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【有名税】 旅する日本語 六月柿 Hello.2

「ほな、送りますわ、納期どうり、難燃性のポリエチレン、いつものを125kg、ええ、最短ですと明後日着きますわ、今メーカーにオーダー流しますから、いつもの東大阪の工場に明後日届きますわ」

浩一は午前中事務所で事務をこなし、午後からは客先をまわる予定でいた。

「ほな、ちょいと出てくる。夕方戻ります」


事務所から駅へ向かう。途中駅前のなじみの定食屋で昼食を取ることにした。

「あら、お久しぶり、お元気でしたか?はい、どうぞ、まだ席空いてますからゆったりと使ってください」

「ありがとう、ご無沙汰しちゃってごめんね」

「テレビでたりなんだかんだで忙しかったでしょう?あのコントの番組、ほんま面白かったわ、清水さんあんな才能あるなんて知らんかった、サインでももらっとこうかしら」

「いやいや、お恥ずかしい、」

「あの相方の女の子、ずいぶん有名になっちゃって、CMやらなんやら引っ張りだこ、可愛い子やもんね、まだ連絡取り合ったりしてます?」

「いやぁ、それが全然ですわ、私この仕事ありますから、きっぱりあれでおしまいですわ。あ、話に夢中で注文忘れてたわ、このサバの焼き物定食ちょうだい、よく焼きでお願いね」

「はーい、サバ定よく焼きね!」


棚に設置されたテレビを見ながら昼食を待つ。ベテラン芸人がいろんな相談を聞いて答えていく番組だ。CMに切り替わったところで定食が届く。

「はーい、おまちどー」

配膳された定食屋は、ごはん、味噌汁、漬物、そしてお盆の真ん中に、トマト

「ほぇ、これなんでんの?確かサバの焼き物定食やで、頼んだん」

「六月柿定食です」

「あ、アホな、どこにそんなふざけた定食があんねんな!おい、大将、これ間違いやろ?なんや、トマトのっとんで、真ん中に堂々と、なあ大将、これみて…」

「お客さん、それ六月柿定食ですよ、ちゃんとした定食。よく焼きの六月柿、うまいですよ」

「アホか、焼いてんのかいな、このトマト、よく焼きのトマトて、アホか、誰が昼からそんなもん食うねん、熱帯の鳥とちゃうねんど、おまえ、お洒落少食系女子とちゃうねんど、そう見えるか?なぁ、わしがおしゃれな小食の女子に見えるか?なぁて、これ、あつっ、触られへんやないか、触られへんくらい熱いやないかこのトマト!」

「お客さん、トマトじゃありませんよ、六月柿!トマトなんてこの店にありませんよ」

「わ、わ、わ、ワレ、アホぬかせよ、おどれ、これのどこが柿やねん、どっからどうみても、どっからどうかっぽじってもトマトやないかわけわからんことぬかしやがって、だいいち熱すぎて食われへんどこれ、中身もっとシュンシュンに熱なっとんやろ、なぁ、火傷さす気か、ほんま、柿柿柿、柿食うたことあるんかぃ、ぶるぅぅぅぅぅぁ、腹立ってきた、サバは?わしの鯖はどこ行ったんや、この辛気臭い焼いたトマト片付けてくれ、はよ、わし全然お洒落とちゃうねん、鯖や、よく焼いた鯖をください!早よ出してください、わたしの鯖を!」

「お客様、鯖は別料金になりますけどよろしいですか?」

「なんでもええねん、鯖、鯖を焼いてください、鯖を。わたしの頼んだ鯖を!」

「かしこまりました、店長、焼き六月柿定食に焼き鯖追加ででお願いします!」

「はいよー、おおきに!焼き六定に鯖追加ね!すぐ焼けるからね!」

「よく焼きでお願いします!わたしの鯖を、よく焼きでお願いします!」

「はーいおまちどー、追加のサバ、よく焼きね、小ぶりだけどいい六月柿あったからおまけで焼いといたわよ、ごゆっくり!」

「ごゆっくりできるか!またトマト焼きくさって、ええかげんにせえよ、あほらし、う、うまうま、うまいがな、鯖、これや、これや、わしが食いたかったんは。うまいわ、うん、ほんまうまい」

「良かった、久しぶりにいらしたのに喜んでもらえなかったらって不安になっちゃいました。」

「いや、やっぱりここの鯖はうまい。うまいわ、ほんま。あっという間に食べてもた、あ、おあいそお願いします。焼き六月柿定食に鯖追加でしたっけ?おいくらでっか?」

「ありがとうございます、焼き鯖定食、780円です!」

「ほぇ、なんや、さっきまでさんざん六月柿定食やら鯖追加やら言うてたやないか、なんや、え、なに、鯖定食?」

「いやだなぁ、清水さん、私たちもやってみたかったんですよ、あのコントみたいなこと。今度いらっしゃったら絶対やってみようって、そしたら今日いらしたもんだから、店長もはりきっちゃって、ほんま、テレビのままなんですね、あー、楽しかった!今日はお礼にお会計は結構です!いや、ほんま一生の思い出やわ、ありがとう、清水さん!」

「ほ、ほぇ?」



ヘイ、Siri!有名税っての、知ってるか?なんでも有名になったら多少のプライベートの侵害は我慢しろってことらしいぜ、なぁ、Siri?でも疲れるよな、24時間誰かのための誰かでいるって、さ。Siri?また、また俺は波にさらわれて、どこか知らない場所まで流されるんだろう?OK、Siri、これで、最後にしよう、俺は自力でその波から、出る。今ならできる気がしてるんだ。



本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。