頭蓋内圧亢進症・術中頭蓋内圧管理

目次


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概略
頭蓋内圧の規定因子
頭蓋内圧亢進状態の評価・症状
頭蓋内圧亢進症患者の麻酔の注意点(導入)
頭蓋内圧亢進患者の麻酔の注意点(維持)
術中頭蓋内圧管理・調節方法
筆記試験ではここが問われている!
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概略

現在(第43〜56回)までに脳神経外科領域手術の出題は15例。そのうちオーソドックスな開頭術は11例(STA-MCA、CEA、経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術は除く)です。さらにそのうち頭蓋内圧亢進症状・状態を呈しているのは6例です。脳外科の手術が出た時点で、頭蓋内圧亢進症については念頭に置いておかなければいけませんね(普段の臨床でも当然考えているとは思いますが・・)

 それではこの頭蓋内圧関連でどのようなことが問われているかというと以下の4つです。問題文では脳圧と書かれている場合がありますが、記事内では頭蓋内圧で統一します。

1. 頭蓋内圧の規定因子(46-1)
2. 頭蓋内圧の評価(44-6)
3. 頭蓋内圧亢進症患者の麻酔の注意点 (脳外科の麻酔法に関してはほぼ毎回聞かれているが、特に聞かれたのは51-1-1、50-6-2)
4. 術中頭蓋内圧管理・調節方法(43-2、44-6、49-1-2、50-6-2、52-1-1、54-3-2、54-5-1)

 それでは順を追って見ていきましょう!

 まず基礎知識として、頭蓋内圧(ICP)とはその名の通り頭蓋内の圧のことです。この頭蓋の中にはみなさんご存知の通り脳実質(約80%)。脳脊髄液(約10%)、血液(約10%)が含まれています(この容量の割合は教科書ごとに5%程度のずれがありますが・・)。
 これらは固く柔軟性のかけらもない頭蓋骨によって作られた閉鎖腔に存在しているため脳出血などにより血腫が形成されたり、これらの上記のいずれかの容積が増加することでICPは上昇します。主な原因としては腫瘍、血腫、浮腫、水頭症などです。正常値は覚えてください。5〜15mmHg程度です。ガイドラインにもよりますが、20mmHgを超えると治療が必要とされており、私たちが手術室で出会う患者さんたちはICPがすでに上昇しているか、もしくはごく近い将来に急上昇が予想される人たちです。ちなみに頭蓋内圧亢進状態とは、20mmHg以上が5分以上継続した状態と定義されています(Brain Trauma Foundation BTF、SCCMによるEmergency Neurological Life Support ENLSによる)。ICPが上昇し続け、60mmHgを超えるような高圧になると全脳虚血になると言われています(脳灌流圧=平均動脈圧ー頭蓋内圧のため)
 閉鎖腔に存在するとは言え、若干は代償機構が存在するため血腫などによる容積増加が軽度の場合にはICPはあまり上昇しません。しかし、代償機構の限界を超えると逆上がり練習機(今もあるのかな)のように急激にICPは増加します。
 改めて後述しますが、頭蓋内圧が亢進している患者に対する治療は上記の要素を取り除くために行われ、血腫除去や脳腫瘍摘出術、外減圧、利尿薬投与(マンニトールなど)、脳脊髄液ドレナージなどが行われます。
 ひどい脳出血などでICPが著明に増加している場合の典型的なバイタルサインとして高血圧、徐脈、不規則呼吸があり、Cushingの3徴候と呼ばれます。

頭蓋内圧の規定因子

 以上より、頭蓋内圧を規定する要素は脳実質、脳脊髄液、血液のそれぞれの圧ということになります。ちなみに脳灌流圧は平均動脈圧から頭蓋内圧を引いたもので表されます。

頭蓋内圧亢進状態の評価・症状

 主観的な症状の訴えと客観的な評価(身体所見・画像)に分けて考えていきましょう。
 まずは症状ですが、これは想像が難しくないと思います。頭の中がパンパンになればいかにも頭は痛くなりそうですし、頭痛で吐き気も出そうですし(私も偏頭痛持ちでたまに気持ち悪くなります)、ひどくなると意識障害も出て、痙攣も起こし、最終的には(脳ヘルニアを起こし)昏睡、呼吸停止にもなりそうです。補足としては複視(外転神経麻痺)、うっ血乳頭、眼窩周囲の皮下出血くらいでしょうか。
 客観的な評価のうちバイタルサインとしては、高血圧、徐脈、呼吸抑制があり、これらはCushingの3徴候と呼ばれています。ひどい脳出血患者などではこのバイタルで運ばれてきて脳外科の先生が「早く早く!」と手術室スタッフを急かしていることがありますね。こういう患者さんは開けたら開けたで急激に血圧が下がったりして困りますが。
 客観的な評価のうちCT画像ではどうでしょうか。脳出血や広汎な脳梗塞による脳浮腫では正中が健側に偏位していますね(midline shift)。他には脳室・脳溝の圧排、脳溝消失などが見られます。あまり評価したことはないんですけど・・・
 というわけで頭蓋内圧の評価・症状は?と聞かれた場合には以上を整理して答えればいいと思います。なおICPのモニタリングをしたい場合には脳室内モニターを留置します(脳室内、脳実質、硬膜下)

