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「介護を巡る凄惨な事件の背景と対策」福岡県立看護大学後期2018年

(1)問題

高齢者介護に関連した【資料1】~【資料8】をもとに,以下の設問1,設問2に答えなさい。*出題の都合上,資料については原典を一部改変している。
 
設問1 

①【資料1-1】のわが国の年齢区分別将来人口推計について(ア),(イ)に当てはまる数値を答えなさい。数値は小数点以下第2位四捨五入して答えなさい。解答は解答欄①に順に記入しなさい。

2060年は65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合は(ア)%となり,2050年の65茂以上の高齢者人日は2010年の65歳以上の高齢者人口の(イ,倍になると推定される。

②【資料2-1】の世界の高齢化率の推移について(ウ),(エ)に当てはまる語句を答えなさい。解答は解答欄②に順に記入しなさい。

2020年と2010年の高齢化率の差(高齢化率の上昇)が最も大きい国は(ウ)であり,その差(高齢化率の上昇)が最も小さい国は(エ)である。

③【資料6】のA,Bの下線部を漢字にしなさい。解答は解答欄④に順に記入しなさい。

④【資料6】の波線部C家族形態の変化とはどういうことなのか,資料を用いて簡潔に述べなさい。ただし,用いた資料番号を記すこと。解答は解答欄④に記述しなさい。

⑤わが国の高齢化率と要介護度別認定者数との関係について30字以内で述べなさい。解答は解答欄⑤に記述しなさい。

⑥介護を巡る事件の背景について(オ),(カ),(キ)に当てはまる語句を【資料5】~【資料8】の文中の言葉を抜き出して答えなさい。なお,指定された文字数で解答し,解答欄⑥に順に 記入しなさい。

(オ 三文字 )状態等の者を,( 力 二文字 )で支えることができず,家族が介護を1人で担うという( キ 二文字 )な介護が背景にある

設問2 【資料1】~【資料8】をもとに,「介護を巡る凄惨な事件の背景と,事件を防ぐための対策」について800字程度で論述しなさい。ただし,¨高齢者介護の現状"及び“介護保険制度の目的と課題"について必ず言及すること。

【資料1-1】年齢区分別将来人口推計

【資料1-2】年齢区分別将来人口推計
実際値推計値

【資料2-1】世界の高齢化率の推移

【資料2-2】世界の高齢化率の推移

【資料 3】65歳以上の高齢者のいる世帯の世帯構造の年次推移

【資料4】第1号被保険者(65歳以上)の要介護度別認定者数の推移

【資料5】

介護保険法
第一章   総則
(目的)
第一条   この法律は,加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態
となり,入浴,排せつ,食事等の介護,機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について,これらの者が尊厳を保持し,その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため,国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け,その行う保険給付等に関して必要な事項を定め,もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
(介護保険)
第二条   介護保険は,被保険者の要介護状態又は要支援状態(以下「要介護状態等」という。)
に関し,必要な保険給付を行うものとする。
2 前項の保険給付は,要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに,医療との連携に十分配慮して行われなければならない。
3 第一項の保険給付は,被保険者の心身の状況,その置かれている環境等に応じて,被保険者の選択に基づき,適切な保健医療サービス及び福祉サービスが,多様な事業者又は施設から,総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない。
4 第一項の保険給付の内容及び水準は,被保険者が要介護状態となった場合においても,可能な限り,その居宅において,その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない。
(中略)
(定義)
第七条 この法律において「要介護状態」とは,身体上又は精神上の障害があるために,入浴,排せつ,食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について,厚生労働省令で定める期間にわたり継続して,常時介護を要すると見込まれる状態であって,その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(以下「要介護状態区分」という。)のいずれかに該当するもの(要支援状態に該当するものを除く。)をいう。
2 この法律において「要支援状態」とは,身体上若しくは精神上の障害があるために入浴,排せつ,食事等の日常生活における基本的な動作の全部若しくは一部について厚生労働省令で定める期間にわたり継続して常時介護を要する状態の軽減若しくは悪化の防止に特に資する支援を要すると見込まれ,又は身体上若しくは精神上の障害があるために厚生労働省令で定める期間にわたり継続して日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態であって,支援の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(以下「要支援状態区分」という。)のいずれかに該当するものをいう。
3 この法律において「要介護者」とは,次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 要介護状態にある六五歳以上の者
二 要介護状態にある四十歳以上六十五歳未満の者であって,その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(以下「特定疾病」という。)によって生じたものであるもの
4 この法律において「要支援者」とは,次の各号のいずれかに該当する者をいう。一要支援状態にある六十五歳以上の者
二 要支援状態にある四十歳以上六十五歳未満の者であって,その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであるもの
(後略)
 
