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ぐるっと地中海、欧州からアラブ、トルコまで、海の幸料理の10皿

「地中海料理」というと、イタリア、スペインといったヨーロッパの国々の料理を連想するのが一般的かも知れない。だが、地中海の南から東にかけては、いわゆるアラブ圏やトルコといった「非欧州」の地域である。ではこの地域の料理が、食文化で欧州と隔絶しているのか、というともちろんそんなことはない。それぞれ独自性を持ちながらも、何か一つ「通底」するものがあることは確かだろう。

シリアの知人で、「私は地中海人だ」とまず言った人がいた。人間のことででいえば、「地中海」を自分のアイデンティティの基礎に据えている人は、結構多いのではないか。

①イワシのマリネ(トルコ)

まずはトルコ西部の港街チャナッカレで食べたイワシのマリネ。チャナッカレは、黒海からマルマラ海を通って地中海に抜ける出口の地峡部に位置する交通の要衝。第一次世界大戦で連合軍と枢軸国側のオスマン帝国軍が戦った「ガリポリの戦い」の古戦場にも近い。酢で身が締まるからなのか、イワシはくるっとカールして出てきた。トルコ料理の前菜の定番といえ、安定のおいしさだ。

チャナッカレではもう一つ、ゆでたタコの足というのを味わった。中東や東欧でよく使われる香草ディルが上にのっていた。

トルコ人もタコを食べるんだなあ、とちょっとした感動を覚えた記憶がある。ただ、「トルコ人はタコを食べない」という見方もあるようだ。

私が食べたのは、外国人観光向けタコだったのかも知れない。この辺については、機会があったら、ぜひ確かめてみたいと思う。

②スズキの蒸し焼き(レバノン)

次はトルコの南、いわゆる東地中海の国レバノン。首都ベイルートの魚に併設した「食堂」で食べたスズキの蒸し焼きの味は忘れられない。

レモンと一緒に蒸すが、あとは塩のみというシンプルな味付け。だからこそ、白身のおだやかなうまみが口の中にひろがっていく。レバノンのスーパーでは、生ウニが売っているのを見かけたこともあり、レバノン人は魚介類をよく食べる。庶民的な店は値段もリーズナブル。写真の「サマクマク」は、レバノン在住のトルコ系ドイツ人の知人に教えてもらった店。おすすめである。

③寿司(イスラエル)、マグロ丼(エジプト)

海の幸が豊富な地中海沿岸では、寿司や刺身といった日本料理の浸透が早い気がする。レバノンの南、イスラエルは、周辺国と比べて、比較的早く寿司レストランが拡大したように思う。

写真のサーモンはさすがに地中海産ではないだろうが、地元のネタも結構導入されているのではないか、と思う。

エジプト・カイロの日本料理店では、地中海マグロを仕入れた時は、「鉄火丼」がメニューに登場した。比較的お手頃価格の「中落ち丼」もあり、地中海のマグロのうまさに舌鼓を打ったものだった。

④魚フライ(エジプト)

エジプトは一番長く暮らした外国の国であり、魚料理もそれなりに食べた。③で紹介したように、生のマグロなどを食べさせる寿司屋もどんどん増えてきてはいる。

それでも、エジプトで魚というと、火を通したものが中心だ。首都カイロのアラブ連盟通りに「カッドゥーラ」という有名なフィッシュ・レストランがあった。地中海に面したエジプト北部アレクサンドリアに本店を構える店だ。

一階の入り口近くにさまざまな魚介類が展示されていて、そこで魚を選んで調理法を指定する。焼いてトマトベースのソースをかけて食べたり、フライにしてレモンを絞って食べたりする。オーダーは基本1キロ単位なので、量がかなりガッツリ。大勢で行ってワイワイ食べるのがおすすめだ。

⑤焼き魚(チュニジア)

地中海に突き出たイタリア半島の先にある北アフリカの国チュニジアでは、焼き魚が思い出深い。

日本と違うのは、前出のレバノンのスズキ焼きと同様、レモンを絞って食べるのが一般的ということ。大根おろしではなく、フレンチポテトや、焼野菜をペースト状にしたチュニジア名物「焼きサラダ」、それほど辛くない青唐辛子が添えられていた。

⑥タコの足(アルジェリア)

チュニジアの西、アルジェリアで食べた魚介料理で忘れられないのは、ゆでたタコの足とハーブを刻んであえた前菜。これもレモンが添えられていた。多分、タコはかなり小ぶりのものではないかと思う、吸盤の部分も含まれていて、コリコリとした食感が面白かった。

⑦魚介グリルプレート(モロッコ)

少し地中海からはずれてしまうのだが、モロッコは地中海にも面している国ではあるので、なにとぞ、ご容赦を。モロッコ・カサブランカの大西洋に面したレストランで、ワンプレートの「魚介定食」を食べたことがあった。

大きな魚をとった際に網にひっかかった小さな魚や小エビを焼いたもののようだった。豪華な魚介料理よりも、こういった現地の食文化が垣間見られるような庶民的な香りのするもののほうが、自分の口には合うなあ、と常々思うのだ。

⑧シラスの揚げ物(スペイン)

さて、ようやくヨーロッパへ上陸する。スペインは魚介類を使った料理がさまざまあり、魚好きの日本人にとっては、食を楽しむ旅行先としてかなり魅力的だろう。

スペインで食べたさまざまなシーフードの中で、思い出に残っているのは、スペイン南部グラナダの広場に出ていた露店のような食堂で食べたシラス揚げ。8月のまだまだ暑いスペイン。ビールのつまみとしては最高だった。ただし、最近スペインで食されるシラスは、ほとんどが中国産だそうで、地中海産シラスはなかなかお目にかかれないようだ。

⑨イワシのパスタ(イタリア)

イタリアもスペインに負けず劣らず外食で魚料理が楽しめる国。挙げるとキリがないが、シチリア島で食べたイワシのパスタは印象的だった。

松の実、干しぶどうの甘さと、焼きほぐしたイワシの身の香ばしさがハーモニーを奏でていた。またシチリアに行って食べたい味の一つだ。

イタリアから東には、バルカン半島地域やギリシャなど、かなり気になる地域が残っているのだが、残念ながら、行ったことがない。今後の課題だ。

⑩ムール貝のご飯詰め(トルコ)

そうして、トルコまで戻ってきた。トルコに行った際、数ある魚貝料理の中で必ず、といっていいほど食べるもの、それは「ミディエ・ドルマス」というムール貝のご飯詰めかも知れない。

イスタンブールの目抜き通りの露店のようなところでも売っているし、居酒屋の前菜のメニューにも必ず、といっていいほどある。ご飯を食べられる、という意味でも、捨てがたいシーフードだ。

ムール貝をフライにした、まさに「串カツ」といえるものもある。こちらは当然ながら、ビールにとても合う。

地中海の海辺の街は、さわやかな風を受けながらぶらぶらと街歩きするのが楽しい。それに彩りを添えるのが、地元産の魚介類を使った「食」だ。そこで暮らしている人たちが普段使いしているような、予約も必要ないような店に、ふらりと入って、その土地にしかないユニークな料理と出会えたら、旅の楽しさはぐんと増大するだろう。

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