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嗚呼、職人の出張 〜新潟編〜 part2

かくして、はからずも背水の陣で挑むことになった新潟出張である。
予算的にはガソリン代と出店費を支払えば手元に残るのは数千円ということになる。

ここで、イベント出店時にお客さんに渡すお釣りどうするんだ問題が発生する。
千円の商品を万札で支払われたらお釣りが渡せない。
しかし金銭的に追い込まれた人間の心理として、「無いもんはしゃあないやん」開き直る気持ちがひょっこりと。
(運営のかたすみません、、、。)

とにかくさっさと売って、お釣りは収益から確保すればいい。
この日のために新商品の試作品もたくさん作ったのだ。

お釣り問題は棚上げにして、無事に会場へ到着する事を最優先として出発だ。

片道500キロを超える道のりを下道で走る。これは予算うんぬんの問題とは違う。
考えられぬ話ではあるが、将来私が経済的に余裕を持った人間になっていたとしても下道を使う。
ゆっくりと各地の空気を味わい、夜は田舎の露天温泉に浸かりながら星空を見上げる。
これを贅沢と言わずになんと言うか。

高いお金を支払って新幹線などで高速移動をする、いわゆる「時間をお金で買う」行為を私は良しとしない。
今の私には、その短縮した時間で新幹線代以上の収益を上げる事ができない。
いや、未来永劫そんな日はやってこないだろう。
一体世の中のサラリーマンの人たちはどうやって2〜3時間で数万円も稼ぎ出すのだろうか。

それはともかく、今回は2日間かけて会場へと向かうので、富山あたりで車中泊をする予定だ。
前述の通り資金がないので、食事は主に自炊でまかなう。

せっかくだから、夜は海岸を眺めて歩きながら、お気に入りのプレイリストを再生するのもいい。
もしかすると、富山名物であるホタルイカが海面でゆらめきながら発光するさまを見られるかもしれない。
翌日は夕方早い時間に会場近くへと到着し、ゆっくり温泉に浸かる予定である。
素晴らしい。われながら素晴らしい計画だ。
資金が不足していようと楽しめる。それが旅なのだ。

そして、今回の目的地である燕三条界隈は、かつて自転車旅で訪れたことがある土地なのだ。
野宿明けの朝、延々と広がる田んぼの先から昇る美しい太陽に心を鷲掴みにされていたのだ。

たまたま東京で運営の方にお会いして誘っていただいた時から、「またあの素晴らしい朝日を眺められる!」というのが一番の楽しみであった。
それが嬉しすぎて、イベント出店のお誘いに対しては、「ぜひとも!」と二つ返事をした。

そうして2日がかりで燕市に再訪した私である。まずは広大な田園風景の中を散歩する。はるか向こうに見える山脈にはうっすらと残雪が。
美しさもさることながら、その懐かしさはかつての親友に再会したような喜びであった。
非日常の時間だったからなのか、たった数年前の出来事がひどく昔のことのように感じられた。

そんな懐かしい喜びに動かされ、夕日を眺めながら少しジョギングをすることにした。
田園を抜けて川沿いに出ると、下流方面の山に夕日が隠れそうだった。「あの山の向こうまでいけば、夕日が沈むのが見られるかも、、、」とさらに遠くへ。
「もうちょっと、もうちょっと、、、、」を繰り返して、ついに絶景ポイントが現れたと思ったらそこはなんと海岸だった。

海に沈んでいく夕日を見送って帰路についたのだが、日が沈むととてつもなく空気が冷えてきた。
4月中旬とはいえ、桜のピークもこれからという時期に短パンでのランニングは早すぎたのだ。
マップで道の駅までの道のりを調べてみると、6キロ先であった。

「遠い、、、」

明日はいよいよ出店。温泉にはいってゆっくり寝よう。

つづく

みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。