【資料6】

新たな高齢者介護システムの確立について(中間報告)

①当審議会は,高齢者に関する介護問題について,本年2月以来13回にわたって精力的に審議を重ねてきた。始めにわが国の現状や諸外国の動向について幅広く検討した後,高齢者介護の基本的な在り方や介護サービス及び費用保障の在り方について様々な角度から審議を行い。その間,関係審議会や関係団体等の報告の検討も行った。

②こうした審議の結果,今後わが国の高齢者介護対策が目指すべき方向として,新たな高齢者介護システムの確立について,以下のとおり中間報告を取りまとめたので,提言する。

③高齢者介護問題は,老後生活の最大の不安要因として,その解決が強く望まれており,当審議会においては,本中間報告を踏まえ,介護基盤の整備や介護支援体制の在り方,社会保険システムにおける具体的な制度設計などについて,今後更に具体的な検討を進めることとしている。

④また,先般行われた社会保障制度審議会の勧告においても公的介護保険の創設についての提言が行われたところであり,これらを契機に,国民各層において高齢者介護問題に関する関心が深まり,広範な議論が進められることを期待したい。
 
⑤高齢者介護の問題は,国民誰にでも起こり得る問題として,老後生活の大きな不安要因となっている。今日,介護を必要とする高齢者が増加するとともに,介護期間の長期化や要介護状態の重度化,介護者の高齢化が進んでおり,高齢者介護の問題は,昔とは比べものにならないほど普遍化し,そして深刻な問題となっている。

⑥高齢者自身にとっては,介護サービスの整備の遅れなどから,介護が必要な状態になった時に適切な介護を受けられるのかどうかなどといった点について,不安が高まっており,また,施設入所等の介護サービスを希望してもすぐには利用できないなど,十分な介護サービスが提供されているとはいい難い実態も見られる。

⑦また,高齢者にとって家族の存在は重要である。従来からわが国では,家族が介護の大きな部分を担ってきたが,それに対する社会的配慮が不十分であり,長期にわたる介護により家族の心身の負担が非常に重くなってきている。このため,家族間の人間関係が損なわれ,いわゆる介護放棄や老人虐待に至るケースや,介護のために家族が離職を余儀なくされるようなケースも見られる。

⑧こうした問題は,A(ちょうじゅか)の一層のB(しんてん),家族形態の変化や女性就労の増加により,今後ますます深刻化することが予想される。したがって,介護を要する高齢者やその家族に対し適切な社会的支援を行うシステムの確立が急務となっている。
(出典)1995年7月26日老人保健福祉審議会より抜粋
 
【資料7】

介護殺人や心中179件

13年以降高齢夫婦間が4割

①高齢者介護を巡る家族間の殺人や心中などの事件が2013年以降,全国で少なくとも179件発生し,189人が死亡していたことが読売新間の調査で明らかになった。ほぼ1週間に1件のペースで発生しており,70歳以上の夫婦間で事件が起きたケースが4割を占めた。介護が必要な人が10年前の1.5倍の600万人超に上る中,高齢の夫婦が「老老介護」の末に悲劇に至る例が多いことが浮き彫りになった。

②読売新聞は,13年1月から今年8月までの3年8か月間に発生し,介護を受けている60歳以上が被害者,その家族が加害者となった殺人(未遂含む)や心中,傷害致死などの事件を対象に調査。警察発表や裁判資料のほか,湯原悦子・日本福祉大准教授(司法福祉論)の研究資料などから事例を収集し,分析した。

