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ISと、最後の時まで運命をともにした立命館大元准教授

2016年にバングラデシュの首都ダッカで発生したテロ事件。爆弾や銃で武装した犯人グループがレストランを襲撃、日本人7人を含む20人が殺害された。テロの中心人物とされるのが、バングラデシュ出身で日本国籍の元立命館大准教授、ムハンマド・サイフッラー・オザキ容疑者。そのオザキ容疑者がイラクで拘束されている、とバングラデシュのメディアが5月20日付で報じた。

バングラデシュメディアの英語記事はこちら。

子供3人とともに投降

報道によると、オザキ容疑者は、IS最後の拠点になったシリア北東部バグズで、8人のバングラデシュ人とともに、クルド人などからなる対IS部隊「シリア民主軍」(SDF)に投降。3月13日に近くの町デリゾールに移送された。SDFはその10日後の23日にバグズ制圧を発表、ISの支配地域は消滅した。オザキ容疑者はその後、イラク北部のクルド人地域、スレイマニヤに移され、クルド地域政府により勾留されているという。

さらに、フジテレビが独自ニュースとして伝えたところでは、オザキ容疑者の子供3人も、容疑者とともにシリアで投降した。3人はその後、日本に入国したという。オザキ容疑者も子供も日本国籍保持者であり、原則として日本入国は可能だ。フジテレビは子供たちの入国を日本政府が「邦人保護の観点から」認めた、との見方を示している。

欧米や中東では、イラク、シリアにまたがるISの実効支配地に滞在し、ISの壊滅とともに行き場を失った自国人の処遇に頭を悩ませている。英国ではISメンバーの妻で、帰国を希望していた女性の市民権をはく奪したケースもある。

日本も、「ISに関係した人々とその家族の処遇」という問題から避けて通れないことが、オザキ容疑者の拘束報道をきっかけに明らかになったといえそうだ。

イラクで多数のIS関係者が勾留

オザキ容疑者については、今後、他の多くのIS戦闘員らと同様にイラクで裁判にかけられるのか、あるいはバングラデシュに身柄を送られ、テロ事件についても裁判にかけられるのか、現時点では見通せない。

現在イラクには、オザキ容疑者のように、シリアやイラクで拘束された多数のIS関係者が勾留されている。今年3月22日付のAP通信の報道によれば、少なくとも1万9000人が勾留、あるいはすでに判決を受けて刑に服している。すでに判決を受けた者は8000人以上いるが、残りの約1万1000人は、裁判の開始を待っている状態という。イラクでは、取り調べ官や裁判官の不足などが深刻な問題となっている。AP通信記者が傍聴した裁判では、30分以内で判決が下されたケースもあったという。

イラクで適切に裁けるか

死刑判決を受けた者は約3100人で、このうちすでに刑が執行されたのは少なくとも250人。だが、罪状の認定など裁判プロセスに問題があるケースも多いとの見方もある。国連は、「おざなりな裁判で、無実の罪を着せられる者を生み出す可能性がある」と警告している。

また、ISの暴力の犠牲者であるヤジーディをはじめとする人々の間では、透明性が低く、罪状認定の不十分な裁判で判決が下されても、ISの犯罪の再発を防ぐことにつながらない上、罪を償わせることにはならない、という不満もある。ISの性奴隷にされたヤジーディを支援する人権弁護士、アマル・クルーニーさんらが、ISの犯罪を裁く国際法廷設立などを訴えている大きな理由もそこにある。

国連は、ヤジーディにIS対する証拠収集作業を進めているというが、歩みは遅々たるものだ。国際法廷設立のメドはついていない。ISの犯罪を明確な証拠に基づき裁くことで、ISが行ったことを世界に知らしめ、歴史に記録することが、暴虐の再発を防止するためにも重要なことだ。プロセスの加速が望まれる。


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