- 症状1(症状):頭痛、悪心嘔吐、意識障害、痙攣、昏睡、呼吸停止
- 症状2(身体所見):高血圧、徐脈、呼吸不全、うっ血乳頭、複視、眼窩周囲の皮下出血
- 画像:正中の健側への偏位、脳室圧排、脳溝消失、脳ヘルニア(末期)

術中頭蓋内圧管理・調節方法

 以上の流れから、頭蓋内圧を上昇させない脳に優しい麻酔を心がけましょう笑。頭蓋内圧は上記の3因子、脳実質(細胞成分→外傷や脳虚血などによりナトリウムや水分が細胞内に貯留、体液・血液成分→血液脳関門の破綻による血管外へのタンパク流出が起こり水分が貯留)、脳脊髄液、血液のどれかが増加すれば上昇します。
 もちろん細かな内容についてはICP上昇の原因疾患や、他の合併症との絡みなどもあるので、ここで説明するのはあくまで基本的なものとして捉えてください。

 このうち麻酔導入時に直接関わるものとしては、挿管刺激や浅麻酔による交感神経刺激により血圧が上昇して脳血流量(脳血液量)が増加することが挙げられます。あとはその脳血流量を増加させる麻酔薬を使用しないことですね。
 なのでフェンタニルやレミフェンタニルを用いて十分な鎮痛のもとで挿管操作やヘッドピン固定を行います。また脳血流量を増加させるとされている揮発性吸入麻酔薬、ケタミン、亜酸化窒素を用いず、プロポフォールを使用します。揮発性吸入麻酔薬を使用しない麻酔薬にあげたものの、一般的に使用されるデスフルラン、セボフルラン、イソフルラン(下火かな)は、通常使用する濃度ではあまり考慮する必要がないと考えられています(脳血管を拡張させる作用も持つが、脳代謝を抑制することによる脳血管収縮作用も持っているため相殺される)。もちろん高濃度で用いればICPが上昇するようですが、レミフェンタニル麻酔が全盛の昨今そのような高濃度が必要とされることはまずないため、吸入麻酔薬を用いても問題はないと考えられます。
 全身状態や合併症、アレルギーの有無や気道確保困難が予想されるかにもよりますが、緊急であればレミフェンタニル(あるいはフェンタニル)、プロポフォール、ロクロニウムを用いた迅速導入、予定症例では急速導入というのが無難な解答かなと思います。

頭蓋内圧亢進患者の麻酔の注意点(維持)

 上記のように試験的には吸入麻酔薬を推す理由はないので、プロポフォール、レミフェンタニル(+フェンタニル)による全静脈麻酔(TIVA)の一択でいい気もしますが・・・(^◇^;)
 血圧が上昇すれば、脳梗塞や脳出血などの障害部位では脳血流の自動調節能が破綻しているため、脳血流が増加しICPが上昇するおそれがあります。低血圧になれば通常の患者であれば耐えられる血圧でも脳虚血を起こす恐れがあるため、血圧の維持には注意が必要です。

術中頭蓋内圧管理・調節方法

 この問いは頻出です。前述した通り、脳のコンパートメントは脳実質、脳脊髄液、血液からなるため、頭蓋内圧を下げるためにはそれぞれの圧を下げることを考えます。
 脳実質を縮小する方法としては、脳浮腫を取る、あるいはICP上昇の原因となっている血腫や腫瘍の除去・摘出があります。脳浮腫を取るためにマンニトールの投与により血清浸透圧を高く維持したり、フロセミドなどの利尿薬を投与します。最近ではマンニトールに変わって高張食塩水の投与も行われています(ただ優劣に関する報告は小規模で少ないようです LiSA 2013 2月 p153)。
 脳脊髄液を減少させるには脳室ドレーンや脳室穿刺吸引などが行われます(ただし急激なICPの低下は出血や部位によっては脳ヘルニアを起こすことがあるため注意する)。手術開始前に行われることもありますね。麻酔科が行う脳脊髄液ドレナージとしては、胸部大動脈置換術時などの脊髄虚血の予防目的に行うものがありますね。これに関してはまた別の機会に取り上げます。
 血管容量を少なくするために、静脈還流を増加させる、脳血管を収縮させる、の2つの方法があります。前者は頭部を30度程度挙上させます。静脈還流を阻害する原因として頸部の過度の屈曲や、胸腔内圧の上昇(過剰な換気圧、バッキング、過剰なPEEP)などがあるためこれらを避けます。脳血管を収縮させるために過換気にすることが多いですが、脳血流が減少するため虚血のリスクがあるのと(特に障害部位)、効果時間に限度(数時間)があるためむやみに行う必要はありません。あくまで一時しのぎです。補足として、低酸素血症(特にPaO2 50〜60mmHg以下)では著明に脳血流量が増加するため是正が必要です。
 聞かれ方としては、術中に脳圧を下げる方法は?という感じなので、麻酔科が行うものとしては、

