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苦しいほど好きだった君へ #2

こうしてカップルとなった私たち。

空いている日が被れば、よく2人で遊びに行った。
映画、テーマパーク、博物館、水族館、動物園、温泉
大学生だからこそ、空いてる平日にそれができた。
カフェでコーヒーを買って、公園のベンチで2時間も3時間も話をして。
手を繋いで、笑いながら過ごす1日はずっと幸せだった。

優しくて、誠実で、世渡りが上手で、気が強い君。
だらしなくて、一途で、依存性で、気が強い私。
血液型も同じ、好きな食べ物も似ていて、性格もそっくりな私たち。
喧嘩もそれなりに多かった。
吉祥寺駅の目の前の、大きな交差点の目の前で言い合いをしたこともあったし、神保町の交差点で信号が青なのに2人で立ち止まって言い合いをしたこともあった。
嫉妬をたくさんして、その度に電話で仲直りして。学生っぽい恋だった。
それでも別れたいと思わなかったのは、本当に好きだったから。
苦しいほど好きだった。
君も"こんなに喧嘩しているけれど、別れたいと思ったことは一度もない""大好きだよ"と言ってくれた。
それだけで充分だった。


家は同じ路線の、全く逆方向。2人とも実家暮らし。
電車で1時間半を結ぶ距離。
会えないことも多かった。
だから、会った時くらい穏やかにじゃあねと言いたいのに。
些細なことで言い合いになってしまう。
毎回バイバイと手を振るときに泣いてしまうのはなぜ?

そんな時に訪れた、世界的な感染症の大流行。
学校に行けない日々が続き、それぞれの家の過ごし方があって、返信が減った。距離も遠くなっていく。
緊急事態宣言という、前代未聞の言葉に会える頻度が毎日から2ヶ月に1度に減ってしまった。
遠いけど、電車に乗れば1時間半で届く距離なのに。
電話やzoomも、家族がいるときはできないから。
平日の昼間しかチャンスがなかった。

久しぶりに会ったとき、私のタイプに近づこうと20kgも痩せて現れた君。
相当努力したことがすぐにわかった。
家も真反対なのに最寄りの近くまで電車で送ってくれる君。
私の誕生日には、手書きの手紙をくれた。字にするのがすごく苦手だと言っていたのに。
そういうところが、すごく好きだった。
苦しいほど好きだった。

少し感染症が落ち着いた頃、友人カップルとホテルに泊まってオールで飲み会をすることになった。
ワクチンの副作用で病み上がりだった私。
でも私はお酒が大好きで、おまけに酒癖も悪い。
君がいる目の前で、超ハイペースに飲んでしまった。

予想はできていたけど、体調不良になった。
友人たちはすごく心配してくれたけど、君は明らかに不機嫌で。
"俺、自己管理できない女嫌いなんだよね"
初めて、君のことを怖いと思った。
今思えば、確かに私が悪い。
あまり記憶はないけれど、勝手に飲みすぎて、勝手に暴れて、体調不良になったのだから。

そこから、明らかに君の態度が冷たくなった。
LINEの返信は1日以上返ってこなくなったし、電話しても不在ばかり。
会っても携帯ばかり見てるし、相槌も結構適当。
私はお酒をやめる覚悟を決めて、それも君に話した。かなり反省した。

君の態度は少し冷たくなくなったけれど、前よりは気持ちが上の空というか、そんなふうに見えた。

その日から1ヶ月経った頃、私はもうたまらず君にイライラをぶつけてしまった。
反省したし、どうしてこんなに冷たい態度をとられるのか、その時の私にはわからなかった。
君のことが好きすぎて、どうにか私だけを見て欲しくて、たまらず

"今とこれからのことを、電話でちゃんと話したい"
と送った。
君も"そうしたい"と言ってくれた。


その電話は、今までの不満とあの日のことが中心だった。
私はもう一度謝ったし、お酒をやめると誓った。
君は納得はしてくれなかったけど、受け入れてくれた。
夜7時から始まった電話は、夜中の3時まで続いて。
"俺は、今までにこんなに好きになった人はいないし、別れたいとは思わないよ"
最後にこんな言葉を残して、おやすみと言って電話を切った。
私はその場で崩れ落ちて、嗚咽した。
もうダメだと思ったから。
この関係を続けたくても、叶わないと思っていたから。
まだ彼女でいられる安心とこんなことになった申し訳なさで感情が溢れて、我を忘れて泣いた。

のに。

その3日後、"今週どこかで電話したい。なるべく早く"
嫌な予感がした。
なるべく早くという言葉に、少しでも遅らせようと粘ったけれど。結果その次の日に電話することになった。

予想通り、別れ話だった。

目の前が真っ白になって、台本も考えて、絶対に冷静に話そうと思ったのに、ちゃんと嗚咽してしまった。

"俺はあの日から、ずっとそのことを引きずっていて、優しくできない"
"それはお互い嫌な気持ちをして、喧嘩が増えるだけだよ"
"別れた方が、お互いのためになると思う"

君は最後まで真面目だった。
別に冷たい態度を取られても、嫌だけど、それでもしがみついていたいくらい好きだったんだよ。
この時は、君の最後の言葉の意味を理解できなかった。
私にとっては、別れること自体、すでに私のためではないから。

付き合ってから1年10ヶ月。たくさんの思い出も、動画も、写真も全部残っているのに。
"それでも簡単に別れられるの?"
思わず電話で言ってしまった。
おそらく、君も電話の向こう側で泣いていた。


夏の終わりとともに、私たちの関係も、終わってしまった。



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