うちらしか勝たん

きのう夜中にものを食べたから胃がシクシク痛い。眠るまえに感じていた痛みがしつこく朝までいすわって、まるでお腹の上に夜通し小さな悪魔がのっかっていたみたいだ。
水を一杯だけ飲んで電車へとびのる。

午前中はしらべもの。なんだか休日気分が抜けない。
「お腹が痛いの」
会社の人がそう言った。いろんなところに悪魔がいる。でもみんな平気な顔でキーボードを叩いていた。

お昼ごはんは急いで炒めた卵焼きと冷凍おかず。
すみっこにちいさく縮まっているほうれん草は冷凍くさい。実家のご飯が恋しく蓋を閉じた。

午後からはミーティング。延々と新しいコンテンツについて意見を交わす。はずだったのだけど、何もできずただ話を聞いて終わってしまった。

終わってから「こうすれば良かった」と後悔することは、社会人になってからとても増えたように感じる。
でもそれは決して悪いことじゃなくて、ひとつずつ解決策を発見しているということ。
自分ごとに考えられるようになれば、後悔も申し訳なく思うことも減るかもしれない。

「じゃあよろしくね」と言われて席を立つ。


帰りに近くのスタバへ寄った。
ジンジャーとシナモンが香る甘い飲み物をたのむ。
店内にはクリスマスソングがかかっていて、となりの席の女の子は、友達にドタキャンされた話やインスタのフォロワー数、自分が写った写真について楽しそうに喋っていた。


「あ、これかわいい。うちらしか勝たんよね、ほんと」


コーヒーカップを受け取ると、日記に向かい、勝手にあれやこれやの空想を繰り広げてみた。

ただ考えていただけなのに、小さな悪魔がまたわたしをこづいて、「そんなのつまらない」とひそひそ声を浴びせてくる。考えるのは自由だ。そう思うのになかなか声は鳴り止まない。「うちしか勝たん」。胸に言い聞かせて、情けなく濁った沼地を必死に掻く。

夜帰宅。
冷蔵庫に、あまっていたニンジンと白菜、キノコがあったので鍋にする。
大根にカビが生えていてびっくりした。調べると外の皮をむけばいけるらしい。恐る恐るむくと、中はまだみずみずしく白かった。えいやっと鍋に放り込む。ほくほくの根菜が好きだ。温かいものを食べてベッドに横になる。

お腹のシクシクなくなりますように。

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