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いま話題のハートネットTVに出たことがあるので語ってみる

NHKのハートネットTVの制作部署が解体されるという報道が出るなどいろいろ騒がしい。昨年の夏、「ひきこもり新時代-わたしたちの文学」という番組でディレクターさんたちにお世話になったので他人事ではない。

ちょうど「ひきこもり新時代」が再放送されて昨年よりも反響が大きいので、番組の収録したときの裏話を話したい。

ハートネットのディレクターさんは、半年近くかけてひきこもり関係のイベントや居場所に足を運んでくれた。ひきこもり専門誌「ひきポス」の編集会議にも来てくれた。丁寧に時間をかけて、ひきこもり当事者や経験者との信頼関係を築いてくれた。

これは当たり前のようにみえて当たり前ではない。「テレビに出られるんだから嬉しいでしょ?」とか「こういうタイプのこういうひきこもりを紹介してほしい」とか言ってくるマスコミは多い。ひきこもりの派遣会社だとでも思っているんだろうか。いまどき、テレビに出られて嬉しいとでも思っているのだろうか。

そういう不信感がある中、ハートネットのディレクターさんの丁寧な対応は、ひきポスの編集部員たちの心をつかんだと思う。僕もハートをつかまれた一人だ。ある日、そのディレクターさんから「さとうさん、ご自身が書いた文章を朗読してみませんか?」と頼まれた。最初、冗談だと思った。でも、本当だった。

朗読の練習をする必要はないというのでぶっつけ本番で収録をした。ディレクターさんにスタジオまで車で送迎しましょうかと提案されたが断った。僕はパニック障害なので車に長時間に乗るのはきついんだ。電車もきついけど、駅に降りて一休みしてからまた乗ればいいので車よりハードルが低い。

スタジオに入ると、「さとう学さん、入りま~す」とスタッフの方々。おっ、ノリがいいぞ。待機する部屋も用意されており、お菓子や飲み物もあった。でも、緊張していっさい手をつけなかった。収録は5~6時間もかかった。1台のカメラを使って、正面と左側面と右側面から撮る。だから、時間がかかる。

(※ディレクターさんが写真を撮って送ってくれた)

同じ文章を何度も何度も朗読。自分の文章なのに飽きてきた。腕を一定の高さに保つのも疲れる。顔がアップになるシーンのときは腕が疲れないように座布団をあいだに挟んだり工夫した。音声さんだってずっとマイクを持っているので疲れているはず。白鳥が優雅に泳いでいるようにみえても水面下では足をばたつかせているのと同じ。

朗読の場面を撮り終えてつぎはインタビューを撮るというときにはもう疲れて帰りたくなっていた。お家に帰りたい、お家に帰りたい、帰りたいYO!

「視聴者や同じ当事者にメッセージがあればお願いします」とディレクターさんが聞く。
「特にないです」と僕。沢尻エリカか。下手にアドバイスなんかしたら、やれ上から目線だの、やれ偽こもりだの、やれお前は恵まれていただけだのと叩かれるのがオチ。早くお家に帰りたい。

いったん撮影が中止になった。ディレクターさんが困っていた。そんなとき、カメラマンさんがこんなことを言った。「さとうさんのこの文章を読むと、『家のなかに閉じ込められたときのために銀の匙をもっておけ』と書いてあるじゃない? そのときはどんな気持ちだった?」。

「あ~、たしかに。家から逃げ出すのをあきらめないって気持ちがあったのに次の日になるとまた気持ちが揺らいであきらめてしまって」と僕は苦笑いした。その場面がカメラに撮られていて番組に使われていた。カメラが止まっていたと思ったのに。この場面が好評でいろんな方に褒められた。

たとえば、市役所の障害福祉課の職員さんには「お母さんの気持ちもわからなくないから……。複雑な気持ちで。朗読が終わったあとのホッとした顔をみてこちらがホッとしたわ。そのあと笑顔がみえたから朗読のときの緊張感との落差がすごくよかった!」と言われた。そして、若い職員さんに再放送があるから見るのよと伝えていた(笑)。

薬局の薬剤師さんには「テレビ見ましたよ~。ここ(薬局)の人たちも何人も見たと言ってました。ところで、新垣結衣のような女性がタイプなんですね」と言われた。そこか!

構えて話しているところではなく、そういう素の部分を撮ってくれた。長い時間をかけてディレクターさんたちと信頼関係を築けたからこそ、こういう場面も出たんだと思う。ディレクターさんから放送終了後もすぐにメールが来て労いと感謝の言葉がつづられていた。

後日、クローズアップ現代のスタッフ、ハートネット、ひきポスの編集部員たち合同でお疲れさま会をした。視聴者の反響や今後もひきこもりの報道を続けたいとお聞きすることができた。

“マスゴミ”と叩かれることも多いが、こういうマスコミの方々もいることを多くの人に知ってほしい。

※ひきポス2号に掲載された「銀の匙をもて」が全文読めます。刑務所をスプーン一本で脱獄する囚人のように、家という監獄に閉じ込められても決してあきらめるなという記事を書きました。


記事の内容がよかったぜという方だけでなく、喜捨して徳を積みたいという方にも喜んでいただけるシステムになっております。この機会にぜひ(^_^)v