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ISに参加した外国人を、どの国や機関が裁くべきなのか

イラクやシリアの一部を数年にわたり占領し、住民を殺害したり性暴力をふるったりしたISのメンバーに法の裁きを受けさせるーーこれは被害者たちに共通する強い願いだ。だが、遅々として進んでいない。

国際特別法廷の設置や、国際刑事裁判所(ICC)で裁判を訴える声は国際社会に存在はする。例えばスウェーデンのダムベルグ内相は、国際法廷をイラクかシリアに設置すべきとの考えだ。

「殺人、テロ犯罪、戦争犯罪、人道に対する罪…これらは免責されるべきではない」。2019年6月、欧州各国の専門家が集まった会議で、ダムベルグ内相は訴えた。

だが、残念ながら、こうした意見が、大きなうねりになってはいない。

また、ISに参加し、その後帰国した欧州各国の国籍を持つ元戦闘員らの裁判も進んでいない。イラクやシリアの現場から遠く離れた欧州で証拠などを集めるのがとても困難である、ということも一因だろう。

犯罪が起きた現場である国はどうだろう。8年にわたる内戦が続いているシリアに、そうした余裕はなさそうだ。国内に様々な問題を抱えながらも、相対的な安定を得ているイラクだけが、IS関係者の裁判を行っている。

以前、以下の記事でも触れたが、イラクは2019年4月までにIS関係者約1万9000人を拘束し、うち約3000人にイラク国内の裁判所で死刑判決を下した。

ただ、このイラクでの裁判の進め方に関し、疑問を投げかける声も少なくない。

AFP通信のサラ・ベナイダ記者が、興味深いレポート(2019年6月26日付)を書いている。AFPはフランスの通信社であるため、特にフランス国籍の元ISメンバーを被告とした裁判を多く取材したという。

ベナイダ記者によれば、イラクで行われている裁判の目的は、「被告がISに所属していたかどうかを結論づけること」だった。その理由について記者は、「ISはテロリスト集団に指定されているため、イラクの法律では、そのメンバーであるだけで十分に死刑に値するからだ」という。

イラクの司法は、ISが行った具体的な犯罪には関心がなく、もっぱら被告がISメンバーであることを認定して、判決を出し続けている、ということのようだ。

「テロ組織に所属していることを証明するのは、個別の犯罪の証明よりもずっと簡単だ」。ニューヨーク拠点の国際人権団体「グローバル・ジャスティス・センター」のアキラ・ラダクリシュナン代表は、ニュースサイト「ニュー・アラブ」に対して語った。

確かに、個別の犯罪行為について証拠を集め、それを立証するのは、とても手間がかかる作業である。2014年8月に、ISがイラク北西部シンジャール地方を攻撃してヤジーディを多数殺害した行為についても、物的証拠集めはまだ端緒についたばかりだ。

これも、上にリンクをつけた拙記事で紹介した内容だが、国連の調査チームはイラク政府などの協力のもと、2019年3月にシンジャール地方の集団埋葬地での遺骨収容作業を開始し、5月27日までに、79か所中12か所での調査を終了した。今後、遺骨のDNA鑑定を行うという。

イラクの司法当局が、「ISメンバーと認定して死刑判決を下す」ことを主眼とした裁判を進めている背景には、IS参加した人々の出身国が、彼らの帰還を受け入れることに非常に消極的であるということがある。出身国の側からすると、ISの元戦闘員を受け入れることは、自国の治安の不安要因であるからだ。

ベナイダ記者によれば、イラク当局は、外国人のIS元戦闘員の裁判を買って出ているのだという。「その見返りとして被告1人当たり200万ドル(2億2000万円)」を要求しているというのだ。

これが事実かどうかは確かめるすべがないが、もし事実とすれば、外貨を稼ぎたいイラクが、IS帰還兵を受け入れたくない国々の足元をみている、ということなのだろうか。

ドイツのテレビ局「DW」によると、シリア北部のクルディスタンには、74人のドイツ国籍のIS関係者が勾留されているという。ドイツの連邦検察局はこのうち21人にテロ組織支援や戦争犯罪容疑で逮捕状を出している。

しかし、同メディアによると、ドイツやフランスは原則として、IS戦闘員の訴追や裁判を、犯罪の起きた国、つまりイラクやシリアに委ねる方針だという。

家族や親族をISに殺されたり、奴隷にされたりした人々は、ISが犯した犯罪を正当な手続きで裁いてくれることを願っている。亡くなった人の命は戻らないが、「犯罪者が法のもとで裁かれ、罰せられる」ことが、遺族にとってのせめてもの救いになる。

中東の少数派でISによって多数が殺害されたり、性奴隷にされたりしたヤジーディの在ドイツ女性組織「ヤジーディ女性評議会」は2019年5月、ドイツの司法当局と内務省が、ドイツ国籍のIS関係者のドイツ受け入れや訴追を拒否している不服として、そうした態度を改めるよう求め、訴えを起こした。

原告側弁護士は「(ドイツ当局が、ドイツ国籍のIS関係者の)ドイツ送還を拒否している。(だからIS関係者の)処罰が遅々として進まない」と、ヤジーディたちの不満を代弁している。

イラクやシリアの一般国民にとっても、外から入り込んだIS関係者が行き場を失い、国内にとどまり続けるというのは、悪夢のような状況だ。現在は拘留されているとしても、もし彼らが自由の身になったとしたら、国内に不安要因を抱え込むことになってしまう。

ISの暴虐の後始末を、すべて現場の国に押し付けてしまおうとする態度は、欧米の中東地域での過去の無責任なふるまいと同様、将来に大きな禍根を残すことになるだろう。

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