707号室

そういうことがありました。その時に気がついてしまったんです。僕は好奇に曝されると、飛びついて噛み殺してしまいたい衝動に襲われる。だから、僕は眼を潰しました。怖かったです。誰かを傷つけてしまうかもしれない自分が恐ろしくてならなかった。あの人たちが僕を傷つけることなんかよりも、ずっとずっと。

泣いているのですか。どうしてあなたが泣くのですか。あなたは僕をああいう眼で見たことや、僕にああいうことをしたことはないじゃないですか。僕の右側の棚にティッシュペーパーがあるので涙を拭いてください。それから冷蔵庫の中に冷たいお茶があるのでそれを飲んでください。あと呼吸を整えて落ち着いてください。視えなくてもほとんどわかりますよ。聴こえていますから。

どうしてまた僕の所へ来たのですか。心配でしたか。それとも何かありましたか。話したくなければ話さなくたっていいです。あなたがどこでどんな風にこれまで生きてきたかなんて僕には関係のないことです。だけど、僕とあなたはあの日々に共に過ごした時間がありました。だから、あなたが何か打ち明けたいことがあるなら僕はちゃんと聴きます。

・・・

スッキリしたみたいですね。どうしてって、来た時とは声の大きさが違いますよ。それから言葉に詰まっていないのもわかります。淀みなく話していることがわかる。もうあなたの顔を視ることはできないけれど、なんとなく察することくらいはできます。それが確かなものかはわからないけれど。

僕は幸せですよ。今もあの頃も、ちゃんと幸せです。視覚を失ってもまだ得られるものがあるとわかりました。残っている感覚を使ってまだ生きていきますよ。あなたも、生きていくでしょう?年に一度くらい会いに来てください。あなたの声を聴いていると落ち着くみたいです。

はい。お気をつけて。さようなら。また。