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文化とイノベーションについて

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 第1回 田村大さん

4月10日、株式会社RE:PUBLICの田村氏のGood innovationについての講演を拝聴した。あくまで自分の理解ではあるが、田村氏の主張では、イノベーションとは技術的な革新のことではなく(もちろんそれも大きな要素ではあるが)、人の価値観や生活スタイルが変わること、である。
個人的に興味深かったのが「文化とは常にズラされた概念で、他のものとの対比でそれを位置付けるものであり続けてきた」という京都大学の山内氏に言及し、イノベーションを文化と結びつけたことだ。

●対象の文化を観察する「ビジネスエスノグラフィー」

田村氏については、「ビジネスエスのグラフィー」のパイオニアとして、以前から認知していた。文化人類学や社会学の分野で培われた「エスノグラフィー」という観察調査が好きだったので、田村氏と「ビジネスエスノグラフィー」に関心を持っていた。エスノグラフィーは、観察対象の生活現場に「入り込む」ことで、先入観なしに対象を理解するための方法である。
エスノグラフィーは、今ではビジネスの分野でも一般的に使われる用語になった。しかし、実際には本来のエスノグラフィーに似せた「通常のマーケティングリサーチの一手法」となっているように思う。
自分たちとは異なる文化を持つ対象者を「先入観なしに」じっくり観察し、彼ら・彼女らの思考・考え方・習慣を理解するのがエスノグラフィーという観察手法の目的だ。しかし、ビジネスの現場ではなかなか先入観−言いかえると仮説−を持たずに観察する、ということが難しい。「検証」が調査の前提だからだ。そのため、「調査場所が対象の生活空間」という一要素だけを真似た「家庭訪問調査」をエスノグラフィーと呼んでいるケースが見受けられる。(家庭訪問調査がリサーチとしてだめな訳ではない)

※少し話は脱線するが、ビジネスに「文化性」があまり重視されないのは、日本という国の特殊性もあるように感じる。例えば米国では人種 /ルーツ(アングロサクソン系やヒスパニックなど)・宗教などによって考え方・価値観や生活習慣が大きく異なるため、「米国人」と一括りに考えることは難しい。一方、日本では米国に比べ社会的属性による差異は小さい。こうした背景も、日本のビジネスやマーケティングで「文化の違い」に重視されにくい要因ではないだろうか。

●ビジネスにも文化理解を

学術界と産業界のエスノグラフィーの使われ方の違いから、特に日本においては、「文化」と「ビジネス」は遠い関係にあると感じていた。しかし、田村氏の話を受けて、文化理解の視点・視座こそ、イノベーションには必要なのではないか、と思った。
事例として紹介された佐賀県の「ニューノーマル」の仕事は、佐賀県に住む人々が「当たり前」と思っていることが、外部の人間からみたら魅力的に見える、その「内と外の認識のズレ」がイノベーションにつながる、と読み取れた。

ここで言う「内と外の認識のズレ」とは文化性の違いだ。冒頭の「文化とは常にズラされた概念で、他のものとの対比でそれを位置付けるものであり続けてきた」という山内氏の引用に戻ると、つまり「内」にいる人は「外」との対比がないと、それが自分たちの文化=資産(asset)であるとは気がつかない、とも言える。

そういう内と外の認識のズレを発見していくことがinnovationに繋がるのならば、日常生活において、自分の「当たり前」の思考からどれだけ自由になれるか、が大事になってくる。その思考の柔軟性を養う1つの方法として、なるべく多くの文化圏を行き来し、異なる視点でものを見る習慣をつけることが、有効なのではないかと考えている。

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