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ISがイラクとシリアで復活の兆し…税金徴収、車爆弾テロ増加

米国防総省(ペンタゴン)の監察官室は、7月16日に発表したレポートで、イラクとシリアのISの活動について「復活してきている」と警告した。

今も戦闘員数は推定1万8000人

ISは今年3月に、シリアの民兵組織「シリア民主軍」(SDF)がイラク国境の町バグズをから奪還したことで、支配地を完全に失ったとみられていたが、息を吹き返しているというのだ。支配地を再び獲得したわけではないというが、レポートによると、ISは現在も、最大で1万8000人の戦闘員を擁しているという。2018年8月時点の推定3万人よりは少ないとはいえ、事実とすれば、相当な人数にのぼる。

レポートは、その背景として、「トランプ大統領のシリアからの軍撤退表明」「米イラン関係緊張」といった中東をめぐる変化を指摘している。米NBCによると、イラクでのISの活動を監視する米軍の偵察行動が減少しているとの専門家の指摘もある。

自動車爆弾テロは10か月で42回

米国のシンクタンク「戦争研究所」が7月に発表したレポートによると、ISは自動車爆弾(VBIED)による攻撃能力の再構築を進めている。

シリア北部ラッカ、イラク北部モスルといったISが撤退した都市などのレストランや市場でテロ事件を起こしている。2018年8月から2019年6月にかけて少なくとも42回、自動車爆弾による攻撃を行ったとみられている。

イラクでは、特にISに対する住民の支持が比較的強い5つの地域での活動を活発化させている。「ザアブ・トライアングル」と呼ばれるニナワ県南部とサラハッディン県北部にまたがる地域や、ディヤラ県などだ。

再び領土支配の可能性も

ISは、2018年5月にザアブ・トライアングルでザカートと呼ばれるイスラム教で定められる税金の徴収を開始。その後、ディヤラ県やニナワ県の他の地域にも拡大させた。

戦争研究所は、ISがイラクとシリアで、再び領土を獲得して支配することを目指しているとし、仮に米軍がシリアから撤退すれば、それは成功する可能性がある、とみている。

イラク北部とシリア北部といった、かつてISが支配した地域が、今も「安定せず、安全でもない」ならば、ISのゲリラ活動の拡大は避けられない、と戦争研究所はみる。そうした地域の不安定さを具体的に示す具体的な情報をトルコのクルド人ジャーナリスト、ムトゥル・チュビルオウル氏が、米ネットメディアの「ディフェンス・ポスト」に語った。7月にシリア北部にシリア北部にある、IS戦闘員の妻や子供などが収容されるホル難民キャンプを取材した。

チュビルオウル氏の話

国連によるとホル難民キャンプの人口は7万人以上。うち3万人がISメンバーの妻や子供。出身国は62か国に及ぶ。夏の暑さは厳しく、過酷な環境で暮らしている。下水が路上にあふれ、非常に不衛生だ。

制御きかない危険状態

治安面では、制御がきかない危険な状態だ。数週間前、(キャンプを管理する)クルド治安部隊員が刺された。頭髪を隠していなかったアゼルバイジャン人の14歳の女性が殺害された。
キャンプの住民は外に買い物に行くことを認められていたが、住民が逃走する事件が何件かあったり、ISの女性が人身売買関係者に連行される事件もあったりして、最近、住民は外出を禁じられた。その代わりに、キャンプ内に「バグズ市場」という名前のマーケットが設けられた。(バグズは、ISの最後の拠点になったシリア北部の村の名前)
IS関係者の心境はさまざまだ。例えばエジプト人のある女性は、私に罵声を浴びせ、ISを支持するスローガンを叫んだりした。ロシア系のIS戦闘員の妻は、自分たちがしたことを後悔していなかった。一方、あるトルコ系の女性はとても後悔しているようにみえ、家に帰りたがっていた。

子供がISの中核になるおそれ

キャンプの多数派は12歳以下の子供たち。不衛生な環境で暮らしている。彼らは過激思想から脱却する必要があるが、そうした機会はない。専門家によるカウンセリングなどのサポートが必要だ。このままだと彼らは母親に洗脳され、数年のうちにISの中核メンバーになってしまうおそれがある。
(シリア北部で拘束されている)数千人のIS戦闘員、(キャンプにいる)妻や子供、こうした人々が、(シリア北部のクルド人地域を実効支配する)自治政府の負担になっている。国際社会の助けが必要だ。自治政府は国際的に認知されていないが、ある法律専門家は(IS戦闘員を裁く)国際法廷をシリア北部に設置することは可能、という見方を示している。

「IS支配の後始末」を

チュビルオウル氏の説明でも分かるように、多くのIS戦闘員とその妻、子供がシリア北部やイラク北部に取り残されるように滞在を続けている。彼らの裁判を実施し、認められた者は故国に帰還させることが必要だ。IS戦闘員を多数送り込んだ欧州諸国などは、自国の安全保障を優先させるあまり、こうした負の遺産を放置してはならない。「IS支配の後始末」を適切に終わらせないと、いつまでもイラクとシリアのISの残滓を一層することはできず、不安定な状況は続く。ペンタゴンが警告したように、むしろ事態が悪化する可能性も高まっている。国際社会は、こうした現実を知り、もっと関心を寄せるべきだ。イラクとシリアは、IS支配の再来というシナリオに進むこともありうる、重要な岐路にある。





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