③それによると,179件の内訳は,殺人(承諾殺人,嘱託殺人含む)85件,殺人未遂25件,傷害などによる致死22件,心中33件など。心中では複数が死亡するため。死亡者は計189人に上った。埼玉県深谷市で昨年11月,認知症の母親を]0年以上介護してきた娘(48)が,介護疲れと生活苦から両親と3人で車で川に入って心中を図り,両親が死亡した事件も含まれている。

④13年の国民生活基礎調査では,在宅介護を主に担う人のうち,70歳以上は38%だった。だが今回の調査では,加害者179人の中で70歳以上は87人(49%)にも上り,高齢の介護者は深刻な介護疲れに陥りやすいことがうかがえる。このうち,70歳以11の配偶者が被害者になったケースは72人で,全体の40%だった。

⑤また,国民生活基礎調査では,男性が主な介護者になっている家庭は31%にとどまるが,今回の調査では加害者のうち126人(70%)が男性だった。家事に慣れない男性の方が思い詰めやすい傾向が示された。

⑥今回,被害者に認知症の症状が確認できた事件は71件(40%)だった。食事や排せつの介助などによる体力的な負担に加え,徘(はい)回(かい)や幻覚,暴言などで疲弊した末に犯行に及んだケースが目立つ。

⑦警察庁は,介護・看病疲れが動機となった殺人(未遂含む)・傷害致死事件の検挙件数を集計しており,被害者が60歳以上だったのは13~15年の3年間で計104件だった。加害者が立件されなかった心中などは含まれていない。
⑧湯原准教授は,今回の調査結果について,「高齢になるほど体力が落ち,介護で追い詰められるリスクが高いことを示している。対策を取らなければ,同様の事件はさらに増えるだろう。国や自治体などが事件を調査・検証できる仕組みを早急に構築する必要がある」と指摘している。

⑨今回,家族の中で主に誰が介護をしていたかが特定できた事件の85%で,加害者が1人で介護を担っていた。孤独な介護が事件多発の背景にある。
⑩介護保険制度は,介護の「社会化」を目指して2000年にスタートし,公的サービスを提供することで介護家族を支えるはずだった。だが,現実には,費用の問題などで必要な質と量のサービスを利用できないケースが少なくない。介護者も周囲も「家族が面倒を見るべきだ」という価値観に縛られ,負担が限界を超える例が後を絶たない。

(後略)
(出典)2016年12月5日読売新聞
 
【資料8】

介護事件検証再発防止の鍵

自治体の積極関与必要

①介護殺人・心中などの事件を自治体が検証するにあたって,様々な壁があることが読売新聞のアンケート調査で明らかになった。超高齢社会の中,介護家族の孤立を防ぐためには,国や自治体がより積極的に検証などに取り組むべきだという指摘が専門家からは出ている。

②「事前に虐待の兆候などがなければ,事件について市が得られる情報はほとんどない」。千葉県木更津市の担当者は打ち明ける。同市では2013~14年,70歳代の夫婦の心中事件が2件続いたが,いずれも事件前は介護者に対する市の関与が薄かったといい,現在も検証の予定はない。

③今回のアンケート調査で,未検証の理由として目立ったのは「情報不足」だ。介護者が事件前に自治体側に悩みを打ち明けないケースも多く,「捜査が始まると情報収集が難しい」(山梨県上野原市)という。捜査中は介護関係者への接触が難しくなったり,口が重くなったりするためだ。

④15年,70歳の男性が介護していた母親を殺害する事件があった鳥取県伯耆(ほうき)町の担当者は,「検証は,介護事業所やスタッフヘの批判につながりかねない。担い手が少ない中,表立って行うのは難しい」とした。

⑤高齢者虐待防止法は国に虐待事例の分析を求め,厚生労働省は毎年,虐待の末に起きた重大事件などについて件数や被害者の年齢層などのデータを公表している。個別の事件を検証するかどうかは自治体任せになっているのが実情だ。

