも大きい.
(ウ)  数量Aと数量Bは等しい。
(エ)  与えられた情報だけでは決定できない.

問1—2.それぞれ異なる整数s,f,cがあり,いずれも正の整数であるとします。整数sはfの因数,fはcの因数であるとき,以下の(ア),(イ),(ウ)の記述のうち,どれが正しいでしようか.
(ア)  sはfの二乗の因数である.
(イ)  sはf cの因数である.
(ウ)  sはf- cの因数である.
問1—3. χ=2-1, y=10-1であるとき,の値とは何か,解答欄に数値を記入してください。
 
問2 あなたがこの世の中で不条理だと感じていることを15個挙げてください。また,なぜそれらを不条理だと感じるのか, 個々の不条理の内容と理由をそれぞれ簡潔に1文で記述してください。なお,不条理は,個人的かつ情緒的な内容(例えば,夜起きていたいのに眠くなる,〇〇をみるとカッとする.など)ではなく,下記の課題ジャンル(a)~(c)のいずれか,もしくは,複数に関わる内容を記述してください.不条理ごとに,各解答欄の四角(□)内に課題ジャンルを付記し,挙げた全ての不条理を通して(a)~(c)の全てを網羅してください.

課題ジャンル:

(a)   人間の慣習に関すること

(b)   社会のしくみやル—ルに関すること

(c)   人間と環境の関係に関すること

問3. 問2であなたが回答した不条理のうち3つを取り上げ,その解決の方向性と方法(※2)について,解決のカギとなる技術革新,アイディアを含め,できるだけ具体的,定量的,かつヴィジュアルに説明してください.

 記述する際は,解答欄の左上の(□)内に,問2のどの不条理を取り上げたのか,その番号と(a)~(c)の課題ジャンルを記入おえください。
※2,例えば,カップラ—メンを食べる場合,麺を食べられるようにほぐすというのが解決の方向性,お湯をかけて待つ,もしくは,水を入れて電子レンジにかける,というのが解決の方法の例です.

