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スパンク・ハッピー(冒頭)

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男1〈宇宙食〉・・・・大学三年生
男2〈菊池〉・・・・・大学三年生(一浪)
女1〈智美〉・・・・・大学三年生
女2〈ひとみ〉・・・・大学三年生
女3〈死神代行〉・・・推定三十歳前後
女4〈店員〉・・・・・大学一年生

Chapter 0

生まれてきたのが最初の運の尽き
——キエるマキュウ『Somebody Got Murdered』

Chapter 1.1

七月一八日。午前七時。快晴。気温二十七度。
女1の部屋。学生の一人暮らしにしては広くて立派な低層マンション。
もうそろそろ目覚まし時計が鳴りそうな空気のなか、男1が目を覚ます。
女1は眠っている。
男1、出来合いのドリップコーヒーをマグカップに淹れて、口をつける。
カーテンの隙間から漏れる光。

男1 青空に光り輝く太陽を、実はあまりすきじゃない。居心地がわるくて。面倒だから雨もすきじゃない。雪は、わるくない。いちばんいいのは曇り空だ。一面まっしろな曇り空の日は、外に出て煙草を吸う。いかにも退屈そうで、こちらに無関心な空を見ると、心が落ち着く。そしてたまに、一瞬でいいからあの退屈な曇り空の、気を引くことができたなら、その時は徴〈しるし〉に、雷のいっぽんにでも打たれて、死んでしまってもいい。なんて、もうそろそろ目覚まし時計が鳴りそうな空気のなか

アラーム音。部屋のAIスピーカーから聞こえてくる。
アラーム音。女1が鈍く反応する。
アラーム音。男1が立ち上がり、アラームを止める。

音声 「今日は、七月十八日。茹で豚の日です」
女1 ・・・なにそれ
男1 茹で豚の日だって。おはよう
女1 おはよう
男1 カーテン開けていい?
女1 うーん

女1が全然眠そうな様子をみて、男1はカーテンを開けないことにする。
男1、出掛ける支度を始める。

男1 今日ちょっと、先に出るね。学生課に呼ばれてるから
女1 うん
男1 二度寝して二限に遅れないように
女1 うーん・・・今日さあ
男1 うん?
女1 行くんだよね、菊池〈きくち〉くんのところ
男1 行くよ
女1 うん

男1、支度を一旦止める。

男1 ちょうど一年前の今日、七月十八日。茹で豚の日。僕たちがあいつと最後に会った日

男1、支度を再開する。

男1 あれ、学生証・・・智美〈ともみ〉ちゃん学生証どっかで見なかった?
女1 見てないよ
男1 あれー・・・ごめんカーテン開けるから
女1 うーん

夏の強い陽射しが差し込む。

男1 うわ
女1 まぶしい
男1 外〈そと〉出たくないなあ
女1 あった?
男1 まだ

男1、学生証を探し回りながら

男1 「アレサ、学生証はどこ」
音声 「おっしゃっていることの意味がよく分かりません」
男1 だめだ
女1 フフフ
男1 智美ちゃんはさあ、晴れの日ってすき?
女1 うーん、すき、かな。天気が良いと気持ちいいし、洗濯物乾くし
男1 そっか
女1 宇宙食君〈うちゅうしょくくん〉は?
男1 僕は曇りの方がすきだ
女1 そうなんだ・・・どうして?
男1 うーん、曇りの方が落ち着くから
女1 宇宙食君っぽいね
男1 え? そうなの
女1 うん
男1 自分で自分っぽいとか、よく分からないから
女1 うーんたしかに
男1 あっ、あったあー。よかった
女1 おめでとう
男1 お騒がせしました・・・じゃあ
女1 うん、行ってらっしゃい
男1 行ってきます。あ、二度寝してもいいけど二限に
女1 (遮るように)だいじょうぶ
男1 そう、じゃああとで
女1 うん、またあとでね

男1、部屋を出る。

Chapter 1.2

女1 「アレサ、音楽掛けて」

音楽がAIスピーカーから聞こえてくる。

女1 小田智美〈おだともみ〉二十一歳。大学三年生。朝は苦手です。パチっと眼がさめるなんて、絶対にどこかの誰かの嘘だと思う。わたしの朝は濁って濁って、そのうちだんだん澱粉が下に沈むように、少しずつ上澄みができて、やっと疲れて眼がさめる時、わたしは最高にひとりぼっちの気分になる。でも最近、宇宙食君がうちに来てくれるようになって、少しいいです。結構上向きかもしれません。アレサも宇宙食君が買ってきてくれたやつです。わたしが朝起きられるようにって。アレサを買ってから、もうすぐ二週間。宇宙食君と付き合って、もうすぐ九ヶ月。あのことがあって、ちょうど一年

Chapter 2.1

男1 あれはそう、誰もが平成最後の夏とか言って、やたら特別がっていたけれど結局、皆いつもと代わり映えしないことで騒いでいただけの、毎日暑すぎて、頭のおかしい夏だった。菊池と僕は大学の同期で、住んでいる所も偶然近かったりでよく話す仲だった。かといって趣味嗜好が似てる訳でもなく、向こうはフットサル、僕は古いレコードを買い漁るという具合だから、つまりお互いの社交性だけで付き合っているような、いわゆる普通の友達だった

Chapter 2.2

一年前の七月一八日。午後一時過ぎ。快晴。気温三十四度。
「なか卯」店内。
男1と男2がテーブル席に座っている。
女4がワンオペしている。

男2 暑っちー・・・宇宙食
男1 んん
男2 あの店員、愛想ゼロ
男1 あーね、いっそ清々しいなーって思って見てた
男2 あれはだめだろー、客商売であれはだめだよお金貰ってんだから
男1 まあね

女3が店に入る。

女4 いらっしゃーせー
男2 ほら、聞いたか
男1 いやもう聞いてるよさっきから
男2 あれは頂けないなあ

女3が席に着く。

男1 で、いつがいいの?
男2 今日、今日の夜

(続く)

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