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「子どもたちの未来」順天堂大学医学部2012(平成24)年

(1)問題


W. Eugene SmithによるThe Walk To Paradise Gardenと題された写真です。男性は写真右の男の子に、女性は写真左の女の子になったと仮定して、彼らは何を考え、これからどこに行こうとしているのか、800字以内で述べなさい。


(2)考え方


「彼らは何を考え、これからどこに行こうとしているのか」という設問には当然答えるほか、次の内容を必ず含ませること。

写真の状況説明をする。

前方→光、後方→闇

前方は未来と考え、光が何のメタファー(比喩)か。

後方は過去と考え、闇が何のメタファー(比喩)か。

自分のこれまでの履歴を書いてもよいし、日本や医学会が置かれた歴史や現状について考察してもよい。

要は自分の志望理由に引きつけて書けばよい。

最後は決意表明で締めくくる。



 

(3)解答例


 これまで私は暗く苦しい道を歩いてきた。医学部入試の受験勉強は孤独である。順天堂大学受験を決意して以来、果して自分は合格できるのだろうか、そんな不安が頭をもたげてきた。幸運にも合格して入学してからも苦難は待っている。長時間の勉強に耐え、数々の試練を乗り越えて、厳しく険しい医学の道を歩き医師国家試験に合格できるのだろうか。

 多くの不安を抱えながらも、前を見ると光が見える。私の歩む先には、光あふれる明るい世界が拡っている。そこは天国とでも形容してよいところだ。私は医師になる。なってみせる。医師である私の隣には患者がいる。患者にとって天国とは、痛みのない世界である。

 患者が直面する痛みには4つある。肉体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛、この4つの苦痛を取り除くことが私の仕事になる。でも、医師として私ができることは肉体的苦痛と精神的苦痛の一部を改善、解消することで、私の能力は限られている。

 しかし、私の歩む先には仲間がいる。肉体的苦痛、精神的苦痛は医師・看護師・薬剤師のほか、カウンセラーが癒してくれる。社会的苦痛にはソーシャルワーカーが。スピリチュアルな苦痛に対して時には宗教家の助けを借りることもあるかもしれない。私にはこうした大勢の仲間がいる。仲間に支えられているからひとりで悩むことはない。これら専門職の人々と協力すれば、患者の4つの痛みをきれいに無くすことができる。

 だから、不安になったり、もう恐れたりすることはない。未来に向けてひとつひとつ目の前の課題を克服して、前を向いてしっかりと歩いていこう。そこには患者にとって痛みのない、天国のような世界が待っているから。私たちの手でこの光あふれる世界の光源を守り、支えていこう。(779字)
 

(4)解説


●4つの苦痛とは

①身体的苦痛

末期がんでは激しい苦痛を伴います。

この苦痛を除去するために、鎮痛剤やモルヒネ等の麻薬を使用する場合があります。

②精神的苦痛

精神的苦痛とは、死への恐怖や、自分が死ぬことでショックを受ける家族に対する思い、残された子どもの将来に関する不安、特に若い世代の患者は未来を喪失することの絶望など、心のうちのさまざまな葛藤や辛苦を指します。

これは、医師が鎮静剤などを処方することである程度改善はできます。

ですが、この苦痛の緩和は、カウンセラーや看護師などが中心となるものです。

患者の話に耳を傾ける、手を握る、背中をさするなどといった患者との言語的・身体的コミュニケーションが重要となります。

③社会的苦痛

自分の遺産相続をめぐる問題や、仕事や会社の将来を案ずる気持ちなど、患者の社会的地位や社会的な人間関係に由来する労苦を指します。

④スピリチャルな苦痛

このスピリチャルな苦痛(スピリチャル・ペイン)は説明することが一番難しい苦痛です。

『死にゆく人の心に寄りそう 医療と宗教の間のケア』(玉置妙憂、光文社新書、2019年)には「答えのない問いがスピリチャル・ペイン」(P173)とされています。

自分が死ぬ理由や、死後の世界への不安、自分の余命などといった、医療従事者にとって明確に説明することが困難な問題がスピリチャルな苦痛にあたるものです。

この苦痛は医療従事者よりも宗教関係者が扱う世界となります。
もともと終末期医療を行うホスピスは、ヨーロッパのキリスト教聖職者が教会で行っていたものを起源とします。

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