全部覚えている

記憶することが脳神経の不可逆的な変化を伴うとしたら、わたしたちは何も忘れていないのではないか。思い出せないのは奥底に眠った記憶を引き出せないだけで、理屈上全部覚えている。愛も怒りも。そう考えるようになったら非常に心強い。理不尽な出来事が次々起こる。かつて燃え上がった烈しい怒りは、今は炎が見えなくともわたしの内側で炭化して沈殿し続ける。うまく言葉に出来なかったことも、生活のなかで考え続けていれば生活自体が表現になる。つまり記憶の総体であるわたしが、生きて、考え続けてさえいればいい。もし余力があれば、自分の言葉をひとつでもふたつでも書き残すことで、記憶は未来にも立ち上げられる。

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