静かな同棲

はあ…今日もよく頑張ったなあ…すごく疲れたな…と思いながらベッドに倒れ込む。と、天井から顔面へとムカデが落ちてきた。

こんにちは。こんにちは。なんなんですか。何がですか。どうして私の顔に落ちてきたんですか。顔を狙ったわけじゃないです。そうなんですか。そうです。いや、そうじゃなくてさ。なんですか。どういうつもりですか。怒ったりバカにしたりしないでくれますか。しません。おもしろくなるかもって思ったんです。えっ、どういうことですか。暗い顔してるなと思って。私がってことですか。ええ、そうです。えっ、元気付けたかったってことですか。ちょっと恥ずかしくなってきました。えーと、普通の人は落ちてきたらギャーってなって余計気分が沈んじゃうと思うよ。ええっ、そうなんですか。そうだと思います。ということは、あなたは普通の人ではないということですか。普通とはなんだろうか。それをムカデに訊きますか。一人言です。なんだ。ちょっと待った、逆に訊いてみたいな、あなたは普通のムカデですか。普通とは。まあ、そうなるか。はい。なんか食べますか。えっいいんですか。肉食でしたっけ。肉よりお水がほしいです。お水。お水。はい、どうぞ。ありがとうございます。どうですか。ふう、生き返りますね。わかる、お水は生き返るよね。あ、くだけましたね。だめですか。いいよ。あ、くだけた。ははは。ふふふ。

なかなか生きにくいよね。そうだね。こんなふうに共通言語があるといいのにな。本当にそう。ていうか暗い顔してるってどうしてわかったの、見てたの。見てた。そうか、見られてたのか。こっちは隠れていないと色々まずいんでね。そうだね。あのシューッてやつでやられたりバンッってやられたりする。言い方。でもそうでしょう。まあそうだね。あなたはなんでそうしないの。話せるから。そういえばなんで話せるの。わかんない。だよね。例えば私を殺すために落ちてくるならそれはちょっと考えるかもしれないけど、話さないと実際のことってわからないでしょう。うん。で、別に殺しにきたわけじゃないでしょう。うん、そういうつもりじゃない。そのうち殺しに来たりするの。あなたは殺さないよ。他のムカデが殺しに来るかも。水をくれたってちゃんと伝えとくよ。それってみんな来たりしないの。来るかも。それはちょっと。冗談だよ。なんだ冗談か。助けてくれてありがとう。助けてないよ、勝手に落ちてきたじゃん。水をくれた。水はあげた。何かほしいものあったりする。うーん、また暗い顔してたら落ちてきて。いいのそれで。いいよ。じゃあ、もし死んでも誰か来るように手配しとくよ。さらっと言うね。いつどうなるかわからないからね。

そういえば、この前あなたが振った人が来てたよ。えっ、マジ。すぐ帰ったけどね。そうかあ。気をつけなよ。わかった。あまりわかってなさそう。うん、あんまわかんない。そういうとこじゃないの。どういうこと。もし何か手に負えないほど困ったら逆に家に入れなよ。何故。総出する。今どんな表情なのそれ。内緒。萌えるわ。萌えるってどういうこと。内緒。何それ。ふふふ。

じゃあ気をつけてね。いや、気をつけることそんなにないよ。わからないじゃん、大きい動物が来るかもしれない。ここは大丈夫だよ。そうか。うん。また落ちてきてね。次はもっと驚かすよ。それは楽しみだ。殺さないでよ。気をつける。不安。冗談だよ。なんだ冗談か。

またね、おやすみ。おやすみ、また。