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あまり語られない90年代末頃のおしゃれコミックを雑に語る

90年代末から2000年頭にかけて、若い女性向けのコミックが活況だった。レディコミとも少女漫画ともちょっと違う。ジャンルではヤングレディースになるのだろうが、それよりもう少し尖った印象のものだ。

漫画雑誌はキリがないのでガンガン捨てるのだが、当時からなんとなく時代の徒花感あって捨てずにとっておいたものが出てきたのでこれを機にインターネット上に情報を残したいと思う。

FEEL YOUNG 増刊 SingSingSing 【1998.9.2発行】

表紙・安野モヨコ

ヒット曲をマンガで読もう!というテーマで組まれたフィーヤンの増刊号。この増刊に入っていた広告見ると、フィーヤン本誌ではハッピー・マニアが大人気で6巻が発売した頃だ。そしてフィーヤンでは読者プレゼントにオリジナルピタTをつくっていた模様。

TシャツといえばピタTの時代。
目次

内容はこのように、それぞれひとつの曲をイメージした読み切り作品が並ぶ。表紙に「ヒット曲をマンガで読もう!」と書かれているが、インタビュー陣が曽我部恵一やかせきやカヒミという時点で、いわゆるおなじみの平成ヒットソングたちというわけではないことがわかるであろう。この頃のガチヒット曲であるGLAYもELTもSPEEDも入っていない。サニーデイは2曲も入っているのに。

COMIC an・an  【1999.5.20発行】

表紙・安野モヨコ

女性ファッション・総合誌『anan』の増刊としての漫画誌が世紀末にでていた。そもそもマガジンハウスは『COMICアレ!』(1993~1997年)という漫画誌を出していてそれの廃刊後、男性ファッション誌『popeye』の増刊号として『COMIC P!』というのも1冊出していた。

COMIC P! 【1998.5.15発行】

表紙・トータス松本(ウルフルズ)
目次。土田世紀先生の『あいつ雲』がやたら印象深い。機会があれば一度読んでみてほしい。

一応popeyeの増刊という扱いだし謎に表紙がトータス松本の絵というところからも基本『COMICアレ!』の流れにありつつ1994年に創刊した『COMIC CUE』に近い印象。

『COMIC an・an』に話を戻すと、表紙に“恋もおしゃれもひとりじめ!”のキャッチコピーもあり、『COMIC P!』よりかなり女性向けになっている。an・an感要素はわからない。というかこの頃のan・an読者層というのも私にはよくわからん。

コミックアンアンの目次。

ところでメイン扱いの安野モヨコ先生の「プルヌス・セルラタ」、表紙には“あのハーレム・ラブがついに再登場”と書いてあるが再録なのか?続編なのか?現在インターネット上に「プルヌス・セルラタ」の情報がほぼなくてよくわからなかった。

CUTiE Comic 【1998.1.8発行】

一番最初に紹介したFEEL YOUNG 増刊 SingSingSingの発売よりも前、1998年1月発行で、ファッション誌『CUTiE』から『CUTiE Comic』が創刊している。 

表紙・安野モヨコ

CUTiEは岡崎京子先生・安野モヨコ先生等の漫画を連載したファッション誌であり、その派生である『CUTiE Comic』こそがこの90年代末女性向けおしゃれコミックブームの中心であるといえるのではなかろうか。表紙でも“まったく新しいキュートなおしゃれコミック”とうたってるし。

CUTiE Comicは2001年7月号で休刊となる。誌面で良い意味で少し異質だった「ハチミツとクローバー」は別雑誌に移籍した。

Super FEEL vol.1【1999.6.2発行】

表紙・やっぱり安野モヨコ

さてこちらはまたフィールヤングの増刊。
この頃のフィーヤン本誌がこんな感じ↓

スーパーフィール内のフィーヤン広告

この増刊は古屋兎丸先生やカネコアツシ先生など男性漫画家もラインナップに入り、フィーヤン本誌とは毛色が異なる。

目次

目次ページにある編集後記にも「見た目は女性誌ですが実は男性にも面白い一冊だと思う」との言葉がある。さらに2号目では、

Super FEEL vol.1【1999.9.2発行】

表紙・井上三太

表紙が安野モヨコ先生ではなく、井上三太先生となる。井上三太先生はこの頃男性ファッション誌『Boon』で「TOKYO TRIBE2」を連載しており、90年代後半のおしゃれ若者女性にとってのCUTiE「ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド」とおしゃれ若者男性にとってのBoon「TOKYO TRIBE2」は同じような立ち位置だったと思う。

とはいえ、表紙イラストもデザインも女性向けにしてあるし読者プレゼントページを見てもそれはわかる。

シマロンのパンツが時代感

しかし巻末では早くも

2号でリニューアル決定

vol.3の情報は今簡単にググってみただけでは得られなかった。出たのかな…?

