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推しを推す前につながりたい #5


ここが、私の居場所...


色んな人に知ってもらえるって、

こんなに嬉しいんだ...




もっと、届けたい。



私の歌を聞いて、

心が揺さぶられる人がいるなら、

助かる人がいるなら...


私はその人の、支えになりたい。




アルノ:「見つかったのかも...
自分の本当にやりたいことが。」




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和:「○○〜」


眠気が残る午前7時。

凄い勢いで電車に和が乗り込んできた。



○○:「おはよ。弓道部の朝練は...?」


和:「おはよう。たまたま休みだったの。
それよりも...アル、オフ会やるんだって!?」


ハイテンション。

前からこんなに朝強かったっけ。



○○:「そうみたいね。
文化祭のちょうど一週間前だって」


和:「しかも顔出しもするってよ!
○○も行くっきゃないよね?」


○○:「いいけど、和は大丈夫?
部活とか劇の練習とか」


和:「余裕ではないけど...
こんなチャンスがまたあるかなんて
わからないし...。
『推しは推せる時に推せ』って言うじゃん?」


おっしゃる通りです。

これは誰にでも当てはまる。



○○:「楽しみが増えたね。」


幼なじみとはいえ、

最近は二人でどこかへ行くことも減ったから、

そちらの意味でも。



○○:「ねえ見て。これって
『ここでキスして。』歌う匂わせかな」


和:「なにこれ、こんな情報知らなかったよ」


○○:「アルのSNS。キレッキレで面白いよ。
『綿飴機が発火したから処分した』とか」


このSNSは完全に知り合い用で、

プロフィールには「NJ」と、

乃木女であることが匂わされている。


SNSと動画サイト、

どちらも互いに誘導はされていない。



和:「…?SNSやってたの?
動画でも聞いたことない」


あ、やべ...



○○:「...自力で見つけました。」



和:「...ちょっとヤバいと思う。」


ここは…開き直ろう。



○○:「いや、すごくない?なんの手がかりも
ないところから探し出したんだよ」



和:「ムリ...友達やめるよ?」



やめて困るのはそちらだろうと思いつつも、

流石にここは謝った。



しかし...

この日はずっと口をきいてくれませんでした。




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数日後の放課後。

文化祭準備をしていたのだけど...


油性ペンや養生テープ、段ボールなどなど...

不足しているものが増えてきた。


買い出ししないとな...



○○:「和は行けないよね?」


和:「うん、ごめん。舞台の背景の絵
描いたり、このあとセリフ合わせもあるの」



和の表情を見るに…あまり余裕がなさそうだ。


彼女のように忙しい人もいれば、

放課後暇なのに帰っちゃう人もいて...

全然平等じゃない。

こればっかりはどうしようもないけど...


仕方ない、一人で行くか...




桜:「○○くんっ」


○○:「桜さん。」


桜:「ひとりだと荷物とか、大変でしょ?
桜も行くよ」


○○:「でも...」


大丈夫だよ、

と一人でできることをアピールしたかったが、

正直ありがたかったので...



○○:「いいの..?」


桜:「うん。大丈夫!」



学校の外で桜さんと過ごすのは、

これがはじめてだった。


...帰りの方向も一緒なのに。




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○○:「まずは...ここだね」


駅前の大きなスーパー。

ここで余っている段ボールをいただく。


過去にも文化祭準備でお世話になってるから、

問題ないと真佑先生は言っていたが...



○○:「あの店員さんに聞いてみよっか」


桜:「うん...」


桜さんも僕も、モジモジタイプ。

ここは僕が動かないと...



○○:「あの...!」


店員:「すみません、少々お待ちください〜」


○○:「はい...」





○○:「たくさん貰ったね」


桜:「ってか、貰いすぎたよね...」


○○:「うん。重さはともかく、
持ちにくい...」


乃木高の最寄り駅には

大きいショッピングモールがなく、

次の目的地へは電車に乗らなければならない。


これを持って電車に乗るのは

賢い選択ではないが、

今学校に戻ると

全て買い終わる時間がないので..



段ボールを持ったまま電車の中へ。

どこかの男子高校生にジロジロ見られる。



桜:「桜も持つよ...?」


○○:「いや、だいじょ..」


桜:「あ。」
○○:「あ...」



思いがけず手と手が触れる。



○○:「ご、ごめん...///」


桜:「...」



いいとこ何にも見せられてない...

せっかく桜さんの厚意で

付き添ってもらったのに...