1. (必要に応じて)軽度過換気(PaCO2 30〜35mmHg程度)。低酸素血症があれば是正。
2. (術野的に問題なければ)頭部挙上
3. 胸腔内圧を下げる(換気圧やPEEPの調整)
4. マンニトール(あるいは高張食塩水)、フロセミドの投与。
 他に、と聞かれれば
5. 血腫除去、腫瘍摘出、外減圧や脳脊髄液ドレナージを答えれば良いと思います。


筆記試験ではここが問われている!(Key Word:頭蓋内圧)


あまりバリエーションはないですね笑。同じようなことが何度も問われています

■心拍数が上昇(年度により低下)するものを選ぶ問題でCushing反射が選択肢に。頭蓋内圧亢進によるCushing反射では徐脈を生じるので×ですね。【56A9】【53A28】【49B6】

■頭蓋内圧に関する一般的な知識が問われています。【44A94】
 🔘過換気持続による頭蓋内圧低下作用は約3時間で消失する→4〜6時間持続するとされており×
 🔘脳腫瘍による血管性浮腫にステロイドは有効である。→有効です。
 🔘マンニトールの効果発現はフロセミドより速い。→マンニトールは10〜15分で効果発現。フロセミドは30〜45分かかるので×
 🔘リドカインは頭蓋内圧を下げる→下げます。◯
 🔘プロポフォールは頭蓋内圧を下げる→下げます。◯

■頭蓋内圧を上昇させるものが問われています。【47B31】
 🔘過換気→低下させるので×。
 🔘ケタミン→上昇しますね。◯
 🔘亜酸化窒素→脳血管拡張により上昇するので◯。ただし静脈麻酔薬や麻薬の使用で抑制できます。
 🔘マンニトール→下げますね。×
 🔘プロポフォール→下げますね。×

■頭蓋内圧に影響する薬物因子についての問題。ケタミンとリドカイン、ステロイド、プロポフォール、セボフルラン(イソフルラン)について問われています。【56A50】【54A69】【52A65一部】
 🔘ケタミンは脳代謝率を増加させる。→させますね。脳代謝率も脳血流量も上昇します。
 🔘リドカインは頭蓋内圧を上昇させる。→させませんね。むしろ下げます。
 🔘ステロイドは脳腫瘍による血管性浮腫に無効である→有効です。
 🔘プロポフォール麻酔中は過換気で脳血流量は変化しない→二酸化炭素反応性や血流の自己調節能は維持されます
 🔘セボフルランによる頭蓋内圧の上昇は過換気で抑制される。→されます。

■頭蓋内圧を下げるのに有効な薬物について問われています。【49A65】
 🔘イソフルラン→脳血管拡張により頭蓋内圧は上昇するので×
 🔘ケタミン→脳血流量が増加し、頭蓋内圧は上昇するので×
 🔘セボフルラン→イソフルランと同様。×
 🔘プロポフォール→脳酸素代謝率を低下させることで脳血流量が低下する。◯
 🔘チアミラール→脳血流量を減少させ頭蓋内圧を低下させる。◯

■イソフルランによる頭蓋内圧の上昇が過換気で抑制されるかどうかが問われています。抑制できるため◯。【45A69】

■中枢神経系生理の問題で、頭蓋内圧の正常値が20〜30mmHgで正しいかが問われています。5〜15mmHgでしたね。×です。【55B10】

■頭蓋内コンパートメントの容積減少法が問われています。【56A69】【51A20】【49B27】
 🔘神経細胞に対して外科的切除→OKですね。
 🔘脳脊髄液に対してステロイド→違いますね。ステロイドは限局性の血管性浮腫に対して有効です。脳脊髄液に対しては脳脊髄液ドレナージです。
 🔘細胞内液に対して浸透圧利尿薬→OKですね。マンニトールなどが使用されます
 🔘動脈系血液に対して低二酸化炭素症→OKですね。過換気にします。
 🔘静脈系血液に対して頭部挙上→OKですね。静脈還流量が増加させます。