(2)考え方


今回の小論文問題は「不条理」がテーマ。


「不条理」というと前世紀(20世紀)の文学や哲学の言葉で、いささか時代遅れで古い、という感想を持った。


ところが、ところが。


「時代遅れで古い」という感想を持ったこの私こそ「時代遅れで古い」ということに今気が付いた。


この問題は、現在進行形の新型コロナウイルス感染拡大について受験生の考えを問うものだった。


「不条理」文学の代表はカフカの『変身』。


朝起きたら、虫になっていた、というあの有名な話が「不条理」の中身だ。


実は『変身』と並ぶ「不条理」文学の代表作がもうひとつある。


それは、カミュの『ペスト』だ。

あのヨーロッパの人口の三分の一を失わせた伝染病ペスト。

こうした疫病を「不条理」と考えたカミュの文学は、まさに現在世界の多くの人に降りかかる新型コロナウイルスの問題を考えるうえで欠かせないキーワードとなる。


「あなたは新型コロナウイルスについて、どう思いますか」と直接聞かないで、「不条理」という文学・哲学用語で切り込んでくる。


さすが慶應義塾大学だ。


この問題を考える上でNHKの『100分DE名著』が取り上げた「カミュのペスト」の回が参考になる。

youtubeで検索すれば出てくるので、この動画を視聴してから改めてこの問題を考えるのもいいかもしれない。

(3)解答例


問2

(a) 人間の慣習に関すること

1.左利きの人が日常生活において配慮されていないこと。

生活用品のほとんどの物が右利きの人用につくられているため、左利きの人は生活の多くに場面で不便と不自由を強いられている。

2.外見上のかわいらしさからペットショップで購入された愛玩動物が飼いきれなくなり捨てられて、殺処分を受けること。

動物には何ら罪がないのに人間の都合で命を奪われているから。

3.肌の色で不当に差別され、酷いときには黒人が白人に殺されるジョージ・フロイド事件のようなヘイトクライム。

欧米では未だに白人優位に基づくエスノセントリズムの風潮があるから。

4.ある調査によれば、女性の容姿によって所得が異なること。

男性優位の社会では、採用や昇進などの基準は男性の主観性が入り込むバイアスがあるため、いわゆる美人の女性は採用や昇進などで社会的に有利になるから。

5.先進国と途上国との間に経済発展の格差が存在する南北問題。

先進国が自動車や機械といった付加価値の高い商品を生産して発展途上国に輸出し、途上国が原料や食料を生産して先進国に輸出する垂直的分業の構造があるから。

(b) 社会のしくみやル—ルに関すること

6. 日本では相対的貧困やこどもの貧困が進んでおり、どんな家庭に生まれるかによって子どもの将来が決まり、子どもは親を選べないこと。

ひとり親世帯の増加や非正規雇用の増加が相対的貧困率を引きあげる。

7.中小企業は大企業の下請けとして大企業の支配‐従属の関係に置かれていること。

市場経済において参加者は本来対等な立場で契約をするべきはずであるのに、実際には力の強い者がルールを決めてそまっているから。

8.大学入試で、普段あまり勉強していない人が前日たまたま開いた教科書のページが問題に出題されて運よく合格する一方、いつも人一倍努力している人が試験当日に体調不良で不合格となるなど、試験は注いだ努力の量が必ずしも結果に結びつかないこと。

入試が学業の継続した成績ではなく、一回勝負の運や偶然の要素が入り込む制度設計になっており制度設計に問題があるから。

9. 東京都と沖縄県で最低賃金では最低賃金が200円以上の差があり、どこに住んでいるかで収入に格差が生じること。

東京一極集中の弊害によって東京は集積の利益によってさらに経済が発展し、一方地方はインフラの不足や自治体の財政基盤が弱いために経済的に不利に立たされるから。

10.経営者などの社会的に成功している人が必ずしも人格者であるとは限らず、むしろ生き馬の目を抜くようなエゴイストや人を意のままに使うことに喜びや生きがいを感じる権力志向の人間が少なくないこと。

市場経済では厳しい競争に勝ち抜くことを目標にするため、人に配慮する思いやりのある人格者よりも他人を出し抜き、人を押しのけても自分が前に出て、上に行こうとする性向を持つ者が指導者の適性を持つようになるから。か

(c)人間と環境の関係に関すること

11.新型感染症のパンデミックにより、罪もないのに感染して亡くなったり、感染者が差別を受けたりすること。

病気に罹る人は前世の因縁により現生で病苦を受ける因果応報の思想が未だに根強く残っており、病気にかかった人が悪いという間違った倫理観を人々は持ち込みやすいから。

12.ヘビースモーカーでも肺ガンにならない人もいれば、酒も煙草も吸わないのに肺ガンを発症する人もいること。

ガンの原因が複数あり、発症機序が遺伝子の突然変異にかかわり、しかも複数の遺伝子が複雑に関係するものなので、完全な発症リスクを予測することが難しいから。

13.地震などの自然災害で無辜(むこ)の人が犠牲になること。

地震は完全に予知することはできず、加えて自然災害リスクを完全になくすことができないから。

14.物質的な豊かさを追求して経済発展をすればするほど地球環境を破壊し、人々の精神的な豊かさが毀損されてゆくこと。

GNPやGDPといった経済指標が政府の経済政策の中心に据えられていて、数値や数量で評価する価値観が背景にあるから。

15.自然環境を保護する運動をよいことだと思って起こせば、その地方の経済活動を制限しなければならなくなり、既得権を持つ勢力から非難されること。

環境保護と経済開発はトレードオフの関係にあるから。

問3.