⑥これに対し,児童虐待防止法は国と自治体に重大な虐待事件を分析する責務を課し,厚労省は個々の事件で外部の専門家を入れて報告書をまとめるよう通知。多くの自治体では関係機関からヒアリングしたり,職員が裁判を傍聴したりして情報を集めている。

⑦国の補助で高齢者虐待対策を研究する「認知症介護研究・研修仙台センター」(仙台市)は3年前から,個々の事件の検証を提言している。主任研究員は「検証の難しさはわかるが,自治体は住民福祉に対する責任を負っており,検証の必要性について関係者に理解を求めるべきだ。国も自治体任せにせず,効果的な検証手法を提示する必要がある」と指摘する。

⑧検証を実施した自治体では,事件の予防に向けた対策が始まっている。

⑨埼玉県坂戸市は,老老介護に悩んだ夫が妻を殺害した今年6月の事件を検証。今月11日に介護体験者の講演会を開催し,担当課長が「このような事件が二度と起きないようにしたい」と趣旨を説明した。

⑩13年に夫が妻を殺害する事件があった滋賀県守山市では,市長を交えた検証会議で,夫が支援を求めていなかったことを重視。要請がなくても,保健師らが「認知症で要介護3以上」の高齢者がいる家庭を回ることにした。家族から「肩の荷が下りた」と感謝されたこともあったという。

⑪ただ,介護の悩みはプライバシーに関わることも多く,自治体の関与には限界もある。

⑫14年に介護疲れによる殺人事件があった北海道中標津(なかしべつ)町では,介護者が悩みを語り合う会合に町職員が毎回参加することにした。だが,介護者側から「自分たちだけで話したい」との声が上がり,現在は要望があった会合など以外は参加を見合わせている。対策に住民の理解をどれだけ得られるかも,今後の課題となりそうだ。

(出典)2016年12月19日読売新聞


(2)解答例

設問1 

①(ア)39.9 (イ) 1.2

② (ウ) 日本 (エ) アメリカ

日本:1.32、イタリア:1.18、スウェーデン:1.13、スペイン:1.19、ドイツ:1.28、

フランス:1.12、イギリス:1.10、アメリカ:1.11

③A:長寿化 B:進展

④核家族化

⑤高齢化率と要介護度別認定者数との間には正の相関関係がある。(30字)

⑥(オ)要介護 (カ)公費 (キ)孤独

 

設問2

 介護保険制度は被保険者である高齢者の心身の状況や置かれている環境等に応じて適切な保健医療・福祉サービスを総合的かつ効率的に提供する社会保障制度である。介護は在宅が中心となり、家族が介護を行い、保険料によって民間の介護サービス会社が補うものである。したがって、特に高齢者が単身で介護する場合には、その心身にかかる負担は相当なものとなる。身近に介護にかかわる悩みを相談する相手がいない場合には、介護者が孤立し、殺人や心中といった悲惨な事件につながるケースも報道されている。

 介護期間の長期化や要介護状態の重度化といった深刻な問題に対して、ゴールである介護からの解放はすなわち被介護者の死を意味するという矛盾がこの問題に内在している。このことも介護者を疲弊させ、介護放棄や老人虐待に至る一因となっている。ところが、介護保険制度は被保険者へのサービスが対象となるため、介護者への心身の問題に対する支援については、これまで看過されてきた。

わが国ではこれから急速な高齢化を迎えるなか、こうした課題を解決するためには、介護者の家族に対する支援が喫緊の課題となる。具体的には、訪問介護や看護にあたる者は被介護者だけでなく、介護にあたる家族のケアも対象にして業務を行うことが必要となる。こうしたシステムを整備するには、介護保険法の改正も念頭に置いて考えなければならない。介護家族の孤立を防ぐためには、自治体の関与には限界がある。行政だけに任せるのではなく、地域住民の連帯も重視されるべきである。特に老々介護の家族に対する周囲の声かけや見守りから始めて、できるだけ介護者の孤立を防ぐこと。これが介護を巡る凄惨な事件を起こさない取り組みの第一歩である。2025年にはいわゆる団塊の世代が後期高齢者となる。このような超高齢社会に生きる私たちは、いま社会的な支援の広がりを模索するべき時期にきている。(790字)

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