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孤独探索

敬愛する星野道夫さんの著書、『旅をする木』の中でも特に好きなのが、自然の中へ一人きりで入り込んでなにかを感じとるシーン。

誰も知らない絶壁の入江であったり、氷河の山々に囲まれた雪原であったり。
それは情報に溢れた日常から離れて、純粋に自分の内側から湧いてくる想像力が取り戻せる場所だという。

僕にとってのその場所のひとつは、京都府某所にある棚田の上から眺める夕日である。

学生時代から10年近くにわたって幾度となく訪れている場所で、いつも一人で夕景を眺めては、ぼんやりと考え事をする。
それがなにより大切な時間なのだ。

しかし、時を経るごとにカメラを携えた人たちが多く訪れるようになった。
もちろん公共の場所なので、ここからの景色を独り占めにしたいと思うほうがわがままなのであるが。
とくに田植えの時期は、水をはって鏡のようになった田んぼと夕日を撮りに来る人が増える。

それでもやはり、ぼんやりと物思いにふけるにあたって、「一人きり」であることは重要なのだ。
周りの人を蹴散らすわけにもいかないので、一人好きな私は必然的に後退を余儀なくされた。

だがお気に入りの場所からのこのこと撤退するだけの私ではない。
さらなる新天地を求めて動き出した。

目指すは夕日が美しく見える棚田のさらに上に広がる山の斜面。
地すべりがおきた跡のような、木々に覆われていない草地らしき場所が確認できる。
登山ルートでもなさそうな山の斜面ならば、きっと夕景を独り占めにできるに違いない!と意気込んで、ルートを探る。

獣害対策の網を越えて山に入り、目測を誤って斜面をさまよい、トゲ地獄に襲われながらもついに私はたどり着いた。

だれの目も気にすることなく、夕景を独り占めにできる場所。
今までよりも高いところから1秒でも長く落陽が見える景色。
自分だけが見ている角度からの光景。

いやはや、まことに素晴らしい。
景色も素晴らしいが、探求心と行動力にあふれた私もまた、素晴らしい。

周りの人を蹴散らしてまで場所を独り占めするなど言語道断であるが、その気持ちは大事にすればいいのだ。

みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。