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IS壊滅宣言の日に、改めて思い返したいこと

シリア北部でISの掃討作戦を続けていた民兵組織「シリア民主軍」(SDF)が、イラクとの国境にあるシリア東部の町バグズを制圧したと発表した。2014年6月にイスラム国家の樹立を宣言し、一時は、シリアからイラクにかけてイギリスの領土に匹敵する面積を支配していたISだが、これで支配地を完全に失った。

それは、ISの壊滅を意味するのだろうか。

米国をはじめとした欧米諸国は、ISの戦闘員になるため中東に渡った自国の帰還問題について頭を悩ませている。帰還を認めれば、彼らが自国にとって、国内テロ増加といった不安要因になるからだ。

英国は2月20日、帰国を望んでいるISメンバーの19歳の女性シャミーマ・ベガムさんの市民権をはく奪する方針を示した。シャミーマさんは、ISメンバー男性とのあいだに3人の子供がおり、マスメディアの間では「ISの花嫁」という呼ばれ方もされていた。

欧米の政府がIS戦闘員帰還問題に敏感になっているのは、自国民の利益を追求する中での当然のことだ。だから、これ自体、とやかく言うべきものではない。だが、これと同時に、同じぐらい、あるいはそれ以上に、力を入れて取り組むべき問題があるはずだ。

ISに捕らわれていた人々の捜索・救出

②ISに家を追われた人々の帰還・生活再建

③ISの犯罪を適切な形で裁く

主に以上の3点だ。IS「壊滅」にあたり、ムラード・イスマイル氏は言う。ムラード氏は、ヤジーディを支援する国際NGO「ヤズダ」の事務局長。昨年のノーベル平和賞を受賞した、ナディア・ムラードさんとともに、ヤジーディの支援に奔走している。その様子は、現在、日本で公開されているドキュメンタリー映画「ナディアの誓い」の中でも紹介されている。

”何千人ものテロリストたちは、天国のような自国から、イラクやシリアにやってきて、ヤジーディの男性を殺害し、女性を奴隷にし、子供たちを拉致した。今、この一部は、イラクやシリアで野放し状態にあり、自国に帰ろうとしている者もいる”


ISに1年以上にわたり占領されたイラク・ニナワ県シンジャール地方は、多くのヤジーディの故郷。だが、国内外の(避)難民キャンプに逃れた人々はいまだ帰還を果たせていない。ISの残党が「野放し」状態だとおそれているほか、医療施設を含めた生活インフラが再建されておらず、人々が再び生活できる状況にないからだ。

ヤジーディコミュニティの再建や、ISに性奴隷にされたヤジーディ女性たちの支援を行う団体「ナディア・イニシアチブ」の共同設立者、アベド・シャムディーン氏は駐イラクフランス大使とともにシンジャールを訪れ、ツイッター上に「受け入れがたく、恥ずべき基本サービスの欠如」とつぶやいている。

ムラード氏はさらに言う。

”ISメンバーの一部は、「シリア民主軍」に拘束されているが、誰も裁判にかけようと欲していない。数千人に及ぶ地元(イラク、シリア人の)テロリストたちは避難民キャンプにまぎれ込むか、あるいし故郷に戻っている。これはヤジーディコミュニティーにとって、想像できないほどの苦しみだ”


米トランプ大統領は2月17日にツイッターで、欧州諸国に対し、イラクやシリアで捕らえられた自国籍のISメンバーについて、国内で裁判にかけるよう求めた。

これに対して、ムラード氏は以下のようなコメントを返した。

”我々は、(それぞれの国内法廷で裁くのではなく)国際的な訴追メカニズムを求める。なぜなら、個々の国々は、そうした役割を果たすと思えないからだ。国連の調査チームの枠組みを拡大する形で国際法廷を設立する必要がある。集約的な仕組みなくして、正義を実現する方法はない”

イラクとシリアで、この4年の間に起きたことは、一万人とも言われる犠牲者を出したヤジーディたちにとって決して忘れられないことなのは言うまでもない。それ以外の世界のすべての人が絶対に忘れてはいけないことだろう。

ISの性奴隷にされ、生還したナディア・ムラードさんのドキュメンタリー映画「ナディアの誓い」や、ヤジーディの対IS女性部隊を映画化した「バハールの涙」の日本国内での公開が続いている。

また、書籍としては、ナディアさんの壮絶な体験をつづった「THE LAST GIRL」の日本語版が販売されている。

「壊滅報道」で、「この問題は終わり」とならないように。この悲劇が二度と起きないようにするにはどうすればいか、被害者救済に何ができるか。世界全体の人々が考えていくべきだろうと思う。


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