業の秘剣 第十四片 ヘナ



(この完璧な話しざまは教育を受けているに違いない。


どの家の生まれだろうか?もっとも俺は家の名前なんてよくわからねえがな。


さて、この三人の関係に深入りする気はない。)



――目先の獲物を確実に狩ろう――


三人の結論は出た。芸人を招くそうだ。


給仕人が本題を切り出す。


「それでは、酒瓶とグラスを持ってきます。飴玉を添えて。」


しばしして、給仕人が酒瓶とグラス、加えて皿に乗った山盛りの角砂糖のようなものを運んできた。


給仕人が一言残して去っていった。


「ではお楽しみを…!」


俺は気分良く言った。


「へへ、なかなか洒落てるじゃねえか!早速始めるかい旦那方よ。」


前の男は角砂糖のようなようなものを手に取って物色していた。


少し皿にぶつけて砕いて、粉状になったものを口に少量含んで味を確かめた。


俺は前の男に聞いた。


「どうだいお味のほうは?俺も少し試させてもらうぜ。」


俺は前の男が砕いて粉にしたものを少量口に運んで言った。


「ははあ、これはきっと上もんのヘナの結晶だせ!そう思うだろお前さん。」


前の男はいつものように手短に答えた。


「そうだな。これは悪くない。少しばかしこちらの二人と話させてもらう。」


前の男は中の女と後の男と話し始めた。


(さて、こっからがちぃとばかし俺の腕の見せ所よ。)


俺はさっそく酒瓶から酒をグラスに注いで、ヘナ酒の結晶を手に取るとグラスに放り込む…と見せかけて袖に隠した。


「悪いが俺は先に楽しませてもらうぜ」


俺はヘナ酒でも何でもないただの酒を煽り始めた。


「はぁああ、これは良いぜ!上物に間違いないと踏んでいたが、大正解だ。さあ、あんたらも飲もうぜ。しかしこの酒は何処の酒だ?」


俺はあえて三人組側に置いてある酒瓶を持ち上げた。


「あー暗くてよく見えねえ、囲炉裏の火を借りるか…」


こうやって酒瓶を三人組の視界から隠れたところで袖に隠していた、ヘナの結晶を瓶に放り込んだ。


「かー、この酒瓶をみてもよくわからねえな、しかし良い酒には違いない。」


俺は酒瓶を三人組の前に戻しつつ加えた。


「さあさあ、早く始めようぜ旦那!これは間違いなく良い組み合わせだ。ちゃっかり俺が毒味もしたしな。」


前の男は同意したようだ。


「そのようだな。またとない機会だ。」


前の男は中の女と後の男に少し声を掛けて、ヘナの結晶を酒瓶に入れた。


結晶は瓶の中で少し発泡したがすぐ収まった。


前の男は中の女と後ろの男のグラスにヘナ酒…それもヘナの結晶が知らずに多めに入れられているヘナ酒を振る舞った。


前の男は中と後の男女に一声かけた。


俺が前の男に問いかける。


「なんでえ?あんたは飲まないのかい?」


前の男は答えた。


「ふふ、私はこの二人の通訳兼用心棒です。ヘナ酒に溺れるわけには行きません。」


(なるほど…そういうことか…少し三人の関係性がわかってきたぜ。だがまだこいつ等について気になることは山程ある。


おっと、深入りする気はないんだったな…でも考えが変わってきたぜ。)


俺は前の男改め通訳に聞いた。


「ところでよ、気になっていたんだが、あなたさんはこの太陽の都の生まれだろ?」


通訳は何故か上機嫌に答えた。

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