我が家の庭先で鳩が子育て

鳩の子育て
ヤマバト

       
 玄関真上で子育て

 動物の生態観察となると、カメラをぶらさげて数日、あるいは数か月にわたり、国内または国外を旅しながら、同じ被写体を追い続けなければわからないものだが、これは自宅に居ながら観察した「観察日記」である。

ヤマバトは学名キジバトで、街中のドバトとは違う。「ドドツポッポー」と聞こえる鳴き声は、ふるさとへの郷愁を偲ばせるためか懐かしく思われ、好きな鳥でもある。

 東京の東玄関、千葉県は船橋市。いまでは住宅街として開発され、街になっているが、近くにはその昔、徳川将軍がキジ射ちに度々ご来こうしたといわれる森や、成田山にさい銭箱を運ぶ江戸の職人たちが成田山と間違え、さい銭箱を置いて帰ったことから、成田山の兄弟寺として有名な御滝不動。御滝公園などがあって、昔ながらの緑地がまだ残る。そんな住宅街の一角にわが家がある。数平方メートルのほんのささやかな庭に、ヤマバトが巣作りしたのだ。それも家人の出入りが激しい玄関の真上。軽くジャンプすれば届く位置のみかんの木の枝に。

 夫婦でせっせと枯れ枝を運び、マイホームを作るのだが下手だ。粗雑で隙間だらけ。しかし、Y字形の小枝と小枝をからめて、とても偶然とは思えないほどがっしりとして丈夫だ。卵が落下しないかと心配してゆすって見たが、中は鉢状になっていてその心配はなさそうだ。それにしても、ほんの50メートルも飛べば自然の場所が、さらに500メートルも飛べば、更に安全で子育て出来そうな場所がいくらでもあるのに、どうしてこんなところを選んだのか、不思議でならない。この鳩夫婦にとって「この家の住人は心やさしく私達夫婦はもとより、生まれてくる雛たちも可愛がってくれるに違いない」と思ったかも。そう勝手に考えるとこの鳩夫婦が一層可愛くなってきた。

 小枝をくわえて門柱に止まっている姿は何度か見たが、まさか玄関上だったとは思いもしなかった。巣つくりに幾日かかったかは知らない。抱卵を確認してから21日目で一羽の雛が、更に一日おいてもう一羽がふ化したが、卵を温めたのは夫婦協力。朝とお昼に各2回ずつ交代し、夫婦仲もいい。交代時にはお願いするように何度も頭を下げ、おじぎする礼儀もわきまえている。

 給餌は生後間もない頃は頻繁に、父母交互で運ぶが、大きくなるにつれて給餌時間もだんだんと長くなり、草や木の実をたっぷり食べ、お腹を大きくして戻ってくる。口を開いて待つ子に与えるのではない。ひなが親バトの口の中に自分のくちばしを突っ込んで食べるのです。ピジョンミルクといわれるハトの乳。ミルク状態に消化した栄養たっぷりの乳を喉から戻して与えます。ひなは「ピー、ピー」と催促し、身体を激しく動かしてしゃぶりつく。驚くほど食欲旺盛だ。よく食べるということはそれだけ排泄も多くなる。しかし、排泄物で巣を汚すようなことは決してしない。フ化後数時間で第一回目の排泄をするが、その時から巣の外側でするようにプログラミングされているようだ。親鳥も巣の衛生には気をくばり、卵の殻も持ち去る。寄生虫の発生を防ぐためのようだ。また周囲に怪しい気配を感じると、たとえ食事の最中でも親はピタリと動作を静止、ひなも巣に伏せたまま動かなくなる。親子にサインがあるらしい。しかし、それは隣家の物音や、人の声がした時のことで、我が家の家族の場合はちょっと違う。抱卵の時もそうであったが、給餌の時でも巣の直下で会話しょうが、仕事しょうが平気。よほど慣れたのか、野生の大ざっぱさがまだ残っているのか。そのせいか2羽のひなは、緑のゆりかごの中で仲良く育った。私は2羽のハトに鳩太郎と鳩姫と名付けた。

 鳩

太郎と鳩姫は風の色が光る巣に立ち上がり、よく羽ばたきの練習を始めていた。生後2週間目の金曜日。この分だと明日には巣立つのかも知れない、と心待ちしていた翌早朝、早起きして巣を覗くとものけの空。2羽とも無事に巣立って行った後でした。

 それから半年後。この夫婦は再び同じ巣に来て子育てを始めた。これでこの夫婦がここで子育てするのは三回目となる。このハト夫婦にとってすっかり実家になったらしい。

3回目の今回は、どのようにして子供を連れ出すかについてビデオカメラを設置し観察した。

 観察によると、巣立ちの日には母親が巣から少し離れた所まで来て、しきりに子供を呼びます。子供が来ると今度は道路を挟んだ電線まで飛び、そこで再び子供を呼びます。次に少し離れた隣家の塀まで行き、そこでまた呼ぶ、といった具合で、少しずつ距離を伸ばして、子供を連れ出すことがわかりました。そして、連れ出す時刻は、通常日だと、食事を運んでくる時刻なのに、巣立ちの日には食事ではなく、外から呼ぶことも分りました。

つまり、母親は食事をエサに子供を呼ぶ。お腹を空かした子供たちは、食事欲しさに母親の後を追って行ったら、いつの間にか巣から遠く離れていた。と、いうことになる。母親の思惑はそこにあったわけで、子供たちを巣から連れ出す最高のテクニックは「欲がるもので釣る」であったのです。

人間の子供の場合、「ダメ人間にする最短の方法」は、何でも欲しがる物はすぐに与える事です。逆にいい人間に育てたいと思ったら、欲しがる物を目の前に置き、しつけることです。如何でしょうか。ハトに見習うまでもなく試して見たら。


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