徐々に視線が集まってきた気がして、

僕らはすぐに電車から降りた。





乃木高の最寄りから8分。


マンションが立ち並ぶこの駅のふもとに、

お目当てのショッピングモールはある。


エレベーターに乗り、100円ショップへ。


二人の間に流れる沈黙…



ここで買うのは養生テープ。


数日前、紙製のガムテープを

持っていったときは、粘着力が弱いと

クラス中からバッシングを受けた。


高校生になったのも久しぶりなんで、

許してください…



桜:「あ、これかわいい〜」


桜さんが向かったのはコスメコーナー。



○○:「100円とは思えないくらい
おしゃれだよね」


桜:「うん。お目当てじゃないものも、
思わず買いたくなっちゃう」


良かった。少し笑顔が戻ってきた。



桜:「あれ?私たちって
なんでここに来たんだっけ?」


○○:「養生テープがほとんどないから、
10個以上…」


桜:「あ!これ劇に使えそうじゃない?」


思うがままに行動する桜さん。



○○:「待って…これはリメイクシート?」


桜:「舞台の背景に使えば、皆んながもっと
効率よく作業できると思ったの」


ヒノキ風の木目柄やレンガ調、ガラス風など…



和たち美術班のことまで

考えてくれてたなんて…


桜さんは周りのこともよく考えている…

僕なんかより。



○○:「すごいよ、桜さん!
僕一人じゃ思いつかなかった」


桜:「ふふふ、そうかなぁ…。
でも桜ね、今日お金忘れちゃったの…」


あぁ、そんな困った顔しないで…

可愛すぎるよ…///



○○:「大丈夫大丈夫。僕が払っとくよ」


桜:「本当!?今度なにかお礼するね」


○○:「いいよそんな…へへへ」



多分自分の笑顔は気持ち悪かったであろう。

抑えられなかった。



あと…買い物代は

後で学校側から支給されるんだけどね。





○○:「段ボールも持ちやすくなったし、
100均様様です」


僕が持ちづらそうにしてたのを

見かねた店員さんが、

透明なテープでぐるぐる巻きにしてくれた。


桜:「楽しかったなあ…
桜がいて、邪魔じゃなかった…?」


○○:「まさか!すごく助かったよ。
僕のほうがしっかりしてなくて…」


桜:「そんなことないよ」


○○:「いや…自信がなくて
決断するのも遅いし、ダメだよ僕なんか…」


桜:「ダメじゃない」


○○:「劇の演出やる資格なんかないよ…」



桜:「もぅ…面倒くさい!」


○○:「…え?めんど…」




桜:「桜が好きな○○くんは、
そんな男じゃない」


○○:「…!?今なんて…」



桜:「……はっ!なんでもない。忘れて…///」




僕をおいて学校の方へ走っていってしまった。



…感情がジェットコースター。


えーーっと…桜さんは

「そんな男じゃない」って言ってたけど、

もともと自分こんな人間ですよ…?


何が言いたかったんだろ…?



桜さんが置いてった養生テープと

リメイクシートが入った袋を持って、

一人でとぼとぼ歩き始める。


養生テープ、こんな重かったんだ…




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はぁ、はぁ…


駅から学校までの上り坂を、

全力で駆け上がる。

現実から逃げ出すみたいに。


もう、○○くんのばか…



彼の何でも包み込むような優しさ…


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桜:「あの、いきなりなんですけど...
夏のライブ、一緒に行きませんか?」


○○:「...えっ...?僕なんかと行っても...」


桜:「だめ、かな...?」


○○:「い、行きましょう。
行かせてください」

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はじめての会話でライブに誘った、

こんなぶっ飛んでいる私にも魅せてくれた、

その優しさに惹かれたのに…


あんなネガティブなところ、見たくないよ…




教室についたあとも、

帰るときまで彼を避けてしまった。




「一緒に帰ろ」って、

いつになったら言えるのかな、私…



「好き」は言えたのに…




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時は満ちた。

画面の中の歌姫だった、アルに会えるなんて…


??:「待っててね…今行くからぁ…♡♡」



何歳かな…未成年だったりして…

どんな顔なんだろ…可愛いんだろうな〜♡


あの子の全てを…

性格から何から、プライベートなことまで…

余すことなく、全てを知り尽くして…


誰よりも詳しい、一番のヲタになるんだぁ〜



そしていつかは…



??:「大好きだよぉ、アルたん…♡」




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金曜日。文化祭も一週間前だが、

明日はアルのオフ会だ。


何を話せばいいんだろ…そもそも

遠くから拝むだけで、話せないのか…?


オフ会はじめてだから、

なんにもわかんないや…



和も電車調べといてねーって人任せだし…


まあ僕の数倍忙しいのはわかってるし、

無理はさせられないからいいんだけどね。



車掌:『お出口は〜右側です』


よし着いた…疲れてるのか腰が重い…



あれ?あの人なんか落とした…

黄色いな…ひよこ?


○○:「すみませーん…」


??:「はい?」


○○:「これ、落としましたよ」


??:「あっ…谷垣源次郎!私の大事なもの
なんです、ありがとうございます〜」


たにがき…?



??:「失礼しました、
まずは自己紹介ですよね。
乃木女子高の池田瑛紗です。
...その制服は乃木高ですか?」


○○:「あっ、はい。○○です…」


瑛紗:「また会うことがあったら、
ぜひお礼させてください...!
学校に遅れそうなんで失礼しますね」



2次元から飛び出てきたのかな。

はじめて会ったときはそんな印象だった。


池田さんは急いで走り出したが…



○○:「まっ…待って…!」


瑛紗:「…?」



○○:「乃木女、
反対側じゃないんですか…?」


瑛紗:「あっ、こっちにあるのは
美大予備校だった…うっかり…」




池田さんとアルノは高校が同じである...

ただそれだけではなかったのだが、



このときの○○はまだ知る由もない。




#6に続く