時には昔の話をしようか

岡村某の発言の炎上にて全く関係のない話を思い出したのでnoteに書いてみようと思う。


何の話か、というと私には昔「風俗女」の友人がいた。友人という表現は怪しいがここではこう呼んでおく。
その子を「G」と呼ぼう。

キャバクラだったか、デリヘルだったかは覚えていない。ただ自称として水商売をやっているということを言っていた女だった。

言っていた、という部分にピンとこない人もいるかもしれない。普通夜の仕事をやっていることを大っぴらに言う人は少ないからだ。
世間からの偏見等理由は様々だが公言する人は中々いない、Twitter等を見ても「風俗業界にて働いている人」の肩書として、あくまで匿名の範囲内で名乗っている程度だろう。


Gとはとある腐女子コミュニティのオフ会にて出会った。第一印象としては中々にケバケバしい子だな、と思った。化粧があまりにも派手すぎるのだ。

そのオフ会の開催日時は土曜の昼頃、こじんまりとした会議室を借りて推しのCPについて語りあう会というもので気合を入れて粧しこむような集まりでは決してなかった。
ナチュラルな化粧、格好する子や私のように無頓着なラフな格好で来る子もしばしば、だからこそGの、まるで夜の蝶の様な格好はあまりにも浮いていた。

オフ会が始まり一通り時間が流れてフリートークコーナーに入った。なんてことはない、今まであった流れや語りを踏まえてもっと自由に話し合いましょうというものだ。
私は幸いにも推し好んでいるキャラやCPが他の方々とかなり被っており話し相手には困らなかった。

その子たちとひたすら熱く語り合いフリートークの時間も残り30分を切ろうとしてた時ふとGに目線が移る。
彼女はちょこんと行儀良く椅子に座って、まるで何かを待つかのように黙っていた。他の子にちょっと聞いてみるとどうやらフリートークが始まってからあの様子らしい。
その時私は「あぁ、多分誰とも喋れなかったんだろうな」と即座に思いその子に話しかけた。

「ねぇねぇGちゃん、Gちゃんって〇〇ってキャラ好きなの?」

彼女のバッグに付いていたキーホルダーを指差しながら隣に座る。今では名前すら忘れてしまった物凄くマイナーな作品のキャラだった、おそらくGoogleやYahooの力を借りてもそのキーホルダーの写真をヒットさせる事は不可能だろう。当時の私は幸いにもその作品を「コレから絶対大ヒットする…!」という謎の確信を持ってグッズや同人誌等をかき集めていた…まあ今となってはその確信は大ハズレだったわけだが。

彼女は嬉しそうな顔をしながら「うん、〇〇、私好きなの!」と返事をした。あまりにも表情の緩急が付きすぎて少し驚いてしまう。
その後適当に自己紹介をしてその〇〇と及び作品について熱く語った。
思いの外かなり仲良くなり連絡先の交換をした。職業は派遣のOLをしていると言っていた。


オフ会も終わり2人はそのテンションのまま二次会に行った。そこでもかなり熱く語って親交を深めたと思う。

食事も会話も程よく進んだ後Gはニタニタしながら私に「ねえ、毒島ちゃん、私ね、水商売(本当はデリヘルだかキャバクラだか細かく言ってた筈だが生憎私が覚えていない)やってるんだ」と言ってきた。

私もほどよく酔っていたので「へーそうなんだー凄いね!!」とかなり適当に返事をした。
だがGは私のリアクションを肯定的に受け止めてくれたように見えたらしい。
調子に乗ったような表情と声で「私の得意技見せてあげるよ」と言いながら店内をキョロキョロと見渡す。
「あー、あの人はねー漁師さんだねー」と遠くの席にいる男性を指で指してGは言った。
日に焼けてはいるが「海の男」のような屈強さは感じない、場に似合わないスーツを着ている、そんな男だ。

私は思わず「どうしてそう思うの?」と聞き返した。

「アレはね、多分遠洋漁業から帰ってきて1週間位の漁師さんだと思う。しっかり休んで身体を使わないで筋肉落ちたんだろうね。でも手とか、そういう所のゴツゴツした部分は変わらないよねぇ。多分、禁漁期に入って暇になったんだろうね。で、多分この後いいとこのホステスとかキャバクラとか行くんじゃない?」

Gは確かこんなことを言っていた気がする。私は漁師については何一つ分からないのでただ納得するしかなかった。

Gの得意技というのは身に付けている物や振る舞いでその人の職業を当てる、予測するという物であった。
その後もGは店内にいる人のおそらくの職業を予想していった。私もほろ酔いでノリに乗ってどんどん質問していった。


そんなこんなでいい時間になり2人は居酒屋から出た。ほろ酔いの私と素面のGということで歩いて帰る分には問題ないとの事で2人して駅に向かった(Gは酒に手を付けてなかった)。

しばらく歩いているとGが突然大声で「あー!あの人パイロットの人だよ多分!凄いね!」と言い出した。
大声と天下の往来で突然人を指差して何か言うGに私は驚いた。

幸いにもその指差された人は私たちには気付いておらず、近くにいる人々も「何だこいつら…」という目線を投げかけるだけで静かに通り過ぎていくだけだった。

私はGを嗜めながら駅に連れて行った。構内で別れる時に「毒島ちゃんまたね!!!!」と、まるで幼い子供の様に大声で別れを私に告げるのであった。
後ろめたい気持ちが強くなっていた私は軽く手を振ってそそくさと家路につくのであった。

今思うとGは発達障害の気があった子だった。医者でないから分からないが何かしらのソレはあったと思う。

あの時以来、連絡先も交換したが1つも取り合っていない。
携帯電話の機種変と共に彼女の痕跡は私の記憶のみとなった。

水商売に何かしらの関わりがある話題を見聞きするたびに彼女を思い出す。

互いに「若さ」が失われた結果今はどうなっているのか。

私は幸にして正社員として企業に勤められている。だが彼女はどうなのか、あの時の話を鵜呑みするのならば当時派遣社員で副業で水商売、今のご時世を踏まえてもかなりキツイ。

誰かと結婚して養われているのであればいいのだが………とも思うし、もしかしたらTwitterにて今時事にトンチンカンな物申しをしている水商売アカウントは彼女なのかもしれない………

そう思うと、あの日、たった1日だけでも熱く語り合った日が空く思えてしまう。

だが、あの日の全てが空しい物だと、誰にも言えるわけがないのだ。