さてファッション誌内での漫画といえば、『Zipper』で矢沢あい先生の「Paradisekiss」がはじまるのが1999年5月号。
そしてZipperもついに、

Zipper comic vol.1【2000.10.25発行】

表紙・矢沢あい

読者プレゼントページもZipper読者に向けた内容となっている。

私はこの頃のZipper読者じゃないのでわからないブランドも…
目次

Zipperの読者モデル(=パチパチズ)の漫画『清川あさみ物語』が載っているあたりがこの雑誌ならでは感があって良い。
2号目以降のことは覚えがないのだが、wikiやネットに残る情報見ると、2号目が2001年2月19日に発売し、2001年5月21日発売の6・7月号から隔月刊したらしい。

上記URL先のスクショ。YOPPY物語の漫画も載ってるね!

そして何号か続いた『Zipper comic』は2002年5月の号を最後に改名・リニューアルして、

FEEL YOUNG増刊 Salada 【2002.10.3発行】

表紙・安野モヨコ

この雑誌に転生したとのこと。このSaladaはとりあえずとっておいてあったが元々Zipper comicとは知らなかった。

目次。

フィールヤングの増刊だが、かつてのスーパーフィールに見られたような意欲的な雰囲気はもうない。

しかし実際のところ、ここまで挙げたコミック誌はほぼ同じ編集プロダクションが関わっているので作家陣が似てくるのはそのせいである。

“少女まんがもオトナになる”のキャッチコピーの『コーラス』は1992年に『ザ・マーガレット』の増刊号として創刊、1994年に月刊誌としてスタートしている。

表紙・一条ゆかり

『コーラス』は大手集英社のヤングレディース誌であり、フィーヤン本誌同様にとくに尖った要素はないし、華やかでファッショナブルではあるが特別におしゃれさを謳っているわけではない。
ちなみに矢沢あい先生の「NANA」、東村アキコ先生の「きせかえユカちゃん」が連載されることになる『Cookie』は1999年創刊、2000年に月刊誌として新創刊となっている。
ヤングレディース誌の老舗『ヤングユー』は80年代から連綿と続いていたのだが、90年代後半のこの時期ももっと落ち着いた大人女性向けの雰囲気だったのではなかろうか。

『Zipper comic』が『Salada』に転生した2002年には『別冊マーガレット』が新増刊をだしている。今回語っている90年代後半女性向けおしゃれ漫画の範疇ではないが、家にあったのでせっかくなので紹介したい。

P.Margaret 【2002.10.1発行】

表紙・いくえみ綾

これについても現在ネット上で情報が見つからずよくわからないが編集後記には「別マ、デラマ、別マスペシャルの人気作家を一堂に会した新しい増刊」であり「世代を超えて」「すべての永遠少女」に捧げると書いてあるので、表紙にあるような「純粋な少女漫画」雑誌ではない気がする。
安野モヨコ先生を中心としたヤングレディース向けおしゃれコミックが90年代末流行して以降、王道少女漫画界にも以前には見られなかった「下唇が太く描かれたキャラ」が増えたのだが、その影響はこの雑誌内にも見て取れる。

そもそも一般的な若い女性はおしゃれが好きであり、最大公約数の若い女性に向けた漫画はその時代のファッションや世相を反映させる必要がある。90年代後半のファッションと文化が密接だった時代のリアルを描くと自然に、漫画を読む若い女性向け漫画=おしゃれな漫画になるため、だんだんと特別におしゃれコミック!などとうたうこともなく一般化したのかと考える。

とはいえ、90年代後半の頃でも20歳前後の女性がメジャーマイナー問わず漫画雑誌を定期購読するのは比較的マイナーな趣味であったとはいえる。もちろん漫画読んでる人は大勢いたが。
多分雑誌でいったらヤングレディース誌を読んでる女子大生より、スピリッツなどの青年誌読んでる女子大生のが多かった。

私が思う90年代後半のヤングレディース向けおしゃれコミックの特徴のひとつは、女性の裸とセックスをかつてのレディコミにはないおしゃれさでポップに描いたところだ。この「おしゃれ」という感覚は人それぞれなのでなんともいえんが、絵柄のスタイリッシュさによるところが多く、結局はセンスだ。その代表が安野モヨコ先生であり、そのイメージを担うべく多くの雑誌で表紙に登場している。

90年代後半以降の「サブカル漫画」といわれるようなものと被る部分もあるとはいえ、基本的にこのフィーヤン(をつくっていた編集プロダクション)を中心とした女性向けおしゃれコミック群は、私としては「サブカル漫画」として捉えていない。

しかし、ここいらに掲載されていた著者の作品が「サブカル漫画」として扱われることもあるのは、この時代を生きただけにわかる。
『CUTiE comic』『Zipper comic』はもう少し若いティーン向けというのもあり、中高生時代にこのコミック誌に触れた世代は、当時の大手少女漫画誌とは違った雰囲気を「サブカル的」と捉えただろうなと想像する。

これを書いていたら、90年代後半の女性向けおしゃれコミック以外のおしゃれっぽいコミック誌のことを調べたくなったので、次回それを書きたい。



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