 

6. 日本では相対的貧困やこどもの貧困が進んでおり、どんな家庭に生まれるかによって子どもの将来が決まり、子どもは親を選べないこと。

格差の拡大が相対的貧困率を押し上げている。

 

相対的貧困率とは、「再分配後所得を最低所得の人から最高所得の人までを順番に並べて、その中央の順位にいる人の所得から50%以下の所得しかない人の全体に占める割合」と定義する。日本では相対的貧困率は約16%であり、先進国でも比較的高い水準である。

ひとり親世帯の増加や非正規雇用の増加が相対的貧困率を引きあげている。小さい子どものいるひとり親世帯では、仕事と子育てとの両立が難しく、特に母子家庭では残業がある正規雇用での就業が困難であり、貧困状態に陥る。そこで、このような貧困世帯の就業者に対してリモートワークの促進を行政が支援する。希望者には、エクセルの表作成やプログラミングなどの技能講習や資格取得に向けた講習や研修を無償で提供する。パソコンなどの機材購入の補助金の給付など、国や自治体によるエンパワーメントや低所得者を優遇する税制改革を通して再分配後所得を底上げして相対的貧困率を改善し、子どもの貧困を撲滅する。

 

12.ヘビースモーカーでも肺ガンにならない人もいれば、酒も煙草も吸わないのに肺ガンを発症する人もいること。

ガンの原因が複数あり、発症機序が遺伝子の突然変異にかかわり、しかも複数の遺伝子が複雑に関係するものなので、完全な発症リスクを予測することが難しいから。

 

肺ガンの発症リスクは、煙草を吸っている(吸っていた)年数×1日の喫煙本数の積算で予測できる。喫煙の習慣がある人でも、1日の本数が少なかったり、喫煙期間が短かったりすれば肺ガンの発症リスクはそれほど高くはない。肺ガンの発症リスクは単に煙草を吸う、吸わないではなく、これまで吸った総本数であることを国民に周知させ、喫煙者に対しては、 今から禁煙すれば肺ガンの発症リスクを軽減させることができることを医療者や行政が国民に周知させる。また煙草以外の肺ガンの発症リスクについては、自動車の排気ガスやPM2.5 といった大気汚染が発症リスクを高める危険因子として知られている。空気清浄器に吸引した空気の中に含まれる汚染物質の総量を積算し、表示し、肺ガンの発症リスクを予測する機能を搭載する。汚染物質の総1日あたりのppm×日数によって、住民が空気清浄器や空調機を購入した日から合算した累積数値をもとにリスクを定量化する。空気清浄器の場合、顧客をモニターとして1万人あたりの肺ガンの発症率を当該メーカーの空気清浄器を用いていないグループと比較することにより、予防効果を検証する。


13.地震などの自然災害で無辜(むこ)の人が犠牲になること。

地震は完全に予知することはできず、加えて自然災害リスクを完全になくすことができないから。

 

某市で震度6以上の地震が発生したときの人的被害に対するリスクを以下のように定量化する。

 

某市で向こう5年間に震度6以上の地震が発生した
 × 
某市で5年以内に震度6以上ときに想定される犠牲者数(人)           

の地震が発生する確率(%)

  この数式のうち、まず、右の地震が発生する確率を低減させることはできない。したがって、「某市で向こう5年間に震度6以上の地震が発生したときに想定される犠牲者数」を低減する方策を考えることが現実的な対応である。

 初めに防災の徹底が挙げられる。特に公共建築については耐震や免震・制震建築を施す。民間の建築物に対しても、防災建築基準の監督強化が求められる。

 建物をどんなに強靭にしても大地震発生時に倒壊や破壊による人的被害のリスクが発生する可能性を排除することはできない。そこで、災害を前提にして建築物が破損しても人的被害を最小限に食い止めるための減災が重要となる。その際、ハードに加えてソフト、市民の行動が課題となる。災害時には早急な避難が生死を分かつ大きなポイントとなる。そこで、日頃から地域や近隣との連帯を構築することで社会関係資本を増強して住民の早期避難を進める。これにより、大地震時の人的被害の低減につなげることができる。

(4)追記

SFC小論文は数式を自分で作って定量的に考える方法をお勧めします。

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