不倫という私的行為が持つ政治的意味--東京国際映画祭2018

東京では毎年秋に、2つの国際映画祭が開催される。

東京国際映画祭(TIFF)と、東京フィルメックス。フィルメックスのほうが、より作家性の強い作品が上映される。主宰の市山尚三さんの好みも色濃く反映されている。

TIFFは招待俳優、監督などによる「レッドカーペット」があったりして華やかな感じ。個人的には、総花的で特徴に欠ける面があると感じる。だが、上映本数が多く、選択肢が多いという点では、うれしい映画祭だ。

TIFFのスポンサーだった木下工務店が、今年からフィルメックスのスポンサーになったこともあり、この2つの映画祭をいっそ合併して1つにまとめてしまったら、という意見もでている。賛否両論があるようだが。「アップリンク」がアップしている映画記者による座談会でも論議を呼んでいる。

さて、今年の東京国際映画祭。中東地域に関係した映画としては、以下の4作品を鑑賞した。

「サラとサリームに関する報告書」(パレスチナ映画)

「冷たい汗」(イラン映画)

「ワーキング・ウーマン」(イスラエル映画)

「彼が愛したケーキ職人」(イスラエル映画)

私の中でのベストフィルムは、パレスチナ映画「サラとサリームに関する報告書」。監督はムアヤド・アラヤン氏。

「イスラエルとパレスチナの間の複雑な状況下にあって、不倫という行為が、私的領域を超えて、全く別な政治的な意味を持つ」ということを巧みなストーリーテリングで浮き彫りにした、というのがその理由。

パレスチナ治安機関の腐敗。イスラエル情報機関のパレスチナ人に対する過酷な取り調べ。イスラエルが作ったパレスチナ自治区を囲む壁の存在。イスラエル経済に従属せざるを得ない東エルサレムのパレスチナ人の生活実態。こうしたイスラエル・パレスチナの現状も、人間ドラマの中にしっかりと折り込まれていた。複雑にこじれた人間関係、社会をしっかり描き切った。今年のTIFFで最後にみた作品が、これでよかったと思った。

「アジアの未来」部門出品作のイラン映画「冷たい汗」は、実話をもとに、現代イランの女性の法的地位をめぐる問題を告発する作品。女子フットサル・イラン代表チームの主将を務める主人公が、別居中の夫が同意しないために、アジア大会決勝が開かれるマレーシアに行くための出国が認められない事態に陥る。

国営テレビの人気番組のMCを務める夫の執拗な妨害に対し、SNSなどを使って世論を動かし、事態を打開しようとする主人公の緊迫感あふれる対決が、真に迫る。

上映後のトークに、ソヘイル・ベイラギ監督が登場。この映画を作った動機について、妻が夫の同意なく出国できないといった「法律や、女性をめぐる国内状況を変えたかったから」と話した。

イラン国内でも公開されたという。当局により、映画宣伝をしないよう圧力をかけられたが、口コミやSNSで評判が広まり、観客数も順調だったという。検閲について監督は、「とても重要なセリフではなかったが、いくつか削除されられた」と打ち明けていた。

イスラエル映画特集の4作品のひとつ、「ワーキング・ウーマン」。ミハル・アヴィアド監督作品。不動産業界に転職して実績をあげていく女性が、上司の執拗なセクシャル・ハラスメントを受けながらも、自分の道を切り開いていく。地中海沿岸地域に高級マンションが次々と建設され、それをユダヤ系の富裕な外国人が買っているという、イスラエルの今の一側面も描かれていた。


やはりイスラエル映画特集で上映された「彼が愛したケーキ職人」。独ベルリンとエルサレムを舞台に、同じ男性を愛した男と女の話。お菓子作りで貢献してくた好人物ではあるが、夫の不倫相手である男を、妻は果たして許せるのか、というとても重たい問題。コシェル(食事規定)、シャバット(安息日)といったユダヤ教の戒律も取り上げつつ描いていく。食べ物が人と人との関係に与える影響の大きさも強く感じた。

来年はどんな作品がやってくるか、今から楽しみにしている。

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カフェバグダッド

中東(オリエント)の奥行きの深さを、文化、歴史を交えて日本に紹介していきたいと考えています。近くて、遠い、両者の関係を深める助けになるんじゃないかと思います。旅をしている気持ちになれるようなエッセイも、トラベル情報を織り込みながら書いていきます。

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