■電気けいれん療法後に認められるものはどれかの選択肢の1つとして頭蓋内圧亢進。電気刺激やけいれんにより頭蓋内圧の上昇を起こしますね。◯です。【56A75】【55A87】【53A82】【51B34】

■電気けいれん療法で頭蓋内圧亢進症患者が禁忌かどうかが問われています。頭蓋内圧を上昇させるため禁忌です。【48A80】【46A86】

■ロボット支援下前立腺全摘徐術に関する問題の選択肢の1つで、頭蓋内圧が上昇するかどうかかが問われています。かなり強い頭低位をとるので、頭蓋内圧は上昇しますね。◯です。【56B45】【54B30】

■脳動脈瘤破裂による緊急手術の管理の一部で頭蓋内圧に関する選択肢があります。【56C32〜33】
 🔘低酸素血症では頭蓋内圧が上昇する。→◯ですね。ただし、PaO2が60mmHgを下回ったときです。それ以上の少々の低酸素血症では保たれます。
マンニトールの急速投与で頭蓋内圧は上昇する。→下げるための処置ですね。×です。
 🔘脳灌流圧は60mmHg以上を保つ。→くも膜下出血による局所脳血流の低下に対応するために、正常範囲〜やや高目を維持することが必要とされてますので、◯ですね。
 🔘ステロイドは脳血管障害による頭蓋内圧上昇の治療では無効である。→◯。その通りです。
 🔘体位の影響を問う問題で、トレンデンブルグ位で頭蓋内圧が低下するかどうか。→上昇しますね。×です。【54A52】

■頭蓋内圧亢進症患者の周術期管理の問題の選択肢に頭蓋内圧に関わるものがありました。【54B41】
 🔘PaO2は脳圧に影響しない→×ですね。50〜60mmHg以下に低下すると脳血流量の増大により上昇します。
 🔘脳圧亢進患者に5cmH2O以上のPEEPは使用しない。→程度にもよると思いますが、適切なPEEPを使用しないことによるPaO2の低下が生じるようであれば本末転倒です。状態を見ながら適切に用いる分にはOKです。問題集の解答例も×になっています。

■脳ヘルニアの経路とどこのヘルニアかが図で問われています。頭蓋内圧亢進症末期である脳ヘルニアが生じる部位は、大脳鎌(大脳鎌下ヘルニア)、テント切痕(テント切痕ヘルニア、鉤回ヘルニア)、大後頭孔(小脳扁桃ヘルニア、大後頭孔ヘルニア)、経頭蓋冠ヘルニアを覚えておけば大丈夫だと思います。【53B34】

■脳動脈瘤破裂による緊急手術での頭蓋内圧亢進に対する処置が問われています。【50C27】
 🔘平均動脈圧の30%の低下→障害部位における脳虚血のリスクがあるため×。脳灌流圧は正常〜やや高めに維持することが望ましい。
 🔘PaCO2が30mmHgになる過換気→一応◯。ただし、効果が一時的なのと虚血リスクがあることは念頭に置く必要がある。
 🔘マンニトール60g静脈内投与→◯
 🔘水平に対して20度の頭部挙上→静脈灌流を増加させます。◯
 🔘デキサメタゾン9.9mg静脈内投与→脳血管障害によるものには無効です。×

■同じく脳動脈瘤破裂による緊急手術での頭蓋内圧亢進(脳腫脹)に対する処置が問われています。【46C10】
 🔘亜酸化窒素の併用→脳血管拡張により頭蓋内圧は上昇するので×
 🔘フェンタニルの追加投与→脳血流は下げないためほとんど効果なし×
 🔘メチルプレドニゾロンの投与→脳血管系のものには効果なし。×
 🔘イソフルラン吸入濃度の上昇→脳血管を拡張させるため×
 🔘イソフルランをプロポフォールに変更→プロポフォールは頭蓋内圧を低下させるため◯。と言っても劇的な効果はないかもですね。

■外傷による脳腫脹に対する開頭減圧術の麻酔管理について問われています。【46C46】
 🔘低体温管理→低体温は脳代謝率が低下させ頭蓋内圧を低下させる。◯
 🔘低血圧管理→障害部位での虚血のリスクがあるため×
 🔘軽度過換気→◯
 🔘静脈麻酔継続→ケタミン以外の静脈麻酔薬(プロポフォール、チアミラールなど)は頭蓋内圧を低下させるため◯
 🔘マンニトール投与→◯

■軽度低体温療法において頭蓋内圧の低下作用があるかどうかが問われています。低体温に伴い脳代謝率が低下するため頭蓋内圧は低下するので◯。【48B47】


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