【今日コレ受けvol.034】話す喜び、働く喜び、買う喜び
朝7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。
会ってみたいロボットがいる。
『OriHime』だ。
東京、日本橋にある『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』。OriHimeは、そこでフロアサービスを担当している。
いや正確には、サービスを担当しているのは、OriHimeのナカノヒトたち。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)ほか、さまざまな病気、障がいが理由で外出が困難な方々が、自宅から遠隔操作でサービスを行っている。
ゲストはOriHimeにドリンクやフードをサービスをしてもらいながら、ナカノヒトである彼/彼女たちとゆっくり会話を楽しめるのだ。
このような働き方を、開発者である吉藤オリィさんは「アバターワーク」と名付けている。アバターロボット(遠隔操作ロボット)を使った労働を指す新しい言葉だ。
店名の『DAWN』は、新しい時代の「夜明け」を意味している。
OriHimeの取り組みをテレビで知って、最初に頭に浮かんだのは祖母だった。かつては一緒に暮らしていたが、認知症が進んで徘徊による行方不明が何度か続き、「両親が共働きの我が家では介護が難しい」と親戚の家に引き取られ、最後は施設で亡くなった。
施設に入ってから会いにいったとき、衝撃を受けた。変わり果てていたからだ。
家にいたときは認知症だったものの、祖母の膝でよく一緒に時代劇を見た。母や近所の人を「泥棒」と決めつけて怒鳴ることもあったが、ニコニコ笑って時代劇の名優について教えくれたこともあった。
けれどそこにいた祖母は、痩せ細り、口を開くこともなく、ただ横たわっていた。そして、とても悲しそうな目で私を見た。
おそらくだが、祖母は見知らぬ人ばかりの施設で、心を閉ざしたようだった。まだ入居者同士の交流があまり推奨されていなかった時代だ。
「一緒に家に帰れないの?」と母に聞いたが、首を横に振られた記憶がある。私はいたたまれず俯いて、ただ、祖母の手をそっと握った。
もし、祖母のような人が、OriHimeを通じて社会と接点を持てていたなら。
認知症だから難しい? いや、OriHimeは、注文を間違えることもよくあるという。それも込みで、コミュニケーションを楽しむ場所なのだ。
しかも、OriHimeのナカノヒトは、時給1,000円を支払われる。自分で働いたお金で、自由に何かを買う喜びが人にもたらすモノは、想像以上に大きいのではないか。
過去、東京出張のタイミングで『DAWN』について調べたとき、残念ながら休業中だった。だが今年5月にリニューアルオープンし、なんとちょうど今、京都にも期間限定でオープンしているという。
今度こそ、OriHimeに会いにいきたい。
直接会って話すことで、ナカノヒトについて、そして、そこでなにを得られるのかについて、もっと知りたい。
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