業の秘剣 第十二片 ッッ

暗い…



洞窟のようだ。はは、これは驚いた。

まさか穴が掘ってあるとはねえ。

とはいってもたかだか数歩の距離で先にさらに扉がある。

扉からは光がこぼれていたので足元は辛うじてみえた。


前の一人が先のドアにたどり着いたとき、真ん中の一人がつまずいた。


「ッッ」


これは驚いた。

この微かに漏れた声は女の声だ。


まさかこんな下町の夜中に異邦の…おそらく機の大都の…女が出歩いているとは。


三人が揃って全身を隙なく隠していたのはこのためか。





ともあれ、四人とも奥の扉の先の空間にたどり着いた。


円形の部屋で中心部の囲炉裏に火が灯っていた。

隙間風を感じて見上げると、天井に円形の窓がついていた。


部屋にはいくつかの木でできた丸椅子が無造作に置いてあった。


壁が曲線を描いて突き出していて、壁を背もたれに座れるようになっていた。

座りやすいように茣蓙が引いてあった。


黒いローブの三人は茣蓙の上に並んで腰掛けた。


まあ俺は、並んで座るわけにはいかないな、と思いつつ少し斜めにずれた位置の丸椅子に座った。


さて、と落ち着いたところで入ってきた扉の向こうから足音が聞こえた。扉をノックして一人の短く整えた髪の毛が特徴的な給仕人が入ってきた。


「失礼します。先に示し物を見せてください。」


前の男が立ち上がって給仕人に質問した。


「紙幣と金貨ならどちらを望む?」


給仕人の目が右に動いた。ふっ、俺もこの質問は少し戸惑ったな。


「えー…そうですね。紙幣があるのであればお願いします。」


前の一人は袖からまた別の小包を取り出して渡した。


「これで足りるかね?」


給仕人は目を左に動かしつつ渡された小包の分厚さを手で確認して言った。


「確認をします。この部屋は貸切にしますか?この金額なら貸切にできます。」


この給仕人は手慣れだったな…一言も金額を口にしなかった。

いくら包んでいるのかは知らないが前の男の口振りから少なくとも同等の金貨も別にあると想像できる。


前の男も一言も金額を口にしなかったな。


あいつらは紙幣の枚数なんか気にしねぇってとこか。

暗黙の金遊びってやつか、俺にはわかるようでわからない世界だね。


前の男が給仕人に聞いた。


「貸切じゃないとしたら誰が来るんだ?」


給仕人は愛想よく答えた。


「この円の部屋はパーティーの時に開かれますが、私の祖父である店主のはからいにより今夜特別に開かれています。


もし興味がありましたら、この付近で生業をしている芸人を部屋に入れることもできます。


どうしますか?是非とも芸人の余興を楽しむことを勧めます。」



きた!これは良い流れだ!

この酒場はなかなかとやり手のようだ。

どうせ芸人が芸で上げた金を差っ引いているんだろうが、芸人にとっては良い舞台よ。


俺の取り分が減るのは少し苛立つが、この流れは実に良い…


…金を手から手へ差し出す流れができるってもんよ…

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