“エグゼクティブシート”が最強だということ

 もう5年以上前から映画を観るなら109シネマズ、“エグゼクティブシート”と決めている。

出会い

 社会人3年目、なんの気無しに加入したシネマポイントカード。店員さんから「6回映画を観れば1回無料」と聞き、入会手数料の1,000円を払って友達と加入した。シネマポイントカードでお金が発生するのは後にも先にもこの時だけである。

 加入したその日、会員は通常料金で”エグゼクティブシート”に座れるというのでそのまま予約した。中央に配置された2列のシート。なるほど、座席表から見てもそれが”特別”であることが分かる。その時は、1,000円払った分の価値、程度にしか思っていなかったが。

 座席に着くとまずその大きさに驚いた。通常の1.5倍はあるだろうか。新婚旅行でイタリアに行った時、ヨーロッパの航空会社よろしく、恐らくパリコレのモデルを基準に作られた幅のイスに12時間座っていたことがある。同じ目的で作られた、同じ名前の”イス”に、これ程までに違いがあるのか。俺が座ることに理由はいらなかった。

 ーー柔らかい。隣りとの距離も申し分ない。汗だくのおっさんと腕を触れ交わすこともない。俺はエグゼクティブシートに言葉を奪われ、抱かれていた。。

重力泥棒

 映画が始まるのをポップコーン(塩とキャラメルのハーフ&ハーフ)を食べながら待っていると、一緒に来た友達が子どものような笑顔でこちらを見ていることに気付いた。どうやらひじ掛けのレバーを引けと言いたいらしい。俺は引いた。
 ー「はあぁん・・」
 思わず声が出た。何が起きた!?我に返ると俺は天井を仰いでいた。“こいつ”は俺から重力さえも奪うのか。

論争

 エグゼクティブシートの素晴らしさは体験してみないと分からない。「映画は料金が高い」、「Netflixで十分」という奴らはすべからくエグゼクティブシート童貞である。そこには良いも悪いも存在しない。座ったことが有るのか無いのか、それだけがある。

チケット確保

 シネマポイントカードに加入したからといって全員がエグゼクティブシートに座れるとは限らない。“知る者”の中の勝者だけが、そこに腰掛ける資格を与えられるのだ。
 チケットは上映の3日前、午前0時に売り出される。つい先程、ド休日の『アラジン』[IMAX2D]のエグゼクティブシートを確保した。金曜ロードショーでアニメが放送されたばかり。激戦は論ずるに値しない。”正確な日本時間”を別ウインドウで開き、0時ちょうどにページを更新する。もちろん、事前にログインは完了済みだ。
 チケットを確保してから再度購入画面を開くと、「お客様の前に256人がお待ちです。」と表示された。勝負に敗れた者たちである。

七武海

 二子玉川の109シネマズは新しい。先日『スパイダーマン:スパイダーバース』を観た時の話だ。例によって俺は友達分も併せて4人分のエグゼクティブシートを確保していた。「またエグゼクティブシートに座れる」。俺は高揚していた。
 ここで改めて“エグゼクティブ”の意味を確認しておこう。

エグゼクティブ
企業の上級管理職。
▷ executive

 これが勝者。これがマウンティングである。そう、エグゼクティブシートに座る、ということは一種のステータスなのだ。
 劇場に着き、エグゼクティブシートに腰を掛ける。良い景色だ。周りから「アイツらが今回の勝者か」、「あの席はいったい?」という声が聞こえてくるようだった。それと同時にエグゼクティブシートに座る“3日前の戦友たち”を一瞥し、その中でも中央席に君臨する勝者の中の勝者に最大限の敬意を払った。側から見たら頂上決戦の時の“七武海”そのものである。もう映画が始まる前から多幸感でいっぱいだった。

 ふと友達に話し掛けようと後ろを振り返った。俺は言葉を失った。

 ーー席がある。

 こともあろうか俺の、“エグゼクティブシート”の後ろの壇上に、田舎の平屋建てばりに空間を贅沢に使った席が存在するのだ。すぐさまスマホで調べる。”グランド・エグゼクティブシート”

 俺は井の中の蛙だった。どうやら、劇場の入口から人間の線引きは行われていたようだった。気付けなかった。凄いのはエグゼクティブシートなのに、さも自分が凄い人物になったかのように錯覚していた。七武海の上には大将もいるし天竜人もいる。俺がエグゼクティブシートに腰掛けながら掛けていたのは3Dメガネではなく“色メガネ”だったのだ。

最後に

 グランド・エグゼクティブシート座りたい。


以上



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バズクリ

東京の会社員です。イベントが身近になる仕組みを作りたいです。
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