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インターネットがメインになってから“本のスケール感”が希薄になっている気がする

『日本のZINEについて知ってることすべて』が発売されてから2週間ほど経ちました。今日はこの本のデザインについて書きましょう。この本のデザイナーは山田和寛さんです。

この本は雑誌連載をまとめたもので、連載時は毎回デザイナーを変更していました。まだ仕事をしたことがない人と仕事をしてみたい、という気分のせいです。毎回、デザインのテイストはかなりバラバラになり(機会があったら見比べてほしいです)、面白かったのですけど、それを一冊にまとめ直してもらう際は、なにかルールがあったほうがいいなと漠然と思っていました。ワタシには、雑誌は「動」、本は「静」、というイメージがあるんです。

それで最初の打ち合わせでひとつ、山田さんにお願いしたことがあります。それは「掲載する図版はすべて実際と同じ比率にしてほしい」ということでした。これがどういう意味かといいますと。

A5サイズ(148×210mm)の本とA4サイズ(210×297mm)の本は当然大きさが違います。でもデザインする時には、両者を同じサイズで載せることができてしまうんです。すべてを同じ大きさで載せられることが便利なときもありますが、今回は「本が物であること、物理的に存在したこと」を強調したくて、そのためには現実を模倣したほうがいいなと思いました。

↑実際は様々な大きさでも、
ネットや誌面だと一律同サイズ表示になりがち↓

近年、人間が持つ「スケール感」が希薄になったと感じています。スケール感とは、大きいものを大きいと感じ、小さいものを小さいと感じる、「大きさ」に対して持っている自分の中の物差し、といえばいいでしょうか。どうもこのスケール感がおかしくなってると思うんです。

ワタシの見立てでは、それが進行したのはインターネット時代になってから。Amazonの商品ページやGoogleの画像検索で、すべてが似たようなサイズのサムネイル画像で表示されるのを当然と思うようになってから、です。もちろん昔の雑誌でもスケールはバラバラなんですけど、当時は本はサブであくまで店頭がメインだったから、強制的にスケール感が養われてた。でも今はネットがメインで店頭はサブになってるから、スケール感を養う機会が失われてる、ということにします(本の場合ですよ)。『日本のZINEについて知ってることすべて』も、ネットで表紙のサムネイル画像を見ただけのときと、現物を手にしたときでは、スケール感が違いませんでしたか?

話を戻すと、今回のようにたくさんの本が載る内容で、何も指定せずにデザイナーに依頼すると、「デザインの見栄えがいい表紙の本を大きく載せて、地味な表紙のは小さくなる」ことになりやすいと思うんです。しかしそれでは本書の意図がぼやけてしまう。なので「同じ比率で載せる」という縛りをすることで、ふつうの本とは違うデザインにしてもらいました。これは相当面倒くさい依頼だとワタシもわかっており(なぜなら気持ちいいデザインができないのだから!)、それでもちゃんとデザインされててよかったなと思います。大きいものは大きく、小さいものは小さく。

それ以外のこと、たとえば書体やレイアウトなどは山田さんに基本おまかせコースです。松田行正さんの事務所でエディトリアル・デザイナーをしていて、その後Monotypeで書体デザイナーをしていたので、まあ別に変なことにはなりようがないだろうし、そもそも文字が読みづらいからといって買わない人はほとんどいないから好きにしてくれ、という気分でした。本の方向性と売上に関わる部分以外はてきとう。あ、でも「たづがね角ゴシック(山田さんがMonotype時代にデザインに参加した和文フォント)はこの本向きじゃないね」と話したかもしれない。笑うところです。

ばるぼら+野中モモ(編著)
『日本のZINEについて知ってることすべて
同人誌、ミニコミ、リトルプレス 自主制作出版史1960~2010年代』

B5,並製,324ページ,2017年11月10日発行
定価2,600円+税
http://www.idea-mag.com/books/all_we_know_about_japanese_zines/

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