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限りなくオフに近いオン

年を取るごとに、冠婚葬祭等に出席する機会は増えていくものです。
そういう場では、いつも熱心に取り仕切って立ち働くおばさんがいたり、完全に電源をオフにして静かに佇むおじさんがいたりします。

子供の頃は、そんなおばさんやおじさんは、「そういう人」なのだろうと思っていました。
もちろん、「そういうタイプの人だから」というケースも多々ありますが、冠婚葬祭の回数も重ねて大人になって、ある時気づきました。
「今回の式で電源オフっているあのおじさんは、以前のあの式の時には采配を振るっていた」ということに。
単なる「その人の性質」ではなくて、列席者とのバランスや自分の立ち位置によって、「ここは立ち働く」とか「今回は控える」とか、調節しているのです。
集団における自らの役回りを把握して、その時々でエネルギーの出力を調整して。
人づきあいとは「そういうもの」なのかもしれませんが、なんという複雑かつ繊細で緻密な人間関係システム。

そしてわたしは振り返ります。
若い頃に勤めていた職場も、同じだったのだろうなあ、と。
会議で完全に気配を消していた中堅社員も、いつもぼんやりしていた嘱託のおじさんも、時代や立場や場面が違っていたならば、違う側面を発見することができたのかも。
ほんのわずかな時間を共有したに過ぎない自分には、その瞬間しか見えていなかったけれど、もしも長い時間を共に過ごしたならば、戦意喪失に見えた人たちが、見事に輝く瞬間を目撃することもあったのかもしれません。

そういうわけで、年を取って長い時間の中で回数を重ねてやっとわかる、ということが世の中にはあります。
自分から見える側面なんて、わずかに切り取られたごく一部で、氷山の一角よりもずっとずっと小さなもの。
そんなほんの一瞬の限られた一場面で、簡単に判断してはいけないのです。
こちらからは見えない、知ることのない多くの側面が、それぞれの背景に広がっているのだから。

ご来店されるお客様に対しても、店主のわたしにとっては店で見せてくださる姿しか知り得ませんが、その背景には思いもよらない人生があるのだろう、と想像しながら接しています。
noteでも、記事に書かれていない物語や事情があるのかもしれない、と思いを馳せるよう務めて読んでいます。

であるからして、もし皆様が当店にご来店された折に、店内が閑散としていて他にお客様が誰もいない、店主はヒマそうで気が抜けている、という状況であったとしても、心配ご無用。
あなたの知らない季節に、あなたのいない時間帯に、大繁盛の大賑わいのフル回転の「オンの瞬間」もあるのです。
……たぶん。
でもまあ、たいていはオフに近い静かな店内です。

なぜこんなことを必死で書くかといいますと、時々お客様から「失礼だけど、これでやっていけるの?」というご質問を受けるからです。
「滞在中、自分以外他に誰も来店しない店」が心配になる気持ちは本当によくわかります。
だから曖昧に笑って流しておりますが、店主というのはそういった言葉にわりとダメージを受けていたりします。

ひっそりと隠れるように森に存在する「限りなくオフに近いオン」状態の当店。
冬は(金)(土)(日)だけの営業です。
12月以降は冬季閉鎖する施設やお店がほとんどのこの地で、週3日だけでも営業していることに意味があり、当店の味わいは、むしろ静謐な冬にこそあるとさえ思っています。
それにこの時期は、夏の追いまくられる感じがなくて、副交感神経優位で、店主の精神状態も安定傾向。
とはいえ、雪の量と売上額にヒリヒリしております。

一見営業していないかのような、仮死状態にも思える静かな時間が流れる雪景色の中で、今日もぼーっとお待ちしております。


窓の外は白
ご近所の散歩コース

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